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    7co_ta

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    まだ付き合っていない潔と二子が、アキバの女装カフェでまどマギの杏子とさやかのコスプレをする話です。
    pixivで連載中の『ドリームロック!』が完結したら、pixivにも載せます。

    #isnk

    アキバで女装デート♡ 渋谷でブルーロックの面々と遊んで帰ってきたその日、潔世一は二子一輝にLINEを送った。
    『今から通話していい?』
    『別にいいですけど、何ですか?』
    『二子の声が聞きたくなってさ』
     そのメッセージに既読がついて数分。
     俺、キモかったか? 二子に引かれたか?
     そんなことを思ってもだもだしていたところで、二子からの着信を告げるメロディが鳴った。すぐに取る。
    「もしもし、二子? 急に悪い」
    「いえ、大丈夫です。こちらこそ反応が遅れてごめんなさい。……それで、どうしたんですか?」
    「いや今日、ブルーロックのみんなと遊んだんだけど、二子がいなかったから、ちょっと寂しくてさ……。声が聞きたくなった。……迷惑だったか?」
    「いえ、いいです……」
     心持ち声が小さくなった。照れているのかもしれない。
    「でもさ、どうして来なかったんだ。渋谷、楽しかったぜ?」
    「溜まっていたアニメを観ていました」
    「えっ」
    「あと、渋谷にあまり興味がなくて……。集団行動も苦手ですし」
    「それでよくサッカーなんて大人数のチームスポーツがやれるな」
    「自分が指揮をしたり、自分がゲームの要になるのが楽しいんですよ」
    「ハハ、お前も相当なエゴイストだな」
    「潔くんほどじゃないです」
     軽口の応酬に愉快な気分になりつつ、潔は言う。
    「それじゃさ、二子が興味あるところに行こうぜ。東京周辺でどこかないか?」
     サッカー観戦でも、遊園地でも、動物園でも。
     そんな風に思っていたところで二子の声がした。
    「それなら、秋葉原に行きたいです」

     秋葉原。
     それはサッカーに明け暮れていた潔世一にとっては未知なる場所だった。
     まあ秋葉原にもカラオケくらいあるだろ。そう思いつつ通話しながら検索し、電気街口で11時半に待ち合わせを決めた。
     そして当日。
     電気街口の改札に、大きなリュックを背負った二子が現れた。比較的関東寄りの軽井沢から来たにしてはやたらとでかいリュックだ。それとも山から下りて来たのだろうか。
     二人とも目はいい。ほぼ同時に相手に気づく。潔が手を振ると、二子が会釈した。
    「よう、二子。呼び出して悪かったな」
    「いえ、いいんです。休暇の間にアキバにも行きたいと思っていましたから」
    「アキバって言うんだ」
    「アキバです。あ、これ、軽井沢のお土産です」
     二子がリュックから「軽井沢トルタ」と書かれた紙袋を取り出した。
    「わー、これ菓子か? うまそうだ。ありがとうな!」
    「いえいえ」
    「母さんも喜ぶよ」
     そう言いながら紙袋をバッグにしまう。
    「じゃあさっそくだけど、昼メシを食おうか。検索したら、人気のラーメン屋があったんだ」
    「どこでもいいですよ」
     グーグルマップを頼りに、二人は路地裏のラーメン店に向かった。しかしそこは、道の角を曲がってさらに続くほどの行列になっていた。
    「げ。こんなに並ぶのか!」
    「僕たちも並びます?」
    「うーん、ちょっと行列を見てくる。二子はここで待ってて」
    「はい」
     小走りで角を曲がる。ざっと見たところ数十人が並んでいた。いくら回転の早いラーメン店とはいえ、これではかなり待つだろう。
     ほかの店にしようか。
     そう思いながら元の場所に戻って来たところで、二子がとある店のショーウィンドウを見ているのに気づいた。
    『めたもるふぉ〜ぜかふぇ BOY to GIRL』
     そう書かれたロゴの両脇に、アニメキャラと思わしきコスプレ衣装を着たトルソーがある。
     よく見たら、ランチメニューの立看板も道に出ている。オムライスなども食べられるようだ。
    「二子、この店が気になるのか?」
     声をかけると、二子がビクッと肩を弾ませた。
    「いえ、いえいえ。好きなアニメキャラのコスプレ衣装が展示されていたので、よくできているなーと思って見ていただけです」
    「へえ、この服かー」
     青っぽいボブカットのウィッグに、紺色のビスチェとミニスカート、白いマント。何かのファンタジーの女の子キャラだろうか。
    「ここっていわゆるコスプレカフェだよな?」
    「そうだと思います」
    「いいじゃん、二子の好きなキャラのコスプレが見られるかもしれないぞ? ラーメン屋は混んでたし、ここにしよう」
    「え、ちょっと、潔くん!?」
     二子の手を引いて、店のドアを開けた。
    「いらっしゃいませ〜♡」
     聞こえてきたのは低い声だった。
    「え」
     そこにはカラフルなウィッグとヒラヒラのスカートを身につけた男性店員たちが並んでいた。ぱっと見、女性に見える者も、そうでない者もいる。
     あ、ここ、女装カフェだ……!
    「間違えました、すみません!」
     そう言って出ようとしたのだが、取り囲まれた。
    「わー、可愛い顔のお客様だー!」
    「高校生かな? 肌きれいー」
    「メカクレの子はそっちの層に受けそう〜」
    「お客様、このお店は初めてですか〜?」
    「は、はい」
    「初めてのお客様には、メイクとウィッグの体験を500円でやっているんです。いかがですか〜?」
     二子を見ると、明らかに困惑した様子だった。しかし判断能力に長けた潔は、この状況をいち早く把握し、そしてひとつの意思を持つ。

