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    えんどう

    @usleeepy

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    えんどう

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    ##食べる話
    ##5001-9999文字

    ぐだおが作ったカレーを王様が食べる話▽ぐだおが作ったカレーを王様が食べる話です
    ▽はじめてのカレー礼装で興奮してできた話ですが礼装は全く何も関係ありません
    ▽ぐだキャスギル





     月に二度。少なければ一度、食堂に緊張が走る日がある。その日は早朝からサーヴァントを中心に大勢が列を成し、整理券の配布を待って一喜一憂する。清姫や静謐のハサンなどは夜も明けきらぬうちから食堂の外に並ぶという。
     月に二度の特別な日。そう、厨房に我らがマスター、藤丸立香が立つ日だ。
     元々は、自分がやれることがあるなら手伝いたいと、そんな健気な思いつきから始まったこの『マスターの日』。ただの手伝いが包丁の使い方を覚え、火加減について学び、不格好ながらひとつのメニューを完成させた日から始まったこの日は、マスターの作った一品がメニューに加わる。これをマスター贔屓のサーヴァント達が見逃すはずもなく、限定三十、多くても五十ほどの料理はあっという間に食べ尽くされる。もっと量を、品数をという声もあるが、マスターの腕が物理的に限界を迎えてもいいのかと厨房を取り仕切る者達にばっさり切り捨てられている。そうでもしなければあのお人好しのマスターは、自分の腕の限界も省みずに作ってしまうだろう。英断だ。
     かくして限定三十食の一品を求めるサーヴァント達が形成する列を横目に、ギルガメッシュは厨房の中が見える席についてコーヒーを啜る。慣れた苦味と酸味が喉を滑り落ち、腹の内側を温める。
     厨房の立香は、頭に白い布を巻いて何やら一生懸命に切っているようだった。三十食ではおよそ希望者全員を満足させられる数ではないが、少ないかと問われればそうでもない。それなりの量の材料を用意しているはずだ。今真剣に切っているのもそのうちに入るのだろう。
     ギルガメッシュは、立香の料理を食べたことがない。食べないわけでも食べたくないわけでもないが、他の英霊達と同じ列に並ぶなどできようはずもなかった。ギルガメッシュにとって料理とは何もせずとも捧げられるもので、いちいち求めたりなど生まれてこの方したこともない。否、旅の最中では自ら食糧を集めたこともあるが、それはそれ。基本的には供されて当然のもの。
     立香に一言、「食べたい」と言えば立香は大喜びで作るだろう。だがそれもギルガメッシュの矜持が許さない。ここまできて矜持も何もあったものではないような気もするが、そう簡単に譲れないものでもある。
     だから今まで一度も口にしたことはなく、無事整理券を得ることができた者達が喜ぶのを、手に入れられなかったものが悔しがるのを遠巻きに眺めるばかりだった。
     今日もその、整理券の配布が行われたのだろう、わっと歓喜する声と、項垂れて吐き出す溜め息が同時に聞こえてきた。毎度毎度、よくもまあそのように喜べるものだと感心する。…………これは嫉妬などではない。繰り返す。これは嫉妬などではない。断じて。
     
       
     
