てててっと駆け寄ってきたこどもを見て、ラインハルトは多少眉をしかめた。
長い黒髪を黄色いリボンで結った少年だ。両手でもふもふとした獣のぬいぐるみを抱えていた。デフォルメされたぬいぐるみの原型を想像してみたが、よくわからない。猫耳のようなものは生えているのでネコ科のなにかだろう。
少年はラインハルトの後をずっとついてきている。ラインハルトは特に歩くスピードを遅くしなかったが、あきらめずにずっとついてきているのだ。
自分の家の前について、ラインハルトはさすがに足をとめて振り返った。
このままだと家の中までついてきそうだ。
「迷子なら――」
ラインハルトが口を開くや否や、少年はひしとラインハルトに抱きついた。
思わず無言で少年を眺める。少年はじっとラインハルトを見上げていた。
ゆっくりと覚醒する。懐かしい夢を見た。
そこそこ遠い昔のことだ。ラインハルトの髪が短いころの話だった。
今もラインハルトの家には少年が住み着いている。あのころから変わらない姿で。
いやまあ、態度はかなり大きくなったが。
「ハイドリヒ、もう朝だぞ。今日は水族館にいく約束だ」
寝台のそばでぬいぐるみを抱きかかえている少年がいた。
もう身支度はすませているらしい。楽しみにしているのが手に取るように分かる。
ゆったりと起き上がって、ラインハルトは伸びをした。
気が付いたら勝手に家に居つかれていただけだが、なんだかんだ慣れてしまったし、今となってはもう日常の一部であった。