     二子の女装を見てみたい!!!

     普段は厚くて長い前髪に隠れているが、二子の眼が大きくて可愛らしいことを知っている。きっと女装も似合うはずだ。
    「俺が支払うので、この子に女装をさせてください」
    「えっ!?」
     二子が顔を赤くする。
    「い、嫌ですよ!」
    「二子の可愛いところ、俺が見たいんだよ!」
     言ってから、潔も赤面する。
     店員たちが「おやおや」「可愛いね」といった目で二人を見ていた。
    「じゃ、じゃあ交換条件です。潔くんも女装をしてください。僕が支払います」
    「お、おう。わかった」
     少しの恥ずかしさはあったが、仕方ない。潔は頷く。
    「では……」
     前髪の奥の眼が、光ったように見えた。
    「表にあったさやかのウィッグ、着けられますか? 僕はそれで。この人には杏子のウィッグがあれば着けてください」
     よくわからないが、二子がやる気になったようだ。

     二人は背中合わせの状態でメイクを受けることになった。まずクリーム色のケープが巻かれる。
    「それじゃあヘアネットをかぶせますね。髪を上げた状態でメイクをします」
    「あ、あの。髪は上げないといけませんか? できれば眼を見せたくはないんですが……」
    「なんで? きれいな眼なのに」
     潔が言うと、鏡に映る二子がボッと顔を赤くした。
    「きれい、ですか」
    「うん」
    「気持ち悪くはないですか?」
    「? なんで? 俺は好きだよ、二子の眼」
    「ううう……」
     二子の顔がさらに赤くなる。店員たちが「おやおや」「可愛いね」といった表情をした。
    「じゃあ、髪、上げます……」
    「はい、承知しました〜」
     前髪がヘアネットによって上げられると、ぱっちりとしたエメラルドグリーンの眼があらわになった。
    「ええ〜! めちゃくちゃ可愛いじゃないですか!」
     店員が感嘆したような声を上げる。
    「この子、宝石の原石みたいですよ、店長ー!」
    「えっ、可愛いですか?」
    「うん、眼が大きくて、まつ毛も長くて、うらやましいくらい!」
     顔を真っ赤にする二子とは対照的に、潔は得意げな顔になる。
     そうだろう、二子は可愛いだろう。うんうん。
     しかしどこかに胸をチクリと刺す針のようなものもあった。
    「では、メイクをしていきますねー。このキャラは中学生なので、ナチュラルめの可愛い感じでいきます」
     二人の顔に化粧水や乳液、化粧下地、コンシーラーなどが塗られていく。
     母さんの化粧よりも念入りだな、と潔は思う。
     リキッドファンデーションは3色づかい、その上からパウダー、頬にピンクのチーク、鼻の横と輪郭沿いにシェーディング。ナチュラルメイクと言われていたが、かなりしっかりやるようだ。
     眉毛は整える程度にカットされ、ウィッグに合わせてかボルドー色のアイブロウマニキュアが塗られる。
     それからピンクブラウンのアイシャドウとアイライナー。ビューラーでまつ毛を上げてマスカラが塗られ、最後にピンクベージュのリップがリップブラシで塗られた。お試しとはいえ、500円でここまでやってくれるのはめちゃくちゃ安いのだろうと思う。
     仕上げに、赤毛をポニーテールにしたウィッグをかぶせられる。
    「千切なら地毛でできるんじゃないか、これ」
    「そうですね。千切くんなら杏子のコスプレも似合うと思います」
    「はは、あいつも呼べば良かったか」
    「いいえ、僕は潔くんに杏子をやってもらいたいんです!」
     なんだか強めに言われた。お、おう。
    「できましたー。わー、可愛いー!」
     メイクを担当した店員がパチパチと拍手をする。
     鏡の中には赤毛のポニーテールの美少女がいた。えっ、俺、可愛いじゃん!
    「こっちも完成ですー。すっごく可愛いー!」
     振り返る。そこには青いボブカットのウィッグをかぶった、すごい美少女がいた。
    「え……」
     一瞬、潔の動きが止まる。
    「い、潔くん?」
     すごい美少女から二子の戸惑ったような声がした。
    「やっぱり変、ですか……?」
    「いや、その逆。めちゃくちゃ可愛い……」
    「ええっ」
    「二人とも可愛いですよー!」
     メイクを担当した店員や、ほかの店員たちがわらわらと取り囲む。
     『店長』とハート型のバッジを付けた店員が、満面の笑みでやってきた。
    「良ければ衣装も貸しますので、お写真を撮らせていただけませんか? お客様の変身事例として、サイトやインスタに載せたいんです」
    「えっ、ええー!」
    「いいじゃん。ここまでやってもらったんだし、衣装も借りようぜ。俺も二子の可愛い格好、見たいし」
    「うう……。魔法少女の方じゃなくて、制服なら……。制服、ありますか?」
    「ありますよー」
     店員が嬉々として2着の制服を持って来た。
     かくて。
    「はい、こちらに視線くださーい! 撮りますよー。3、2、1」
     白いブラウスに赤いリボン、クリーム色のジャケットに黒いチェックのプリーツスカート。
     見滝原中学校の女子制服を着た二人は、店内にある撮影スペースで写真を撮られることとなった。
     店員だけではなく、沢山の客もスマホやデジカメのレンズを向けてくる。
    「わー、めっちゃ可愛い!」
    「杏さや! 杏さや!」
    「独りぼっちは、寂しいもんな」
    「独りぼっちは、寂しいもんな!」
     名台詞か何かだろうかと、潔は思う。
    「じゃあ、軽い絡みの写真も撮りましょうー。両手を恋人つなぎにできますか?」
    「恋人つなぎって、こうですか?」
     潔が二子の指の股に指をはめ込むようにして手をつなぐ。二子が顔を真っ赤にした。
    「わー、さやかちゃん真っ赤になってる。可愛いー!」
    「可愛い、可愛い!」
    「可愛いですよー。はい、視線こっちにくださーい!」
     そんな風にして撮影会は終了した。

