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    えんどう

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    えんどう

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    ▽2部5章のネタバレがあります

    ##眠たい話
    ##3001-5000文字

    うたがきこえる話▽オリュンポスのネタバレがあります
    ▽眠たい話
    ▽ぐだキャスギル






     ――うたがきこえる。
     今までぐっすり寝ていたはずの立香が突如起き上がったかと思えば、そう口にした。うたがきこえる。もう一度、呟くように、独り言のように、けれど傍にギルガメッシュがいるのが解っていて、ギルガメッシュに聞かせるかのように立香は言う。その声の方が歌のようだ。
    「立香、寝ぼけているのか? 歌など」
    「うタ が きコえる」
     立香が、ぐるりと首を巡らせてギルガメッシュを見る。蒼い瞳を向けて、見る。見ている、はずだ。
    「りつ、」
    「うタ が きコえますね?」
     その眼を見て、立香が何も見ていないことに気づく。どうした、と問いかけるために伸ばそうとしていた手を戻し、ギルガメッシュは自身の両目を覆って溜め息をついた。
     異聞帯から帰還した立香からの報告は、ある程度見聞きしていた。詳細な報告は立香の疲労が回復してから、ではあるが、相当な無茶をやったこと、どんな敵がいたかは先程眠りにつく前の立香から寝物語のように聞いていた。その中の、立香が戦った神達の中の一柱、アフロディーテ、オリュンポスの女神から精神攻撃を受けたことも聞いていた。アフロディーテのことを話す立香は、『歌が聞こえたんです、ずっと』と、遥か遠くを見るような目をしながら呟いていた。それが精神に干渉する攻撃であれば、これはその影響だろう。
    「うタが、」
    「ええいやかましいばかもの」
    「ア」
     こちらを見ているのに見ていない立香に向かって両手を伸ばし、その耳を塞ぐ。
    「我の声が聞こえるか? 聞こえないなどとたわけたことをぬかすなよ?」
    「うウ、」
     頭を押さえつけられていることが不満なのか、立香はギルガメッシュの手首を掴んで引き剥がそうともがく。が、普段の力ほども手には力が入っておらず、意味はない。子どもが駄々をこねるように足をばたつかせ、立香は呻く。
    「立香聞け。我の音が解るだろう?」
    「ウ、あ、 あ、 ゥ、お、おト、」
    「そうだ、どこぞの駄神の歌よりも我の音を聞け」
     ヒトの身体が発する音。筋肉の蠢く音や微かな脈動、こうやって静止していてもそれらの音は腕を通して聞こえるはずだ。キャスターであれど魔術師などではないギルガメッシュは、精神攻撃を弾く魔術などは知っていても面倒で行使するには至らない。立香であればこちらの方が効果があるはずである。そうであれ。ギルガメッシュの願いが通じたのか、数秒、数十秒、それ以上か、呻きながらギルガメッシュの腕を掴んでもがいていた立香の手が、ギルガメッシュの手首を縋るように掴んでいる手が、ふと緩んだ。
    「――――…………お、うさま、」
     焦点のあっていなかった瞳が、炎が灯るようにギルガメッシュに焦点を結ぶ。ようやく目があって、立香の身体から緊張が消えるのが解った。
    「――……ありがとう、ございます」
    「気分はどうだ」
    「あんまり……良くはないです……」
     掴む手が緩んで離れ、ギルガメッシュも立香の耳から手を離す。そのまま引き戻そうとするその手を、立香が再び掴んだ。今度は、ように、ではなく、縋っていた。絡んだ指先はひやりとして血の気がない。
    「一朝一夕に抜けきるものでもあるまい。どこの神もろくでもないのだからな」
     他国の神に毒づいたギルガメッシュの言葉に立香がふ、と笑う。草臥れたような緩い笑いだったが、言葉は通じている。これで安心、とはいかないだろうが、今のところはこんなものだろう。
    「今宵はもう遅い。明日診てもらうのがよかろう」
    「そうですね……」
     どこかまだぼんやりした立香がそう返し、「あ」と小さく声を上げた。
    「どうした?」
    「王様、寝てました? もしかして起こしたり」
    「そんなことか……まだ眠っておらなんだわ。運が良かったな」
     よかった、と相好を崩す立香は、身体だけでなく精神まで及ぶ疲労を抱えているというのに、ギルガメッシュの心配をする。その気遣いがなぜ自らに向かないのか不思議でならない。
    「でも王様、そろそろ王様も寝ましょう。もう遅いですし」
    「貴様が暴れなんだら寝ておったわ」
