塗って触れて重ねるカゲロウさんに紅を塗ってもらった。目尻と唇にカゲロウさんと同じ紅。
朝の支度をしているカゲロウさんをじっと見ていた。貝殻の器は玉虫色でそれを水を含んだ筆で触れると途端に鮮やかな紅に変わる。筆先で紅を取る。そうしてカゲロウさんは右、左と目の下に迷いなく紅を引いてしまう。
そういえば女性の化粧を見ていた事がある……カゲロウさんと付き合う前の事だけども。その時はそんなに見るものじゃないって怒られたんだけどね。あの時は面白いなぁぐらいにしか思ってなかったんだけど、カゲロウさんが紅を引く瞬間は何だかぞくりとする。
起き出して布団の中からじっと見つめていたら、カゲロウさんに気付かれた。怒られるかなと思ったらカゲロウさんは「お早う御座います」なんて言って微笑んでいた。綺麗な貌だよね、本当に。紅を引いてると余計に瞳の色が際立つんだよね……色々思い出しちゃうから困る。嬉しいけどちょっと恥ずかしいから。
「ウツシ殿もやって差し上げましょうか?」
「え? 俺に?」
それだよね、と俺は確認のために聞けばカゲロウさんはニコニコしながら頷いている。一応、化粧はやった事はある、諸々のアレソレで任務上どうしても必要だったから。でもそういう理由以外ではやった事はなかったわけで。
「……じゃあ、やってみよかな」
カゲロウさんとお揃い、って考えたら何かそれって良いなと思っちゃったんだよね。ゴチャゴチャ考えるのは止めにした。カゲロウさんは少し嬉しそうだった。