     食堂の妙な熱気が収まる頃には、席に座る者もまばらになっていた。皿を洗う音が厨房から聞こえてくる。そろそろ立香は解放される頃だろう。遠くで何をか話す声がして、立香が顔を覗かせた。こちらへ向かって手を振ってくるのを追い払うように手を振り、コーヒーカップを持ち上げかけて中身が既にないことに気づき、皿へ戻す。話す声は立香と紅閻魔だろう。
    「――王様!」
     厨房を出た立香が呼ぶ。横目で見れば両手に一枚ずつトレイを持った立香がこちらへ歩み寄ってきた。トレイは自分用の昼食だろうが、多すぎではないだろうか。
    「よいしょっと」
     かたん、かたんとテーブルに二枚のトレイを置いた立香が当たり前のように向かいに座る。ふたつのトレイには、カレーライスが一皿ずつ乗っていた。本日の限定メニューだろう。ここまでずっと食堂の中を漂っていた匂いの正体。
    「王様、昼は?」
    「まだだ」
    「よかった、じゃあこれ」
     すすす……と立香がトレイの一枚をこちらへ押して滑らせる。これを食べろということだろう。
    「……我は並んではおらぬが」
    「余り物ですよ。遠慮なく食べてください」
     軽くそう言うと、立香は手をあわせて「いただきます」と一言、カレーを食べ始める。ギルガメッシュの前にはカレーの乗ったトレイ。
    「作ったオレが言うのもなんですけど、美味いですよ。王様の舌にあうかは解りませんけど」
     言い終わって、口を大きく開けた立香はカレーを白米と共にスプーンで掬い、口に運ぶ。もぐもぐと咀嚼するのを見、もう一度トレイに視線を落とす。そこにはカレーがある。ジャガイモや人参、玉葱などの野菜と、サイコロのような肉がざっくり大きく切られ、形を残したまま茶色に馴染んでいる。
     食べたくないわけではなかった。立香の時代の食糧にも興味はあるし、厨房の者達が文句を言わないのだから味の保証もされている。何を躊躇うことがあるだろう、と思う半分、立香に見透かされたようで座りが悪くもある。
    「…………」
     皿を見つめて考え込むギルガメッシュは、立香がチラチラと様子を窺っているのにも気づかない。
    「……冷めちゃいますよ?」
    「む……」
     声をかけられてようやく、ギルガメッシュは立香を見、カレーを見、スプーンを手にとった。
    「………………」
     カチャ、と小さな音を立てて茶色いカレーと白飯を掬い、銀のスプーンを口内へ滑り込ませる。香ばしい数種類のスパイスの香りと、煮込まれた野菜や肉が染み込んだような素朴だが深みのある味、最後に仄かに舌を刺す辛味。一緒に掬い上げた白飯を噛めば辛味が少し和らぎ、それでも味は衰えず旨味を残す。材料の切り方などには多少大雑把さが見られたが、丁寧に時間をかけて作り込まれた味がした。
    「…………どうです? 味」
     ごくんと飲み込んだギルガメッシュに、立香が窺うように問う。
    「…………及第点だ」
    「んへへ」
    「気色の悪い笑い方をするでない」
     二匙目を口へ運ぶギルガメッシュを見る立香は眉尻まで下げてにへにへと緩んだ顔をしている。褒めてはいないのだが。
     立香から視線を外すと、立香のトレイに白い液体の入ったコップが乗っていることに気づく。透けない真っ白な液体は牛乳だろう。
    「カレーに牛乳……?」
    「あいますよ。辛さを中和してくれますし。飲みます?」
    「いや……」
     遠慮しておこう。ギルガメッシュが見る前で立香は平気な顔をしてコップの中の牛乳を飲む。口の端へついた跡も舌舐めずりの要領で舐めとる。そういえば温泉から上がった時に飲んでいたのも牛乳……コーヒー牛乳ではなかったか?牛乳が好きなのだろうか。普段から飲んでいるようではなかったが。
    「そんなに見つめなくても……気になるなら飲めばいいじゃないですか」
    「よい。構うな」
    「まあまあそう言わず」
    「…………一口だけだぞ」
     ニヤニヤというかニコニコというか、とにかく緩んだ笑顔の立香が牛乳の入ったコップをギルガメッシュのトレイへ置く。存在は知っていたが口にしたことはない。白い液体を見下ろし、ちらりと立香を見る。ニッコニコのいい笑顔で、何がそんなに嬉しいのかと問いたいほどだった。
    「先にカレー食べた方が解りますよ」
     コップへ手を伸ばしかけたギルガメッシュに立香が言う。溜め息をついてそれならばとカレーを一口。先程と同じ味だ。咀嚼して、飲み込む。
    「牛乳牛乳」
    「急かすな、解っておるわ」
     得体の知れない白い液体を、けれどここで恐れるような素振りなど見せるわけにはいかないと、ぐいと呷る。冷たい液体はどろりとはしていないが何やらもったりしたような、生前口にしたヤギの乳とはまた違う乳臭さを伴って口内を満たし、喉から胃の腑へと落ちていく。確かに、辛さは紛れた……ような気がする。
    「どうですか?」
    「……………………まずくはない」
     好んで飲むかと問われれば否と答えるだろうが、飲めないものではない。立香のトレイへコップを返し、ギルガメッシュはカレーに匙をつける。立香は相変わらず緩んだ顔でギルガメッシュを見、
    「王様、ここここ」
     己の顔の一部を指す。口の端。そういえば先程立香が飲んだ時にはそのあたりへ残っていたのだったか。示された箇所をぺろりと舐めれば立香は親指を立てて満足気に笑う。何故立香がそんなに満足気なのかは解らないが、あまりにも満足気だったので触れずにおいた。

       
     
