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    Ghwei_ning_si

    かわいそホムホムとしあわせリヴリヴのたのしいくらしの文章置き場

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    Ghwei_ning_si

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    独自設定 幣島の土人ホムがおなかをすかせながらリヴのぱおちゃんをお世話するたのしいおはなしです(虫食注意)

    はらぺこぐらし『おたべなさいな』
     豆電球の吊された薄暗がりの奥から響く声に目を覚ます。それから戸棚を二、三引くような音の後、暗闇から伸びる青白い手がまるまると太ったカブトムシの幼虫の詰まったケージをおれに差し出した。
     少し狭い木箱の中から小さな足をもがかせながら逃げ出そうとするそれをつまみ、自分の口に詰め込みたい衝動を必死に堪え目を逸らした。
     ──これは、おれのものじゃない。
     渡された箱を抱えて辺りを見回す。湿った緑のにおいがする静かな島の中、そこにはひときわ目立つ白い体毛。つやつやと実ったオリーブの木の下、「ぱお」はのんびりと芝生の上に体を伸ばしていた。
    「……ぱお、ごはんだぞー」
     真っ白い肌に真っ黒いつぶらな目をこっちに向けた「ぱお」は細長い鼻をふんふんと鳴らし、ゆっくりとこちらに歩いてくる。やや太い体毛に指を通すようまんまるの頭を撫でながら木箱の中身を取り出し、目の前に四匹ほど並べてやる。
     「ぱお」は一つ一つの幼虫のにおいをひとしきり嗅いでから小さな口を開け、小さな手を伸ばしぷち、しゃく、と小さな咀嚼音を立てながら幼虫の身をかじっていく。
    「…………」
     くう、と情けない声を上げる腹をつねりながら、おれは「ぱお」の食事が済むのを待った。雑草、苔玉、作り物のザクロ。豆電球のワイヤーと一緒に天井から吊り下げられた精巧なモルフォ蝶の標本が、遠くの窓から入り込む風に羽ばたくように揺れる。草むらをのろのろと這いずる幼虫から目を逸らそうと島を見渡せば見渡すほどに全てがうまそうに見えた。
     ちゃく、ぷちゅ、むちり。「ぱお」のゆっくりとした咀嚼音を耳にしながらおれは真っ暗な天井を見上げる。淡い光のどんぐりを模したランプに照らされている空間よりももっと奥の暗がり。その奥では白っぽい人影がパック状の何かを片手に部屋を歩き回ってはバタバタとせわしなく動き回っていた。

