合作アズクラ①「イルマ様奪還の作戦会議をはじめるぞ。あほクララが陽動、私が叩く、ヴィーノが保護だ」
そんな言葉が聞こえてきたのはリードが、ジャズ、ガープ、プルソンと食堂の売店に召喚シールを買いに行った帰りだった。
イルマが解除の儀のためカルエゴに十三時間監視されることになった。
使い魔更新の授業後すぐ知らされた内容は問題児たちの好奇心を刺激し沸き立たせたが、イルマのシンユー、アスモデウスとクララの心情は当然の如く真逆なのだろう。王の教室の入り口横、芝生の上に座り込む二人は真剣そのものだ。特に収穫祭の衣装まで持ち出してるクララからはイルマ奪還への気合が十分見てとれた。
けれど──
「ヨウ……ドウ……?」
気合で頭も良くなればよかったのに。
きぐるみから頭だけ出したクララの表情は軋んでる。
でも陽動なんて言葉の意味、普通に知ってるのはアスモデウスかアロケルくらいだ。リードが覚えていたのだってゲームに出てきたからで。
そう考えるとクララが気の毒だった。
リードはそう結論付けたがアスモデウスはどうか。使い魔更新の時からため込んだ不機嫌が、クララへの怒りとして爆発でもしたら。それは避けたかった。
なんせリードはモフエゴ継続派。
賭けにだって、今月の小遣い残り全てをつぎこんだ。騒ぎになればカルエゴの警戒は更に厳重になる。せめてリードたちが教室に乱入するまでは、おとなしくしててくれ。
そんな願い虚しくアスモデウスがため息を吐いた。一緒に歩いてる、ジャズやガープ、プルソンには聞こえていないだろうそれは、地を這うように低い。
こうなったら腹を括ろう。けど、なるべく静かに騒いでくれますように。とリードが覚悟を決めた瞬間だった。
「…………ぐわっと入ってドッフンしてカルエゴ卿をびっくりさせろ。……わかるな?」
びっくりしたのはリードの方だ。
なにその説明。小さい子に親がするやつじゃん。
「ガッテン承知!!」
だけど大きく頷いたクララは元通り元気いっぱいだった。
アスモデウスが手を伸ばし、クララも少しだけ俯く。今度は何をするのか。思わず足が止まったリードの視線の先で、アスモデウスがゆびさきだけ使い、クララにきぐるみの頭を被せる。
やっぱり親子じみた行動をする二人の息はぴったりあっていて、慣れきっていることがリードでもわかった。
「リード何してんだよ、行くぞ」
「ジャジ―……。うん、すぐ行く!」
もう王の教室内に入ってる三人の元へリードは歩き出す。
そういえば、アスモデウスはヘルダンス練習中に、クララの擬音癖が移ったような喋り方をしていた。それに、思い返せばクララも普段からアスモデウスに抱えられがちだし。イルマ軍三人で遊ぶときは、あれくらい日常茶飯事なんだろう。
……だからといって
「……アズアズはクラりんのカーチャンかよ」
呟いてもう一度二人に視線をやれば、丁度クララと拳をぶつけあってるところのアスモデウスと目が合い、何だと言いたげに睨まれる。それは、クララに小言を言ってるときの顰め面とは似ても似つかない。
ああ、なるほど。と悟った。
王の教室に足を踏み入れたリードの背中を「絶対に私たちで取り戻すんだ」と、アスモデウスとクララ二人の合わさった声が追いかけてくる。
アスモデウスの特別は絶対的にイルマだけど、クララに向けられる不機嫌もまた、他へのそれとは質が違うのだ。