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    えんどう

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    えんどう

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    ▽VD2018

    ##VDの話
    ##第三者がいる話
    ##5001-9999文字

    ぐだおが記憶喪失になる話▽セミ様のVDイベの頃に書いた話です
    ▽ぐだおが王様のことを忘れます
    ▽思い出します
    ▽ぐだキャスギル





     立香がカカオに頭をぶつけた。諸々の事情は省くが、ぶつけたのである。ぶつかったと言う方が正確だろうか。何がどうしてそうなったのかは解らないし解りたくもないが、どこからともなく高速で飛んできたカカオの実がモロに立香の頭へ直撃し、倒れ込むのを傍にいたギルガメッシュが慌てて受け留めれば気を失っていた。その場にいた全員が驚き慌て、一部始終をモニタ越しに目撃したマシュは泡を食っていた。立香を案じて我も我もと集まってくるサーヴァントたちへ立香を抱えたギルガメッシュは作業の続行が立香のためになると説き指示を飛ばして、自ら医務室へ運んだのが数時間前のことである。なかなか目を覚まさないのは疲労のせいもあるのだろうということではあったが、打撲以外の目立った外傷がないのは幸いだった。マシュは死にそうな顔をしてずっと立香の傍にいたが。その場にいて守れなかったことを悔いているのだろう。たかがカカオだが、真面目な彼女のことだ。気に病んでいることなど想像に難くない。壁に背を預けて二人を見ていたギルガメッシュは嘆息して口を開く。
    「マシュよ、貴様が責任を感じてどうする。あの場に貴様がいたとて結果が変わるとは限らんだろう」
    「解っています。でも、わたしは先輩の盾なのです。わたしが先輩を護らないといけないのに、わたしは……。……わたしがいれば……っ」
    「何だ? その場にいたのに何もできなかった我を責めているのか?」
    「! そんなことは決して……!」
    「であれば貴様が責任を感じるのはお門違いというもの。そも貴様がいればなんとかなったかもしれないなどと思うこと自体が思い上がりも甚だ――」
     ギルガメッシュの言葉は、立香の呻き声で遮られる。弾かれたように振り向くマシュと同時にベッドを見れば立香が身動いで目を覚ますところだった。
    「先輩」
    「マシュ……?」
     起き上がる立香にせんぱーい!と叫びながら抱きつくマシュと、状況が飲み込めていないらしいきょとんとした立香。立香は疑問符を浮かべながらマシュの背中を撫でる。
    「先輩ご気分はいかがですか? お怪我は? あっ、頭ですよね……痛みますか? 頭は大丈夫ですか?」
     矢継ぎ早に質問するマシュは自分が微妙に失礼なことを言っているのに気づいていない。それに対して苦笑いしながら大丈夫大丈夫と返している立香は一見すると異常はないように見えた。無事意識を取り戻したことに二人に隠れて安堵する。
    「――というわけなのです。皆さんとても心配して……あ! わたしダ・ヴィンチちゃんを呼んできますね! 先輩はちゃんと休んでてください!」
     ひとしきり心配し、怒濤のごとく事のあらましを説明したマシュはぱたぱたと足早に医務室を駆け出し、嵐の後の静けさのように静まり返った医務室に残されたギルガメッシュは立香を見遣る。気まずそうにしているところからして、自らがやらかしたことは自覚しているのだろう。壁から離れてベッドへ歩み寄ったギルガメッシュは腕を組んで立香を見下ろす。見上げる目は明らかに狼狽えていた。
    「この――」
     す、と息を吸う。
    「――大莫迦者がッッ!!!!!!!!!!!!」
     びりびりと空気が震え、立香はびくっと肩を跳ねさせた。
    「カカオごときに頭をぶつけて気絶するとは何事か! この軟弱者! 戦場で気を抜くなと常日頃から言っておろう! まあ此度は戦場ではなかったが……これが戦場であれば今頃死んでおったかもしれんのだぞ! もっと気を引き締めて事に当たらぬかこの莫迦者!」
     怒鳴るギルガメッシュを、立香は困惑した表情で見上げ、ギルガメッシュに睨まれ慌てて目を逸らす。マシュから説明はされているのにまだ状況が飲み込めていないのか。そこまで愚鈍な男ではなかった筈だが。逸らされた立香の目は再度視線をあわせることもなく泳ぐ。反省しているのとはまた少し違う、ただただ当惑した表情に気勢を殺がれる。
    「何だ貴様、腑抜けた面をしおって……」
    「あの……えっと、すみません。……あの、その……心配?させたみたいで……、運んでくれてありがとうございます……。……その、本当に、申し訳ない、ん、です、けど……」
     立香の態度が、妙によそよそしい。心配などしていない、と言い返すのも忘れて視線をあわせない立香を見下ろす。いつも真っ直ぐに見つめてくる晴れた日の海のような瞳はこちらを見ない。何かが、おかしい。
    「すみません……どちら様でしょうか?」

