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    s_toukouyou

    @s_toukouyou

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    s_toukouyou

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    「閣下、起きてくださーい、かっかー」
     寝覚めは正直に言えば良くはなかった。多少目をつむった程度の仮眠では、疲れを取れるわけもない。しかし長時間眠るわけにもいかない程度には忙しい。不幸中の幸いは、無理ができるくらいには体が頑丈なことだった。
     重たいまぶたを持ち上げると、仮眠室の天井を背景にひとりの男がにこにこと笑っている。うなじあたりまで伸ばされた髪は深海のような藍色、こちらを覗き込んでくる瞳は海の浅瀬のような碧色。身につけているのは階級章などの違いはあるが、ラインハルトとおなじ軍服。彼の部下だ。
    「……なにか、あったか?」
    「いいえ、特には。閣下のお手を煩わせるようなことはございません。書類仕事もほぼ終わっており、残っているのは期限がまだ先のもばかりです。一応閣下を訪ねてこられた方がございますが、急用とは思えません。正直私としては仮眠に戻られても問題はないと思うのですが、どうしますか?」
     すらすらと答えた上に二度寝をすすめてきた部下に、ラインハルトはすこし眉根をひそめて考えた。
    「……良い、起きる。やれるものはすべて終わらせておいても損はない」
    「私としては休息をとっていただきたいのですがね」
     ラインハルトが上半身を起こすと、当然のように部下はラインハルトの背後に立って櫛を手にした。丁寧に金に輝く髪を梳かして、整えていく。櫛の歯の間を金糸が滑り落ちるたび、光の加減でその色合いが変化していく。よく見ると金糸に弾かれた光は七彩に輝いているようだった。
    「閣下の御髪はいつみても綺麗ですね」
    「男の髪に綺麗もなにもないだろう」
    「ええー、そんなことないですよ。美しいに男も女もない、でしょう?」
    「でしょうと言われてもな……」
    「閣下がなんと言おうと、私は世界で一番美しいと思ってるから、美しいでいいんですー」
     妙なことに拘る男であった。なんとも言い難い表情だが、流されるままに身支度を整えてもらう。
     横になるために緩めていたシャツのボタンを止めた指が、そのままよれた襟を伸ばす。近くの椅子の背もたれにかけておいた上着に袖を通せば、流れるような仕草でボタンの留め具合や階級章の傾き、ネクタイの締まりを確かめられた。
     一通り確認し終えて、部下が満足げに笑って、自慢げに胸を張る。この部下はなぜかラインハルト本人よりも、ラインハルトについて自信がある。
    「今日も世界一美しいですよ、閣下」
     なにを言っても無駄なのはわかっていたので、ラインハルトはその戯言を無視した。それはそれとして咎めないと調子に乗り始める部下の後頭部を軽く叩いておいた。
    「で、誰なんだ、その客人は」
    「……宣伝省の方ですね」
    「まあ、分かったが……報告は正確にしろ。卿、あの男にだけは妙に辛辣になるな」
    「どうせ不要不急の誘いですよ、閣下」
     すねたような物言いに、ラインハルト珍しく苦笑した。
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