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    えんどう

    @usleeepy

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    えんどう

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    ▽サブ垢の話

    ##サブ垢の話
    ##3001-5000文字

    サブ垢で王様を召喚した時の話▽転生してるしループもしてる
    ▽ぐだキャスギル







     手の中には、黄金の紙切れ……呼符と、虹色の結晶、擬似霊子結晶がほんの少し。目の前の壁には、見覚えのある、ありすぎる人が映しだされた電子掲示板。
    「先輩? どうされたのですか?」
     横から柔らかい声がして、は、と我に返る。注視していた金色から隣へ目を移すと、私服姿の後輩が気遣わしげにこちらを見ていた。
    「マシュ」
    「それは呼符……と、聖晶石ですか? これから召喚を?」
     首を傾げるマシュに、何と答えるべきか迷って、立香は再び掲示板へ目を向ける。そこに描かれた、黄金の鎧も眩しい金髪の英雄王。以前、とても助けられたサーヴァント。そして、今回も何故か自分の元に来てくれた、逢いたい人と同一の存在。同じ人物とは認識していないが(英雄王は英雄王、彼は彼だ)、それでも英雄王が破格の強さを誇るサーヴァントであることに代わりはない。もっとも、今のカルデアにも立香にもその力を十全に発揮させられるだけの備えはないのだが。
    「英雄王……まだ挑戦されるのですか……? 確かに、彼の宝具のレベルが上がるのはとても心強いですが……」
     掲示板を見る立香に倣い、掲示板を見たマシュが言いにくそうに言葉を紡ぐ。マシュは無駄遣いになるのではないかと心配しているのであろうことは容易に想像できる。いつもそうだったし。最後の方は諦められてたっけ?どうだったか。そのあたりの記憶は少し曖昧だ。
    「うーん、さすがに英雄王はなぁ……でもほら、概念礼装でも出れば、くじ集めが楽になるし……」
     そう、今まさにボックスイベントとどこかで呼ばれるイベントの真っ最中。本来ならここで悩んでる暇があればさっさと召喚して周回に戻るのだが、〝今〟は周回するにも戦力が足りない。補充の意味でももう少し召喚してもいいのだが、温存しておくべきではないだろうかと思うのも当然である。
    「それは…………いえ、それは先輩が集めた物資です。先輩がご自分で良かれと思って使われるなら、わたしはそれを応援します!」
    「え、ありがたいけど逆に使いにくいよそれ!」
     立香が笑えば、「そうですか?」と言いつつマシュも笑う。変わらず真っ直ぐに自分を慕ってくれる可愛い後輩。その気持ちが痛いほどに解るだけに、解るだけに、今となってはその気持ちが少し痛い。
    「でもマシュがそう言ってくれるなら挑戦しちゃおっかな。ついてきてくれる?」
     爆死した時に一人だと心が折れるかも……と、苦笑いで言えば後輩は張り切って了承の返事をくれる。優しい。マシュは今も前も変わらない、可愛くて優しい後輩だ。