     検査の結果、立香は一部の記憶が欠けていることが判明した。それ以外に異常は認められないのだが、一部――キャスターのギルガメッシュに関する事柄だけがまるで穴でも空いたかのようにすっぽりと抜け落ちていたのだ。霊基一覧で確認し、他のサーヴァント全員のことは記憶していたにも関わらず、キャスターギルガメッシュについては何も思い出せないと言う。アーチャーの方は認識していることから、本当にキャスターのギルガメッシュのことだけを忘れていた。ウルクでの出来事も、彼にまつわる部分だけが曖昧だった。
     どうすれば記憶が元に戻るかは解らない。同じく記憶を失った某ライダーがあれこれ動き回っているうちに思い出したことから、立香も何かの拍子に思い出すのではないかと考えるほかなく、チョコレート収集作業へ戻ることになった。マスターである立香がいなければ現場が回らないというのもある。身体や意識に異常がないのであれば立香が作業へ戻るのは当然だったし、本人もそれを希望した。ギルガメッシュのことを忘れた程度では、何の支障もなかったのだ。
     そして初対面――ということに立香の中ではなっている――で怒鳴り散らされたことで悪い印象を与えたのは明白だったし、以前からギルガメッシュはカルデアにいたのだと説明を受けても、立香がギルガメッシュに対する緊張を解くことはなかった。そうなれば気心の知れた相手の方が共にいて安心するのは当然の流れだろう。マシュや酒呑童子、フランケンシュタインらと共に庭園へ戻っていく立香を見送るダ・ヴィンチから事情だけでも説明しようかとも言われたが、断った。説明されてすぐ納得できるようなものではないし、説明程度で補えるようなものでもない。あれは立香が経験して得たものだ。記憶がないのであれば意味がない。立香は忘れてしまったのだ。これまでのすべてを。
    「……なにもそこまでしなくてもいいんじゃないかい? 記憶を取り戻すきっかけになるかもだぜ?」
    「見知らぬ者と同室では立香の気も休まらぬであろう。また彼奴に倒れられでもしたら他の凡英霊どもがうるさくてかなわん」
    「ずいぶん立香君想いだこと」
    「たわけ。小間使いの体調管理をするのも王の努めよ」
     勝手に造り替えた立香の自室は元の状態に戻しておいた。ダ・ヴィンチへカードキーを渡し、代わりのキーを受け取る。最初に宛てがわれた部屋は、幸いまだ空き部屋だった。立香がいるかいないかの違いなど、大した問題ではない。大した問題ではないのだ。

     その日以降、立香に遭遇することは極端に減った。戦闘にも滅多に喚ばれないし、会ってもどこかよそよそしい。ギルガメッシュただ一人のことだけ忘れてしまった手前、気まずさもあるのだろう。気を遣われるのも面倒で、なるべく顔をあわせないようにした。部屋へ戻っても当然立香はいない。内装は同じように改造したが、部屋にいても立香が帰ってくることはないし、立香が待っていることもない。思いの外、部屋は静かで、ベッドは広かった。一人寝には広いのかもしれない。
     これは――ああ、あの頃と同じだ。今や懐かしさすら感じる、カルデアに召喚されたばかりの頃。あの時もギルガメッシュは立香を避けていた。近づかせないようにわざと冷たい態度を取っていた。今回のはそれとは状況が違うのだが、あの時はどうやって過ごしていたのだろうか。いずれウルクで出逢うから、と、そこに一縷の望みを懸けていたようにも思う。であるならば、今はそのような望みはない。立香の記憶がいつ戻るのか、そもそも戻るのか、何も解らない。ただあてどない茫洋とした時間があるだけだ。レムナントオーダーが発生しているせいで、未来視もはっきりしない。
     広いベッドに一人横になれば、胸にぽっかり穴でも空いたかのような空虚感が襲ってくる。こんな感覚は以前なかったように思う。この感覚は、どうすれば消えるのだろうか。
    「…………寒いな……」
     傍らにあった立香の熱は、いつも高かった。