    「う゛っ……すみません……」
     悄気げる立香を鼻で笑って、やや項垂れた頭をぐしゃぐしゃに撫でる。「うわ」だの「あわわ」だの「はわわ」だの言いながら立香はギルガメッシュの手を止めるでもなく撫でられ、髪をぐしゃぐしゃにかき乱される。しなやかな黒髪の感触を心ゆくまで堪能し、手を離すと立香はすっかり機嫌を良くしたようで、喜びを隠しきれていないニヤけた顔で髪を直した。
    「さて、寝るとするか」
    「はい」
     二人揃ってもそもそとベッドに横たわり、向かいあう。
    「もう妙な発作を起こしてくれるなよ?」
    「努力します……?」
     努力ではどうにもならないことは立香も理解しているらしいので、これは軽口である。
    「じゃあ……おやすみなさい、王様」
    「ああ。おやすみ、りつ……いや、まだ寝るな」
    「え?」
     何かに今気づいたような顔をして、ギルガメッシュは寝ようとしていた立香を引き止める。驚いた顔の立香へ両手を差し出し、その頭へ腕を回す。
    「もっと寄れ、立香」
    「え? あ、は、はい」
     今でも充分に近いのだが、ごそごそと動いて立香は更に近づいてくる。
    「もっと下だ」
    「下?」
    「そこではない。もっと下がれ」
    「は、はい」
     何をしたいのかも聞かず、立香は言われた通りに身体をずらして下げていく。枕からは完全に離れ、立香の目の前にはギルガメッシュの胸板がある。
    「歌が聞こえては眠れまい。そら、耳を寄越せ。我の音を聞かせてやろう」
     胸元、鳩尾より少し上にある立香の頭をギルガメッシュは両腕で抱え込む。そこでようやく気づいたらしい立香が、「王様」と戸惑いと驚きと嬉しさを混ぜた声でギルガメッシュを呼ぶ。それには何も言わずに、抱えた頭を引き寄せると、立香はギルガメッシュの胸へ耳を押し当てた。
    「………………聞こえます、王様の音」
    「玉音だ。聞き漏らすなよ?」
    「……はい」
     立香はギルガメッシュの腰に腕を回し、ぎゅう、と密着してくる。そんなに近づく必要はないと思うのだが、立香に抱き枕にされるのは今に始まったことではない。諦めよりも許しに近い感情で胸に縋りつく立香の頭を撫でた。仮初めの身体でも心臓はあるし脈は打つ。なんのためにと思うこともあったが、今はこの身体でよかったと思える。
    「…………王様」
    「なんだ」
     囁くような立香の声に返事をすると、何が嬉しいのか立香がふと笑う。そこで笑われると息がかかってくすぐったいのだが、今は耐えることにした。
    「……ありがとうございます」
    「よい。無事帰還した褒美と思え」
     ふふ、と立香が微笑う。吐息が肌を滑ってやはりくすぐったい。文句を言うこともできるが、褒美であれば好きにさせた方がいいだろう。今度は諦めて立香の頭を撫でると、抱き締める腕に力が加わった。
     しん、と静まり返った室内で、立香の頭を撫でる。立香はギルガメッシュを抱き締めて、胸に耳を押し当て身動きもしない。こうも静かだと息を吐くのも躊躇われる。立香に聞かせる音は吐息に紛れてしまいそうでもある。ギルガメッシュは口を噤み、立香も何も言わず音を聞いている。二人分の体温は何もしていないのに随分あたたかい。
    「――…………おうさま、」
    「なんだ」
     先に静寂を破ったのは、それでも密やかな立香の声だった。応えるギルガメッシュも自然、声を潜める。
    「ありがとうございます。……と、好きです」
    「なんだ、急に」
    「なんか、言いたくなっちゃって。好きです、王様、ギルガメッシュ王」
     腕の中を見下ろしても、立香のつむじしか見えない。何を思って言ったのか、表情から窺い知ることはできなかった。言葉自体は言われて悪い気のするものでもないので、言われても構わないのだが。
    「好きです、……はぁ……好き……」
     感嘆の溜息と共に呟く立香の声に内心で首を傾げつつ、ギルガメッシュは頭を撫でる。
    「戯言はよい。疾く眠らぬか」
    「……はい……うん、ありがとうございます、王様」
    「解った解った」
     そんなに何度も礼を言われるようなことではないのだが、立香はもう一度ありがとうございます、と呟いてギルガメッシュの腹に(恐らく)くちづけて、ギルガメッシュが咎める前に眠る体勢に入った。抱き寄せられて言うタイミングを失ってしまい、ややあってギルガメッシュは溜息をつく。その頃にはもう寝息が聞こえてき始めたのだから寝つきの良さは相変わらずである。
    「…………褒美なのだから、良い夢を見ぬと赦さぬぞ」
     返る声のない静寂の中でひとり呟き、ギルガメッシュは腕の中の黒髪に唇を押し当てた。
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