無駄な抵抗.
「トランクスさん、手……いいですか?」
並んで歩いていた悟飯にそう言われて、トランクスは首を傾げた。手がどうしたのだろうかと思っていると、悟飯にそっと手を握られた。
「あ……」
「すみません。嫌でしたか?」
「い、いえ……だっ、大丈夫です」
全然大丈夫ではなさそうな自分のどもり具合に、トランクスは慌てて咳払いした。久しぶりに会った「こちらの世界」の悟飯は、かつての少年の面影を残しながらも立派な青年に成長していた。背ももう追い抜かされてしまって、昔とは逆に見上げる形になった。それにもまだ慣れないというのに――。
(悟飯さん……手も大きくなったんだな……)
身長差からも予測できたことだが、実際にこうして自分の手を包み込まれると、その大きさを実感せざるを得ない。
「それで高校に通い始めたんですけど、結構普通の暮らしっていうのも難しくて――…」
近況を離してくれる悟飯に相槌を打ちながらも、残念ながらトランクスの耳にあまり内容は入ってこなかった。悟飯の話をちゃんと聞きたいのに、繋いだ手が気になって仕方ない。どうしても意識がそちらに向いてしまうのだ。
(手ぐらいで、何でオレはこんなに緊張してるんだ……)
悟飯がすっかり成長したとは言え、年齢的にはまだトランクスの方が年上だ。しかし悟飯は平然としているのに、トランクスは自分の鼓動が速まっているのを感じた。気のせいでなければ頬も熱い。この動揺を悟飯に気付かれたくないが、かと言ってさりげなく手を離す方法も思いつかない。それに落ち着かなさはあるものの、トランクスだって――手から伝わる温もりを、本当に遠ざけたいとは思えなかった。
だがこのままでは手汗がすごいことになりそうだ。悟飯に不快な思いをさせたくない。だから無駄な抵抗は止めて、トランクスは白状することにした。手を繋いでいるとドキドキ心臓がうるさくて、何も考えられない――と。
「……っ…!」
だがその前に、悟飯の手が動く方が早かった。それまで外側からトランクスの手を包み込んでいた悟飯の指が、指の間にまでするりと入り込む。先程までより、さらに深く握りこまれて、トランクスは自分が何を言おうとしていたか思い出せなくなる。でもきっと何を言っても、きっと無駄だっただろう。この手からは、とても逃げられない。
自分を捕える手の強さと熱さが、トランクスにそう思わせた。