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    えんどう

    @usleeepy

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    えんどう

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    ▽○○しないと出られない部屋その①

    ##3001-5000文字

    どちらかが泣かないと出られない部屋▽○○しないと出られない部屋その①
    ▽ぐだキャスギル






     目が覚めたら、そこは何もない白い部屋だった。
    「…………………………ん?」
     床で寝ているらしい立香は、真っ白な天井に瞬きをする。瞬きをしても、目に映るのは真っ白な天井。どうやらここは寝る前にいた自室ではないようだ。「またかー」などと思いながら上体を起こす。
     こういうこと……目が覚めたら自室でない場所にいることは、稀によくある。皆に『レムレム』と呼ばれるアレだ。アレは立香の意思と関係なく発生し、問題を解決するまで戻れない。さて、今度はどんな大冒険をするのだろう。
     ――と、思ったのだが。
    「目覚めたか、立香」
     いたく耳慣れた声がして、視線をそちらへ向けると、全てが白に統一された室内で一際色を放つ王が立っていた。その表情は険しい。
    「あれ? 王様? ということは、これ王様の……?」
    「夢、と言いたいのであろう? 残念だが違う。貴様も我も眠ってはおらぬ。これは現実よ」
    「現実……じゃあなんでこんなとこに……? ……オレ達、部屋にいましたよね?」
     立香は確かに自室で、いつものようにギルガメッシュと並んで眠った。はずだ。そこまでの記憶はある。しかし、目を覚ましたのは自室ではなく、この何もない部屋でだ。
    「さてな。我にも解らん。……この我の寝込みを狙うとはいい度胸だ」
     仁王立ちのギルガメッシュに怒気を孕んだ声で返される。これが夢でないと言うのなら(彼が言うのだから正しい、と立香は思っている)、二人共寝ている間に運び込まれたことになる。そんなことがあるものか?立香はまだしも、ギルガメッシュが寝ている間、だなんて。
    「通信は……できませんよね」
     通信機を起動してみるが、ザザ、と微かにノイズが聞こえただけで、いつものようにカルデアには繋がらなかった。
     何か手がかりがないかと改めてぐるりと室内を見渡すと、何もないと思っていた室内に唯一、あるものがあった。
    「?」
    「気づいたか。先程から……おい、無闇に近づくな」
     ギルガメッシュの制止を聞きながら、ソレに近づく。はあと溜め息が聞こえて、ギルガメッシュの靴音が近づいてきた。結局、ふたり並んでソレを視認できる距離まで近づく。
     ソレは『どちらかが泣かないと出られない部屋』と書かれた看板のようなものだった。立て札、と言うべきだろうか。その札は白い床に置かれているのではなく、床から生えていた。見た目には部屋の材質と似ているから、これも部屋の一部だろうか。部屋を見渡してみてもそれ以外何もなく、出入り口らしきものもなく、ただ真っ白な部屋だ。
    「何ですかね、これ」
    「我が知るか」
     王はなかなかに不機嫌であらせられるらしい。苛立ちを隠しもしない声で言った後、何の前触れもなく空間から黄金の魔杖を出し、札に向かって魔力の帯を放つ。突然の攻撃に立香は反射的に顔を庇った。
    「…………ダメですね」
    「……やはりか。小癪な……」
     立香の隣に立つギルガメッシュは、むぅ、と不満気な声を漏らす。
    「やはり、と言うと?」
    「貴様が呑気に床で眠る間、この我が脱出を試みなかったとでも?」
    「あぁー……はは、そうですよね……」
     ギルガメッシュの話によると、立香が寝こけている間、何度か室内への攻撃を繰り出していたらしい。結果はご覧の通り、穴が開くどころか壁面も天井も床も傷一つない。「我が財宝でも傷つかぬとは」と苦虫を噛み潰したような顰め面でぼやくギルガメッシュに、それでその不機嫌か、と立香は納得する。
