バンのホワイトデー計画3が、そうはいかなかった。キングのパーカーをバンがしっかり掴んでいたからである。危うく転びかけたキングは文句を言ったが、バンは少しも聞いていない。文句の代わりに「お前はエレインの兄貴だろう」と遠い目をしつつも真顔で言った。
「そうだけど。まさか疑っているの?」
「エレインがお前の妹って言ってたから信じている」
「あ、そう……」エレインが言っていなかったら信じていなかった、ということか、と薄く笑うキング。バンの話は終わりではなかった。
「つまり、妹としてのエレインを知っているっつー事だ」
「まぁ……そう思っているけど」
「そこを見込んで相談がある!」
遠くを見ていたバンの目がぎろりと見開かれ、キングを睨みつけるように光る。だがそれは凄んでいる訳でもなく、まして脅しつけている訳でも無いということはキングには分かっていた。同時に面倒くさそうな事を言われるんだろうな、とも。だがどうせ断る選択肢は存在しないのだ。キングは「なんだい」とあまり心のこもらない返事をした。
「何だっけかあれ、バレンタインタインのお返しする日」
「……ホワイトデーのこと?」
「それだ、エレインにぜひお返しをしたい。告白も」
告白なら毎日しているけどね、と心の中だけでキングは答える。
「エレインは甘いもん食うか? クッキーとかケーキとか」
「普通に好きだと思うけど。でもバレンタイン断られたくらいなんだから、そもそも受け取ってもらえないんじゃない?」
「そこなんだよ、なんか兄的な妙案をよこせ♪」
「無茶言わないでよ。兄とか関係ないよ!」
「……チッ」
バンは心底心のこもった舌打ちをした。キングは文句を言われるとは思ったけど、文句を言われるより堪えるなとまたまた心の中だけで空を仰ぐ。だが兄としてとっておきの情報が彼にはあった。それをバンに伝えるべきか否か悩んだが、伝えない方が後々面倒になるだろう、と結論づける。
「あのさバン」
「おっ、妙案か?!」
「ホワイトデーの日、エレインの誕生日でもあるよ」
バンは先ほどの比ではないくらいに目を剥いて、それから突然うずくまったかと思うと、今度は飛び上がってキングを抱きしめる……というより締め付けた。
「あんじゃねぇかよ、兄的な情報! クソ感謝するぜキング」
それからキングを転がすと、上機嫌に鼻歌を歌いつつ教室をとびだした。