見つめ合う.
「トランクスさんって目力がありますよね」
急に変わった話題にトランクスは一瞬反応出来なかった。並んで座って悟飯の高校の話を聞いていたところだったので、脈絡も何もあったものではない。話題となっている目を何度か瞬いてから、トランクスは聞き返した。
「目力、ですか?」
「はい。久しぶりに会って、それを実感しました」
「えっと……あ、目つきが悪いってことですね。よく言われますよ」
苦笑しながらトランクスは目じりを撫でたが、そんなことで切れ上がった目が下がるはずもない。だが自分ではよくわからないが父譲りのパーツであるらしいので、その点では密かに嬉しく思っていた。
「いえ、そういうことじゃなくて……何て言ったらいいのかなあ」
考え込みながら悟飯は、トランクスの顔、というより目をじっと覗き込んだ。悟飯の目はトランクスとは全く色彩が異なる。混じり気のない黒だ。こんなにも違ったら、見ている世界だって違って見えるのではないだろうかと思うが、確かめる術もない。
(ああ、でも母さんに話したら、何か発明してくれるかも……)
身近に常識を突き抜けた天才がいると、不可能なんてこの世に存在しないように思えてくる。だって、そうでなければこうして時を越えて、トランクスはこの世界にやってくることも、別の世界を生きる悟飯に出会うことも出来なかった。
「うーん……」
「あ、あの悟飯さん……」
真剣に考えている悟飯は気付いていないのだろうが、距離がじりじりと縮まっている。トランクスはそれを指摘しようとしたが、悟飯はむしろさらに距離を詰めて来た。近すぎる。トランクスはついにその超近距離にらめっこに耐えきれず、ぎゅっと目を閉じた。
「――…トランクスさんの目見てると、吸い寄せられちゃうんですよ。だから目力というより引力なのかもしれませんね」
数秒後。にこりと笑った悟飯は、そんな仮説を口にした。だがトランクスはそれにコメントすることが出来なかった。目を閉じている間の出来事を、悟飯に確認してよいものか、それとも触れない方がいいのか――だが迷っている内に、草むらについていたトランクスの手を何か温かいものが覆った。それはいつの間にかトランクスよりも一回り大きくなった、悟飯の手だった。
「好きです、トランクスさん」
自分は別の世界の人間だから、なんて言い訳はとても通用しそうにない真っ直ぐな目がトランクスを捉えていた。これはとても逃げられない。逃がしてもらえない。トランクスは唾を飲むと、黒い瞳を見つめ返した。この目を見ていたら、溢れてくる気持ちなんか、ただひとつに決まっている。