       ✶✶✶

     見慣れすぎるほどに見慣れた、時にはもう見たくもなくなる、青黒い部屋。宇宙の中に浮かんでるみたいだ、と思ったのはいつだったか。
    「では先輩、呼符をお願いします」
    「うん」
     マシュの使う宝具の上へ描かれた魔法陣へ、黄金の呼符を安置する。電子回路のような魔術回路の輪がゆっくりと回り、魔法陣を離れる立香の身体をすり抜けた。
    「じゃあ、行くよ」
    「はい……!」
     令呪の刻まれた右手を差し出し、左手で二の腕を掴んで翳し、目を閉じる。意識をその手のひらへ集中し、イメージする。手のひらから手首、前腕の内側を通って、肘、二の腕、肩を這い上がり、鎖骨を潜って、首、顎、頬、こめかみ、目の裏、額、頭の天辺、その裏側の頭蓋に収まる脳までの道を辿る。
    「――に銀と鉄。いしずえに石と契約の大公。
     降り立つ風には壁を。
     ほうの門は閉じ、王冠より出で、王国に至るさんは循環せよ。
     じ《た》じ《た》じ《た》じ《た》じ《た》
     繰り返すつどに五度。
     ただ、満たされるときを破却する」
     詠唱。もう完全にそらで唱えられるようになった文言。後ろに控えるマシュの緊張が伝わってくる。そんなに、身構えることではないのに、と思うけれど、その気持ちは解らなくもない。
     だって、もしかしたら、と、思う気持ちは痛いほどに理解ってしまうから。
    「――――告げる。
     なんじの身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
     聖杯の寄るべに従い、この意、このことわりに従うならば応えよ。
     誓いを此処に。
     我は常世総ての善と成る者、
     我は常世総ての悪を敷く者。
     汝、三大の言霊を纏う七天、
     抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
     閉じていた目を開く。詠唱終了と共に盾から白い光球が飛び上がるようにいくつも浮かび、円を描いて回る。回る。回る。回って、点は線になり、雷のような光を放って――――
    「――――キャスター、ギルガメッシュ。ウルクの危機に応――」
    「――――」
    「………………………………………貴様、██████か?」
     ああ、ああ、ああ。ああ……!
    「王様――!」
    「っ」
     脇目も振らず、極彩色のそのひとに駆け寄り、力の限り抱き締める。息を呑むような音がして、ごとん、と足元で重いものが落ちる音がしたけど構っていられない。
    「逢いたかった、王様、もう無理だって、オレ、なのにまた逢えるなんて……!」
    「……」
     ぎゅうぎゅう抱き締めても文句は言われない。言われたところで離してやるつもりはなかったけれど。逢いたかった、と繰り返す立香をただ見下ろしている視線を感じる。
    「――…………あ、あの……」
    「マシュ、ここで水を差すのは野暮というもの。……しかし、気持ちは解る」
    「あっ、あ、はい、あの、その、あ、ありがとうございます……?」
     頭上と背後の間で交わされる会話。流石にこれはテンションの振り切れた立香でも理解できる内容だった。ここがどこだか一瞬にしてすっかり忘れていた。慌てて腕と身体を離して振り向く。
    「ご、ごめんマシュ! ちょっと感極まっちゃって、」
    「い、いえ! わたしは大丈夫です! その、少し驚いただけで……」
    「相変わらず奥ゆかしい娘だな、貴様は。それに比べて立香、貴様は……」
     焦りながら言い訳をする立香に、戸惑いを隠しきれていないのに大丈夫と笑うマシュ、それから、それから、隣から聞こえる艷やかな低音。その声で、名前を呼ぶ、その音。
    「――っ」
    「先輩?」
    「案ずることはないぞマシュ。立香は我という多大な戦力の増強に歓喜しているだけのこと。なに、
     そうであろう?と、涼し気な流し目を、もう随分見ていない気のする熟れた果実のような紅い瞳を向けられて立香はただ頷く。
    「そ、そうなんですか……?」
    「我が言うのだから間違いはない。ではマシュ、立香は借りるぞ」
    「え?」
    「え?」
     立香とマシュ、ふたりの声が綺麗に重なった。ふたりの疑問には答えず、ギルガメッシュは隣に立つ立香の右の手首を素肌の左手で掴み、カツカツと靴を鳴らして歩き出してしまう。ぐ、と思いの外強い力で引かれた立香はたたらを踏んでから慌てて体勢を立て直し、その後を追って歩きながら振り返る。
    「ごめんマシュ! ありがとう! また後で!」
    「あっ! は、はい! ……先輩!」
    「?」
     前を向きかけた立香は、呼びかけられて再び振り向く。こちらを見るマシュは両手をそれぞれ胸のあたりで握り、慌てたように口を開く。
    「おめでとうございます! やりましたね、先輩!」
    「! うん! ありがとう」
     本当に、マシュは良くできた子だ。

