足を交差させてスツールに腰かけているような姿勢で五条悟は空を漂いながら、自身の血で固まった前髪を右手でかきあげて、ぐしゃぐしゃと解した。
ぱらりと解けたものの、ごわついた毛先をつまみあげて、はあと溜息をついてから、左手にさげたものを見下ろした。
五条悟が掴んだ襟首だらりと垂れ下がった身体は、誰の目にも死体として映ることだろう。ごそりと欠けた左半身は明白な死を感じさせる。
しかし死んでいない。
息絶える直前で止まっている。
今の五条悟にとって時間と空間は融通無碍なものであるから、熱した飴を引き延ばすがごとくたやすいことだ。
好きにしろと言われて、咄嗟に止めてしまったものの、五条悟自身も自身のこころをはかりかねていた。そんな重大そうなことをぽいと他人になげてさっさと死に逃げようとするんじゃないといささか無茶振りめいたことを考える。
生かした際のメリットとデメリットを、脳内でつらつらと並べあげて、眉根をよせてうなった。
短い沈黙のあと、五条悟は九割五分くらいは死体の男と向き合った。
結局のところ、こういうものは本人の意思次第だ。生きたければ生きるし、死にたければ死ぬだろう。考えるのがめんどくさくなったともいう。
オマエ、どうしたい?
問いはなんとも曖昧であったが、ほぼ死体の指がぴくりとはねた。残っているほうの腕がのろのろと持ち上げられていく。
おや、これはと見守っていると、突如勢いよく突き出されたてのひらが、五条悟の目の前で無限に阻まれて止まった。それでものろのろと無限の上を這う指に、五条悟は妙なものを見る表情で、目でもえぐるつもりかよとぼやいた。
ずいぶんと活きのいい死体を拾ってしまった。拾うと決めたのは己自身であるので、溜息は飲み込んだ。