    「どちらかが泣かないと出られない、ってことは、オレか王様が泣けば出られる、ってことですよね?」
    「ふざけた話だが、他に脱出の手がかりはないな」
     やけに達筆な字で書かれた札。ギルガメッシュの攻撃も通用しないとなれば魔術的な何かが施されている可能性もある。それは立て札だけではなく、部屋そのものに。
    「まあよい。やってみれば解ることだ。疾く泣いてみせよ、立香」
    「やっぱりオレですよね……」
    「他に誰がいる?」
     室内には二人しかおらず、ギルガメッシュが泣くところなど想像もつかない。それは立香にも解るのだが。
    「そんなすぐ泣けって言われても……」
    「なんだ? できぬと言うならこの我自ら泣くまで痛めつけて……」
    「いいですいいです! 死んでしまいます!」
     不穏なギルガメッシュにどこかの語り部のようなことを言いながら、立香は慌てて両手を振る。
    「やってみますから、ちょっと待っててください」
    「急げよ、立香。いつまでも何も起こらぬとは限らん」
    「は、はい」
     返事はしたものの、泣けと言われて泣けるほど立香は器用ではない。こういう時は何か悲しいことを考えるといい、と前に聞いたことがあった。悲しいこと、悲しいこと、と立香は脳内で記憶を手繰る。悲しいこと。今まで経験した中で、一番悲しかったこと。
    「――――」
     不意に脳裏をよぎる映像。赤黒く淀んだ空に、崩れ落ちる足場。助けようと伸ばした手は、しかし何も掴めない。その手の向こうで綺麗に笑う、その人。何もかもを押し潰す巨躯。全てを呑み込む泥。眩い光の矢――完成された美しい細身の身体は、亡骸すら、残らなかった。
    「――――……ッ」
     未だに鮮烈に思い出せるあの光景。息を詰めれば、じわ、と涙が滲む。けれど流れ落ちることはない。
     隣に黙って立っているギルガメッシュを見上げる。視線に気づいたギルガメッシュは立香を見下ろす。目があって、笑われるかな、と思ったが、笑われることはなかった。
    「……何という顔をしている」
     その声は、ひどく優しい。自分は今、情けない顔をしているのだろう。泣きそうなのだから当然だ。ギルガメッシュは笑いもせず、少し困ったような表情を浮かべて立香を見る。あの時と同じ色の瞳で。いても立ってもいられず、立香はギルガメッシュを抱き寄せる。拒絶はされない。
    「全く。泣けとは言ったが、何を考えておるのだ、貴様は」
     抱き締めれば抱き返す腕が背中に回る。素肌を多く晒したギルガメッシュの身体はあたたかい。首筋に鼻先をうずめれば嗅ぎ慣れた王の匂いがする。あの時掴めなかったその人が、笑って死んでいったその人が、今はこうして腕の中にいる。何度噛み締めたか解らないが、何度でも噛み締めては嬉しさにどうにかなりそうになる。ああ、どうにかなりそうだ。
     ギルガメッシュの、緻密に織り上げられた外套に、ぽつりと染みが作られる。
    「――ん、開いたようだな」
     耳元で甘い声がする。札は間違いではなかったらしい。肩口に顔をうずめているので周囲の様子は解らないが、ギルガメッシュが開いたと言うのならそうなのだろう。嘘をつく理由が見当たらない。これは現実だと彼は言ったし、それは信じている。ただ、もし夢だとしても、この人が傍にいてくれてよかった、と思う。
     開いたのならもうこんなことを考えなくてもいいのだが、尾を引く感情は上手くすぐに切り替えられない。ぐず、と鼻を鳴らす。
    「すみません、王様、もう少しこのままで……」
     ふ、と息を吐く音が聞こえる。溜め息とも、笑みともつかない吐息。ギルガメッシュを抱き締める腕に力を込める。久しぶりだ、こんなことを考えるのは。だからどうにも離れ難い。離れ難いのは常だが。
    「……良い。赦す」
     ひどく優しい声でそう言った王が抱き返してあやすように頭を撫でるせいで、立香の涙はまだ止まりそうになかった。
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