     立香が記憶を失ってから、三日が経った。その間喚ばれたのは数回ほどあったが、ねぎらわれはするもののそれは他の英霊たちと同じような扱いで、思っていたより今まで立香に厚遇されていたことを知った。今更知ったところでどうなるものでもなかったが。今日も立香はチョコレート集めに勤しんでいるのだろう。立香が記憶を失くすまでは毎日駆り出されていたから、いい骨休めにはなった。サーヴァントになってまで過労死はしたくない。いや、死にはしないのだが、あの仕事量はできればこなしたくはない。今頃弓の方の己は周回に駆り出されているのだろう。そう思えば溜飲が下がるような下がらないような、微妙な気持ちになった。思い出さないようにしよう。
     立香に下賜するためにと用意したバレンタインの宴は、この分では不要になりそうだ。
     立香と共に在れるのであれば、とんちきな祭り事でもこの王を愉しませるには充分だった。生前は玉座が居場所と定めていた己が立香とあちらこちらへ旅をし、その度に妙なことに巻き込まれるのは愉快だった。立香の指示に従って敵を屠るのも悪くはなかった。時折クラス相性を間違えるのは勘弁してほしかったが。立香とならば窮地であっても愉しめた。のだが。
    「…………立香」
     ぽつりと呟けば胸の穴がしくりと痛んだ気がした。この穴はどうすれば埋まるのだろうか。唯一無二の友を喪った時の喪失感とは比ぶべくもないが、それとも違う、この、欠落感は。
     しかし、これでよかったのかもしれない。いずれ立香はギルガメッシュとの時間を忘れていくだろう。それが少し早まっただけだと思えばいい。あまりに唐突過ぎて少し戸惑っただけだ。少し。そう、ほんの少し。
     とりあえず眠ってしまえば余計なことを考えずに済む。そう思って寝の体勢に入った、が、瞼を閉じれば浮かんでくるのは立香の顔ばかりで、あの馬鹿みたいに明るい笑顔だとか、一度だけ見せた泣き顔だとか、時折見せる情けない顔だとか、戦場での真剣な顔だとか、交わる時の、必死でギルガメッシュを求める顔だとか。まったくこれでは眠れそうにない。意識的にそれらを消し去り、今度こそ眠ろうとした、その瞬間だった。
     ガチャとロックが解除される音がして半身を起こす。勝手にこの王の部屋に入る不敬な輩がいるとは――
    「――王様!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
     叫び声と共に駆け込んできたのは、立香だった。と思う。聞き覚えのある声と、白と黒だけが見えたから反射的にそう思ったのだが、ベッドへいたギルガメッシュへダイブしてきたので顔を確認していない。確認していないままベッドへ押し倒され、身体が沈む。そこでようやく己の身体にしがみつく何かを確認すれば、癖毛でぼさぼさの黒髪が見えた。白いシャツとベルトの感触もある。立香であることには間違いないだろう。だいたい、このような暴挙に出るのが立香以外にいてたまるか、とも思う。以前の立香であれば、だが。
    「王様、王様……! すみません、ごめんなさい、許してください、ごめんなさい、ごめんなさい、王様を忘れるなんて」
     何事かと思えば立香は早口にまくし立てる。これは、どうやら。
    「立香、貴様記憶が……?」
    「戻りました、ごめんなさい王様、ギルガメッシュ王、オレが貴方のことを忘れるなんて……!」
     そう、か。戻ったのか。
    「ごめんなさい、オレ、王様にひどい態度を……」
     沈んだ声で本当に悔やんでいるのが解る。知らず詰めていた息を吐いた。過ぎてみればたかが三日だが、終りが見えなかっただけに長かったようにも思う。その三日間は、胸の奥にじくりとした何かを植えつけていた。それが立香の記憶が戻ったという事実で、その体温で溶かされていくのが解った。存外己は単純らしい。
    「よい。木の実ごときでこの我のことを忘れるなど不敬ではあるが、貴様のせいではない。不注意は改めねばならんがな」
     言えば立香は顔を上げて情けない顔を晒した。今にも泣きだしそうだ。軽く額を弾いてやれば「いてっ」と声を上げて顔を顰める。三日ぶりの立香はやはり体温が高い。触れているところがあたたかい。のしかかられているので重くはあったが。
    「でも、やっぱり……ごめんなさい。一番忘れたくない人のことを忘れるなんて……」
     もう一度顔を伏せた立香は胸元へぐりぐりと頭を押しつけてくる。ぱさぱさと髪が触れてくすぐったい。一番、と言われるのは当然だったが、それでも得々たる気分になるのは単純にすぎるだろうか。
    「よい。赦す」
    「部屋にも戻ってきてくれますか」
    「貴様がどうしてもと言うのであれば、考えてやらんこともない」
    「戻ってきてください。どうしても。王様のいない部屋に耐えられる自信ないです」
     ダメならオレがここに居座ります、と言われて思わず笑う。求められるのは悪い気分ではない。くしゃくしゃと立香の髪を乱しながら己の口許が緩んでいるのを自覚する。
    「周回にも、ついてきてください。編成組み直しますんで」
    「ふむ。よもやライダー相手ではあるまいな? このクラスで現界した以上、我にもクラス相性というものがある」
    「バーサーカーなので大丈夫です。…………なるべく間違えないようにします」
    「であれば、赦す」
     二度と間違えないでほしいのだが、このいつまで経っても間抜けたマスターには酷なことだろう。
    「立香。面を上げよ」
     伏せていた顔が上がる。先程よりはマシにはなったが、それでも情けない面には変わりない。その顔を両手で挟む。
    「お、王様?」
    「なに、三日ぶりの貴様の間抜け面よ。よく見ておこうと思ってな。よそよそしい顔はもう見飽きたわ」
     両手に力を込めてむにゅ、と潰せば間抜け面が更に間抜けになってギルガメッシュは思わず吹き出した。それを見た立香がようやく笑う。その顔も非常に不細工だったが。
     手を離せば立香が身体を起こし、真上から見下ろしてくる。光を背に見下されるのはよくある、が、逆光で影になっていても立香の蒼の双眸から光が失われないことを好ましいと思っている。あの時、ちらりともこちらを映そうとしなかった深い蒼は、今ギルガメッシュしか見ていない。
    「王様、ごめんなさい。もう絶対忘れませんから」
    「そうか。……そうぬかしておいて、明日またカカオに頭をぶつけねばよいがな」
    「気をつけますから! 本当に」
     苦笑いする立香の首に両手を回す。引き寄せる前に顔が近づいてきて目を閉じかけて、やめる。その顔を見ていたかった。三日ぶりなのだ。たった三日だが、途方もない時間にも思えたのだ。見ていたかった。立香も目は閉じなかったため、間近で目があった。立香は眉尻を下げてから、笑みの形に歪める。こうして触れあうのも、三日ぶりだ。今の時刻は昼を過ぎたところか。夜まではまだ時間がある。このあとも収集作業に戻るのだろうが、今夜は覚悟しておけ、と心の中で告げた。三日間、休まされただけの体力は充分にある。


