他愛のない話の合間、ふと途切れた沈黙。
重なる水銀と黄金の視線。
伸ばされた蛇の腕。獣の座の肘置きを蛇の指が這う。蛇の人差し指が、獣の人差し指の爪先に触れる。布越しに爪の形良さを確かめるように撫でて、獣の手を包む手袋の先を押さえた。すこしばかり手袋がずれて、袖の裾と手袋の合間から、獣の手首がすこしばかりあらわになる。
もう片方の手で好きにするといいとうながして、獣は頬杖をついて面白げに蛇の動向を見守った。
互い違いに浅く指を絡めて、引き抜く際に手袋も多少ずらしていく。繰り返すごとに絡める深さを増していくうちに、深く指を絡めるには手袋が引っかかるようになるが、手袋を互いの手の内でぎゅっとつぶして無理矢理押し込んだ。
獣の手があらわになるころには、ぐしゃぐしゃになった手袋が肘置きにかけられる。
獣の人差し指、その第一関節に己が手の第一関節を何度かすりつけて、指の付け根が接触するほどに深く指を絡めた。
「ふふ」
何が面白いのか、蛇が笑う。つられて獣も小さく笑った。
「ははは」
徐々に音量が上がる蛇の笑声。喉をならして獣も笑う。
「はははははははっ!」
ついには声をそろえた高笑いが響き渡る。
さて、そのころ。
あそこいつもああいう感じ? みたいな疑問をのせた視線がよその座からいくつも自分に集中したのを感じ取った刹那は、じっと女神だけを見つめることにした。
ことりと首をかしげる女神ににこりと笑えば、黄昏もまたはにかむ。
おれはなにもみていない。自らに言い聞かせるには、重なった高笑いが邪魔ではあった。
いちゃついてんじゃねええええと刹那が思ったかどうかは定かではない。
なにせ俺はなにも見ていないので……。