       ✶✶✶

     ギルガメッシュに引きずられるようにして立香が連れて来られたのは、やはりと言うべきか、自室だった。何の確認もせずにロックを解除してドアを開け、立香の手を引いたまま中へ入る。ここまで来る道中、ギルガメッシュは立香がいくら話しかけても答えず、振り向きもしなかった。怒らせたのではないだろうが、無言なのは気にかかる。というか、折角逢えたのだから話もしたい。つもる話もあるというのに。
    「お、おうさ――」
    「少し黙らぬか」
     ようやく声が聞けた、と思ったら、頬にあたたかい手のひらが触れる感触がして、目の前のギルガメッシュが近づいてくる。正確には顔が。うつくしい顔が。近づいて、近づいて、近づいて、近くて、近、近い――!
    「――――」
     気が動転している立香を押さえつけるように、ギルガメッシュは立香の唇を塞ぐ。閉じられた長い金の睫毛を見てようやく正気を取り戻した立香は、今度はじわりと炎が灯るのを感じる。ベッドまでは、あと数歩といったところか。後ろ向きに歩くことになるギルガメッシュを躓かせないよう足元に気を払いながら、細い腰を抱いてベッドへ向かって押す。押されるがまま歩き出したギルガメッシュは、くちづけをやめる気配はない。やめようとしたところで逃がすつもりはないけど。
    「 ん、 んぅ、んん、」
     鼻にかかった甘い声が随分久しぶりに感じられて、懐かしいし、嬉しいし、愛おしくてたまらない。やわらかい唇も、濡れた舌の厚みも、記憶の中のそれと同じだ。同じ人だ。
    (オレの、オレだけの)
    「ん、んむ、 …………ぁっ」
    「ぅわっ」
     かくん、と膝から崩れたギルガメッシュの手に引かれ、そのままふたりベッドへ倒れ込む。以前のように高級な寝台とは違う、備えつけの質素なベッドが悲鳴のように軋んで、身体が衝撃をモロに食らう。
    「ゔッ」
    「っ」
     呻く立香と、声は出さないがぎゅっと目を瞑るギルガメッシュ。弾んだ身体が再びベッドに落ち着いて、しばしの無言。やがてどちらからともなく笑い始めた。
    「――……はー……笑った………………。
     ……お久しぶりです、ギルガメッシュ王」
    「ああ、久しいな、立香」
     手を差し出すと、指を絡めて手のひらが合わさる。握手、と思われなかったことが嬉しい。今はそういう気分ではない。同じ気分だと思っていいのだろうか。
    「今回も、随分早いご登場ですね」
    「勿体ぶって出し惜しんでも結局は損をするだけだからな」
    「……根に持ってます?」
    「さて、なんのことだかな」
     〝前〟は、それで随分寂しい思いをさせた。彼とこういう関係になってからも時々持ち出されるくらいには根に持たれているのは理解している。根に持っている、というより、今と比べているだけかもしれないが。
    「……逢いたかったです、王様」
    「ああ、…………我もだ」
     紅い瞳がやわらかく眇められる。穏やかな顔、声、体温、どれも、ひどく、泣きたくなるくらい、愛おしい。
    「また、よろしくお願いしますね」
    「それは貴様次第、といったところだな」
    「ええ……いつもみたいに便利道具で助けてくださいよお」
    「たわけ。我を青いタヌキと同じに扱うでないわ」
    「彼は猫です王様」
     はて、そうだったか?と横たわったままわざとらしく首を傾げるから、立香は堪えきれずに吹き出す。するとギルガメッシュも笑い始めるから、なんかこういう歌あったな、幸せなやつ、と思ってまた愛おしくなる。
    「王様、」
    「ん?」
    「好きです」
    「知っている」
    「それでも、言いますよオレは」
    「……は、好きにせよ」
    「もちろん」
     身を起こした立香はギルガメッシュへ被さるようにキスを落とす。離れる前に繋いでいない手が後頭部へ回って離れることを許さないから、立香は笑ってやわらかい唇へ唇を重ねた。
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