家の掃除をしている最中のことである。干していたカーテンを元の窓につけようとしていた彼の双子、便宜上兄が暗い色のカーテンをまじまじと眺めて、動きを止めた。そして何を思ったか、いきなりカーテンを広げて羽織った。そして精緻なレースの一部をなぞりながら引っ張り上げてフードのように被る。
紗幕のような布地越しに金の髪が放つ光が透けて見える。便宜上兄はゆっくりと目を伏せて雰囲気を作った。なんとなく、何をしようとしているのか分かった気がする。長いまつ毛にぶつかった光が乱反射する。もったいぶって持ち上がるまぶた、空虚さが滲む笑み。そしてわざとらしく平坦に寄せた声でこう言った。
「たとえば、己の一生がすべて定められていたとしたらどうだろう」
ラインハルトは咄嗟に口を押えたが、くぐもった笑いは漏れていた。
「今のは似ていたな」
「だろう?」
「少し待て……、んんっ」
喉の調子を整えて、ラインハルトは立ち姿を変えた。さながら神の御座から語り掛けるかのような調子で口を開く。
「Disce libens.」
「いいぞ、かなり似ている!」
便宜上兄はこらえることなく、思うがまま笑った。
ラインハルトもとうとう我慢しきれずに声を出した。くすくすと笑い声が重なる。
「ずいぶん楽しそうですね」
ぴしゃりと場の空気が締まった。冷え切った空気が床を這い、足を伝って登ってきている気がする。気が付いたら影のような男が背後にいた。