あたためて朝目が覚め換気のために暫く私室の窓を開け、身支度の最後にクラバットを巻こうとしたところで「りばい」と間の抜けた声が自分を呼ぶ。か細いそれに恐らく何度か聴き逃しただろうと思いながら足を向かわせる。
「やっと起きたか」
頭まですっぽりと布団を被った声の主を見て呆れた声が出た。いつまで寝てるんだと顔を顰めたところで目元だけ出した彼女と目が合う。
「りゔぁーい、抱っこしてよ〜」
「三十過ぎの人間が何言ってんだ」
「寒いの。抱っこしてあっちまで連れてって」
「いつまでも甘ったれてんじゃねぇ」
わがままを言う彼女に呆れてはいるが、それほど悪い気はしていない。突拍子もなく予想していなかった言葉を発する彼女に興味を持ち始めたのはいつだったか。出会った頃は二十代のクソガキだったが、今も大して変わっていない。
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