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    s_toukouyou

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    シルバーアッシュ/クーリエを拾った時のはなし

     痛い。
     芯まで凍え切った体を引きずって歩く。
     あたりは白く染まり切り、吹き付ける風は雪をはらんで纏わりつき、かろうじて保っている体温まで奪い去っていく。
     どこだろう、ここは。
     深く積もった雪に足が沈んでいく。一歩進むだけでかなりの消耗だ。
     遊びに出かけたときは、まだ晴れていたのだ。楽しさと好奇心に任せているうちに、知らないところにいた。木はどれもなたようなものに見えるし、気が付けば足跡は降り注ぐ雪に覆い隠されて元来た方向すらわからなくなった。
     雪に深く埋まった足を引き抜こうとして、踏ん張り切れずに倒れこむ。起き上がらなければいけないというのに、手足は重く持ち上がりそうにない。少しだけ、少し休むだけと思えば、起き上がる気が雪に吸い取られるかのように消えていく。不思議と安らかささえ覚えて、ゆっくりとまぶたを閉じた。
     
     次に意識が浮上したのは、さくり、さくりと雪を踏む音が鼓膜を刺激したからだった。いつのまにか雪は止んでいた。
     どれくらい気を失っていたのか、と疑問に思えるだけの気力を取り戻して、ゆっくりと視線をめぐらす。今動かせるのは視線くらいだ。首を曲げることも、頭を持ち上げることも難しい。
     足音の主は獣だろうか。それとも自分と同じように迷いに迷って山の深部まで来てしまった者だろうか。だとすればお互い不運なものだ。
     影が落ちる。目の前に靴が現れる。視線をあげていけば、二本の足があり、腰があり、胴体があって、頭がある。人型のいきものだった。思わず肺が動いて、ため息をこぼす。状況に似つかわしくない、なんとも陶然としたため息だったことだろう。あまりにも美しかった。
     風に舞う白銀の髪は、今まさに降り注いでいた雪のようだ。美しくも、命を奪い取る恐ろしさを兼ね備えている。じいと見下ろしてくる瞳はさながら静謐な湖面で。黒い衣服とマントに身を包んでいるものだから、この真っ白な世界から浮き上がって、くっきりと目に焼き付く。
     これは自分と同じいきものなのだろうか。ふとそんな疑問がわき、次第に胸中で確信に変わっていく。あらゆるものが容赦なく熱を奪われ息絶えるところで、こうも超然としているのだ。ただものではない。ではなんなのか。くるくるといくつかの名称が浮かび上がっては沈んでいく。幽霊だとか、死神だとか、この山に住む精霊だとか。けれど理性と感情が納得をしめしたのはそう言ったものではなかった。
     山の化身なのではないかと、そういった考えがくるくると踊って脳に染み込んだ。この雪境に生きる者は必ず知る聖なる山。その聖なる山のひとのかたちなのではないかと。あたりを覆いつくす雪が光をはじいて、ぼんやりと輝いている。それがより一層神秘さを引き立てていた。こここそがかのカランドなのだろう。おのれに還るいきものを山が迎えに来たのだ。
     聖なる山のひとのかたちが膝をついて、クーリエに手を伸ばす。青ざめた白い手の輪郭は今まさに雪をかぶっている山の稜線を彷彿とさせた。自然に宿る神聖さにあふれている。クーリエの頬にふれた指先は雪のように冷たくて、けれど恐ろしさはない。そうっと息を吐き出して、意識を手放した。
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