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    えんどう

    @usleeepy

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    えんどう

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    ▽2部初期の頃に書いた話です

    ##1000-3000文字

    影召喚の話▽影召喚について捏造しています
    ▽2部のはじめの頃に書いた話(だったはず)
    ▽王様はほぼいません
    ▽ぐだキャスギル






     カルデアは失われた。正しい意味では失われていないが、カルデアの膨大な電力による魔力供給は失われてしまった。魔術師ですらない立香の魔力ではあの人数を召喚することはおよそ不可能で、天災の力を借りてようやく一人召喚し、彼の助力を得てサーヴァントの〝影〟を喚び出せるようにはなった。影召喚。戦闘時のみの限定的な召喚。下総国での召喚のようなものだろうか。影は所詮影でしかなく、本体はない。指示をすれば本人と同じように行動するものの、それは立香の指示と元になった英霊の行動をただ機械的になぞっているに過ぎず、主体性はない。そして戦闘が終われば霞のように消えてしまう。戦闘という光を受けて発生する、まさに〝影〟だった。
     立香が初めに喚んだ影は勿論、立香のカルデアにおける最高戦力である彼の王だった。影であっても、均整の取れすぎた美貌、凛として艶のある声、風圧にたなびく異国の装束、膨大な財宝のひとつである斧や魔杖、炎を操る姿は見慣れた王のものとなにひとつ変わりない。宝具であるウルクからの砲撃も、変わらない。ただ戦闘が終わればその姿はまるで泡のように消えてしまう。泡沫の夢、そんな言葉があったな、などと立香はこちらを見ることもない消え失せる背中を見ながら思う。カルデアの本拠地が失われてからもう数ヶ月が経つ。たった数ヶ月と言えばそうなのかもしれないが、怒濤の人理修復を共に駆け抜けた彼の人と離れてからもう随分時間が経ったような気がしていた。
     そして今日も、魔物を蹴散らす影達の背中を見送りながら呟く。
    「――みんな、ありがとう」
     影である彼らに届く言葉ではない。そう理解しながらでも言わずにはいられなかった。影として喚び出されている彼らの本体がどう感じているのかは解らない。座でも何かしらの感覚はあるのだろうか。だとしたら、ここでの経験も少しは元の彼らに影響したりしないだろうか。
     泡沫のように消え去る、極彩色の背に手を伸ばす。あの時のように振り向くこともなければ、この手が彼に触れることはない。指の先で溶けるように消える背中はやけに胸を締めつけ、ああ、早く逢いたい、といつも思うのだ。そして自分が未熟であることを痛烈に実感させられる。自分がもっと力のある魔術師だったら、どんなにか。自分はただただ無力で周りに助けられなければ何もできない。だからこそ自分にできることは最大限やろうとは思っているが。
     しかし周りの助力にも限界がある。これもそのひとつだ。彼の王を喚び出すだけの魔力は今のここにはない。またあの澄んだ極上の宝石のような紅い眼に映してほしい。傲岸不遜な物言いで罵られたい。と言えば若干語弊がある気はするが、あの、時に厳しく時に人情を汲む彼が紡ぐ言葉が聞きたかった。触れた時の温度を感じ、蕩けるような時間を過ごしたかった。今の自分にそんな猶予が許されるのかは解らないが、触れ合う時間くらいはあるだろう。そうして逢いたい想いばかりが募っていく。
    「王様――」
     今日も今日とて影の王の背中を見送る。呼びかけても振り向くことはない。
     ――はずだった。
    「――」
     それは刹那のことで、見間違いと言えば見間違いのような気もした。けれど、呼びかけたその先の王は、僅かに立香を振り向き、見て、そして――笑ったのだ。僅かに口角が上がっているだけの、笑顔と呼ぶにはささやかすぎる笑顔だったが、あれは確かに、彼の王の笑みだった。
     伸ばした手が触れることはない。一瞬ののち、王の姿は消え去った。
    「王様…………」
     影の仕組みは未だに解らない。これまで影が何かの反応をしたことはなかった。これも見間違いかもしれない。けれど笑ったのだ。笑ったように見えたのだ。もしかしたら、あちらと何かが繋がっているのかもしれない。そう思えば、少しはこの気持ちが晴れる気がした。
     次に喚び出した時にはなんの反応もなかった。いつものようにふわりと現れ、ふわりと消えていく。反応らしきものがあったのはあれきりだったが、あれだけで充分、立香の心を奮い立たせるには充分だった。
     もう泣き言など言っていられない。これから先の旅は修復などではない。世界に望まれる旅は終わった。だが、これまで出会った全ての人の想い、自身の全てを無にしてまで立香たちを導いてくれた人の願い、あの日あの場所で彼の王に託されたもの、それら全てをなかったことにはできない。今の世界に生きる命と天秤にかけることなど永遠にできはしないが、それでも進むしかなかった。あの頃と同じ、そうするしかない。そうするしかないのだ。ただ進む。目の前で起こったことを自らに焼きつけながら進むしかない。この、望まれない旅にあの人がいてくれるなら、あの背中をまた見ていられるなら、見せられるなら、立香は進まなければならない。立ち止まることなど赦されない。
     全てを背負い、最期まで己の信じるもののために毅然と立ち続けたあの背中を見てしまっているから。
    「早く逢いたいなぁ……」
     シャドウボーダーの自室で呟き、腕で両目を覆う。呟いた言葉は誰にも届かない。瞼の裏には消しようもない彼の人の背中が、痛いほど鮮やかに焼きついていた。
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