     それから数日間、カルデアでも庭園でもギルガメッシュにつきまとう立香の姿が目撃された。つきまとうなどというレベルではなく、抱きついてしがみついていることすらあった。当然のごとくギルガメッシュが怒鳴り散らすが立香が離れる気配もなく、周囲は呆れながら見守るしかなかった。二人がじゃれあっているのは常のことであるし、今回は事情が事情であるだけに皆やむなしと判断したのだろう。むしろあの三日間の方が気が気ではなかったくらいである。ようやく、日常が戻ってきたのだ。

     夜、王がいる立香の自室。ベッドで横になり背を向けているギルガメッシュに立香は後ろから抱きついてその背に顔をうずめていた。
    「王様」
    「なんだ」
    「ごめんなさい」
    「またそれか」
    「何度でも言いますよ。ごめんなさい」
    「赦す、と言っておろう」
    「ごめんなさい」
    「……赦す」
    「ごめんなさい」
    「赦す」
    「ごめんなさい」
    「赦す」
    「……こっち向いてください」
     手に持っていた端末を置き、溜息と共にギルガメッシュは寝返りを打って立香と向かい合う。その穏やかな表情からしても怒ってなどいないだろう。元から、怒りなどしていなかっただろう。立香は、記憶を失っていた間のことも覚えている。目の前に立つこの人が誰だか解らなかった奇妙な感覚も、冷たい態度を取ったことも、ダ・ヴィンチからギルガメッシュが黙って部屋から引き上げたと聞いても何の感情も湧かなかったことも覚えている。だからあの日怒鳴られた時のことも覚えている。あの時はただただその迫力と知らない誰かからの恫喝ということに驚いて萎縮してしまったけれど、あれも今にして思えば怒ると言うよりは立香を心配する言葉だった。この人は、一度も怒ってなどいないのだ。
    「ごめんなさい」
    「赦す」
    「……キスしてもいいですか」
    「…………特に赦す」
     あの時、知らないと言われた時ですらこの人は怒らず、ただ、ひどく傷ついた顔をした。あんな顔、見たことなかった。――もう二度と見たくない。
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