    「ぱぷ」
    「……お、ごちそーさまなんだな」
     しばらくずると、「ぱお」が満足げにこちらに頭をずいずいと寄せてくる。どうやら満腹らしい。
    「よし、ごはんの後はシャワーだぞ」
     リヴリーの食事の後にはシャワーを浴びせること。おれはフラスコの外で初めて出会ったやつにそう教えられた。
     おれは「ぱお」と一緒にいろんな場所に行ける。「ぱお」の世話以外にも毎日いろんな島に出かけて、そこに植わっている木にエネルギーを分け与えるのがおれの仕事だ。お礼にもらった木の実は餌用の木箱に入れて返す約束になっているが、それでもいろんな場所に出掛けられるのは楽しい。
     でも、出かければもちろん腹は減るし体も汚れる。特に「ぱお」の毛は長いから細かい砂や土、他のリヴリーの体毛などがよく引っかかっているので念入りに洗ってやらなきゃならない。おれは目を閉じて、「ぱお」の頭の上に太陽と雨雲をイメージする。
     おおきな太陽とふわふわの雨雲。薄暗く広がった雨雲の中身を太陽が照らし、徐々に明るく暖めていく。日の光に温まった雲はどんどんと膨らみ、暖かな恵みをもたらし──
    「ぱぷ、ぷーお!」
    「ハハ! うれしーか、ぱお」
     掲げた手の上から現れた雨雲からざあ、と降り出した暖かな雨。これはおれが使える不思議な力で、雨雲をイメージすると丁度リヴリー一匹分ぐらいの雨を降らせることが出来る。これを「ぱお」の風呂に使う時に少し大きめのものをイメージすることでついでに自分の体の汚れを洗い流すこともできるようになった。
     「ぱお」は嬉しそうに体を揺すりぱしゃぱしゃと水溜まりを踏みながら雨を浴びていた。その間におれは「ぱお」の毛に絡まったゴミや手足、顔の汚れを洗い流してやりながら集中力のギリギリまで雨雲のイメージを続ける。暖かな太陽、大きな雨雲──
     ぐうう。
    「……っ」
    「ぷるるる、っぷ?」
     あまりの空腹のせいか、自分の耳にもうるさいぐらいの腹の虫の音が響いた。イメージは寸断され、その途端に雨雲はぱっと姿を消してしまう。
     しまった。不思議そうな顔で「ぱお」がこちらを見てくる。
    「……ごめんな、またあとでシャワーしようなー」
     詫びながら頭を撫でると体をぶるぶると揺すって濡れた毛の水気を払う「ぱお」。おれは顔に跳ね返った水をぬぐい、ひとしきり「ぱお」の耳としっぽを乾かしてやると「ぱお」はすっきりしたような歩みでまた元のお気に入りの場所に座り込み、のたりと柔らかな芝生に顔を埋めてうつらうつらし始めた。
    「……ふー」
     一連の世話を終えて一息つき、島の台座に腰掛ける。おれはさっきのシャワーで濡れた髪を絞りながら濡らしたシャツで体の汚れを拭い、腹の奥のきゅっとした感じをごまかそうとまだ綺麗な水溜まりの上澄みをすすって飲んだ。生ぬるい水のまだ土と混じっていない部分を見極めながら慎重に口を付け、あらかた飲み干したところで見切りをつける。
     それでもおれはまだ物足りなさを感じていた。ああ、あの時一匹だけでも「ぱお」のごはんをもらえばよかった。後悔しながら濡れていない方の芝生に仰向けになり、うんと体を伸ばして目を閉じる。ふと、その指先に何かが触れた。
     触れたのは、頭と尻尾だけが器用に食べ残されたカブトムシの幼虫だった。
    「!」
     そうだ。ぱおは固い虫が苦手だからちいさいタマゴかカブトムシの幼虫しか食べないのだけれど、それでもカブトムシの幼虫の頭や尻尾の固い部分は残すことがある。
     地面に転がる器用に身の白い部分だけを食べ尽くされた幼虫の死骸。おれは無我夢中でそれに食いついた。
    「っ、……ん、むっ、む……!」
     小さな茶色の部位が一つ、また一つと減っていく。あまりの土臭さにえづきそうになるのを必死でこらえ、空腹を殺すために一つ一つを丁寧に咀嚼し飲み込んだ。
    「う゛、っ……! く、はむっ、んぐ…………」
     ちくちくと口の中に刺さるアゴがのどに引っかからないようにペースト状になるまで噛み続ける。ざらつく繊毛が咥内粘膜を傷つけ血の味が広がる。それでも食べ続けた。

     最後の一つを食べ終わるまではあっという間だった。口の中に残る苦みとぬめり、そしてそれ以上の満足感。思えば、おれはリヴリー達のように餌をもらったことがなかった。おれの仕事はリヴリーに餌をやり、シャワーを浴びせ、他の島の木ににエネルギーをやってそのお礼にもらった木の実を餌箱に入れて返すだけ。それ以外は眠って過ごすことばかり。それでも、おれはリヴリー達と同じ様に腹が減るし、体も汚れる。
    「(……いつか、おれにも餌がもらえたらな)」
     それなりに満たされた腹をそっと撫で、もう一度目を閉じる。暗闇の奥から聞こえるチン、という音と共に漂う不思議な匂いが漂う中、おれは眠りについた。
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