     銀色のスプーンが皿に触れてかちりと小さな音を立てる。一口分の白飯と、煮込まれてカレー色になっている人参とがスプーンの上に乗り、持ち上げられる。スプーンが向かう先は形のいい、薄めの唇。掬ったカレーライスが開かれた口のその奥に消えるのを、伏せられた眼を縁取る淡い金の睫毛を、自分も皿からカレーを掬いながら窺い見る。一口ごとに、彼が今食べているのは自分が作った料理であると叫びたいようなむず痒い気持ちになる。自分の作ったものが彼の血となり肉と……はならないけれど、魔力の一部くらいにはなるかもしれないと思うとこれもまたむず痒い。見つめる立香と目があったギルガメッシュは『なんだ?』と言いたげな顔をするので笑ってごまかすと、呆れたように目を逸らされた。呆れながらでも立香の作ったカレーライスを食べるのはやめない。
     月に二度、時間が取れない時は一度、立香は厨房に立ち、昼食を作らせてもらうと決めていた。もちろん、その日以外にも手伝いはしているが、その日は立香がメインで昼食のメニューを考え、作るのだ。元々は何もできない自分が少しでも役に立てるならと始めたお手伝い程度のものだったが、今ではみんな立香の作る昼食を楽しみにしてくれているらしい。今日も盛況だった。
     月に二度ほどの立香が厨房に立つ日、皆が列を成して待つその列に、ギルガメッシュが並ぶことはなかった。並ぶわけがないと立香も思うし、並んでいたら目を疑うし、ギルガメッシュの体調も心配する。
     けれど、並ばないから興味がない、とも言えない。ギルガメッシュは月に二度か一度のその日、必ず昼食時間には食堂にいる。厨房の様子が見える壁際の席で、何を注文するでもなくひとりで座っている。たまに視線を感じるから、立香が動き回る様を眺めたりもしているのだろう。
     はじめはそれで充分だった。気にかけてもらえているというのは嬉しかったし、鬼のような忙しさでそれ以上立香の方が気にすることができなかった。それでもいつか、食べてほしいとは思っていた。
     そして今日。昼食のメニューをカレーにすると決めた時、同時にギルガメッシュにも食べてもらおうと決めた。なぜ、など理由は特にない。ただ食べてほしかった。おいしい、と言ってくれたら最高だけど、それは高望みというものだろう。とにかく食べてほしい。食べさせたい。というわけで、半ば無理やりカレーを押しつけた。余り物、などと言ったけどもちろん嘘だ。立香の分ともう一人分、あらかじめ避けておいたのだ。どうしても食べてほしくて。
     だから今、とても満足しているし幸せだ。目の前のギルガメッシュはカレーを食べているし、初めて牛乳も飲んだ。口の端に白いヒゲを作っていた顔など可愛いとしすぎて心臓が爆発するかと思った。
     人もまばらになり騒がしさも落ち着いた食堂で、遅い昼食をふたりで。この時間を幸せと言わずして何が幸せだろう。
    「牛乳まだいります?」
    「もうよい。それより麦酒はないのか。この辛味には麦酒があう」
    「あると思いますけど、このあと王様もシミュレーションに行ってもらうので、ダメです」
    「………………」
     きっぱりと立香が切り捨てればギルガメッシュは不満気に立香を見つめる。麦酒程度でギルガメッシュが酔っ払うとも思わないが、そこはケジメのようなものである。
    「睨んでもダメですよ」
    「………………どうしてもか?」
     チッ、と小さく舌打ちしたギルガメッシュは、今度は小首を傾げて顎を引き、上目に立香を見つめてくる。今舌打ちした人とは思えないが、いつもより開いたまるい真紅の瞳は、元々ほんのり幼さの残る顔を更に引き立てて……つまりは可愛い。
    「ゔっ……そんな可愛い顔してもダメです。他の人に示しがつきませんよ」
    「チッ」
     聞こえるように舌打ちされた。
    「そんなに飲みたいなら終わったあとでもいいじゃないですか」
    「たわけ。この料理にあうと言っているのだ。美味い料理に美味い酒。今飲まずしていつ飲む」
     とは言うものの飲むこと自体は諦めたようで、大人しくカレーを食べ始めた。もぐもぐと顎を動かす顔もかわいい。
     ではなく。
    「⌇⌇⌇⌇⌇⌇っ」
     立香はぐっとスプーンを握りしめる。ギルガメッシュを見れば不貞腐れたような顔でカレーをもぐもぐ食べている。及第点、と、先に言われたその言葉だけでも充分だったのに。
    「どうした? 食べぬのか」
    「⌇⌇⌇⌇食べます!」
     けろっとしているギルガメッシュは、立香の反応を楽しんでいるようでもないから、作った言葉ではないのだろう。時々こういうことをするから心臓に悪いのだこの人は。
     ばっくんばっくん鳴る心臓を押さえつけるようにカレーを掻き込む立香を、ギルガメッシュは不思議そうに見、立香の気も知らず「あまり焦ると詰まるぞ」などと呑気に言うのだった。
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