    「はー……恥ずかしかった……」
     そう言いながら、美樹さやかのウィッグをかぶった二子がオムライスにスプーンを入れる。その様子も可愛くて、佐倉杏子のウィッグをかぶった潔は目を細める。
    「俺は楽しかったよ。二子も可愛かったし」
    「い、潔くんも可愛いですよ」
    「ハハ、ありがとうな。……でも、二子が可愛い可愛いと言われすぎてて、ちょっと嫉妬したかも」
    「えっ、潔くんも可愛いのに!」
    「そうじゃねえよ」
     潔は苦笑する。
    「俺だけが知っていると思ってた二子の可愛さがさ、こう、世界に知れ渡ったみたいで……。あっ」
     気がつくと、オムライスに描かれたケチャップのハートのように、二子の顔が赤くなっていた。
    「二子って赤面症なんだな……」
    「潔くんのせいです!」
     二子は少し怒ったように、スプーンをハートの真ん中に突き刺した。

     勿体無い気持ちはあったが、ウィッグを取りメイクを落として、二人はまた秋葉原の街に出た。店員が総出で見送ってくれた。
    「両親から色々買い物を頼まれているんです」
     いつもの髪型に戻った二子と一緒に、アニメショップをはしごした。やたらとでかいリュックは、買ったものを入れるためにあったようだ。
     それからゲームセンターでUFOキャッチャーなどをしているうちに、日がだいぶ傾いて来た。
    「……そろそろ帰ります」
    「新幹線に乗るのって上野か? 新幹線の改札まで行くよ」
    「……はい」
     二人は山手線の座席に並んで座る。
    「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
    「俺も楽しかったよ」
    「はい……」
     しかしどことなく二子の元気がない。
    「どうかしたのか?」
     やっぱり女装させたの嫌だったか? そう不安になったところで二子が口を開いた。
    「潔くんと離れるのが、寂しい、と思ってしまいました」
    「えっ」
    「僕、友達もいなくて、ずっと独りだったんですけど、独りでも楽しかったですし、それで問題がなかったんです。でも……」
     そう言ったところで電車が上野に到着する。
    「あ、降りましょう」
     二子が慌ててリュックを背負った。
     上野駅構内を二人は言葉少なに歩いていた。
    『またブルーロックで会おう』
     潔の中にはそんな言葉が浮かんでいたが、それだけでは足りない気もした。
     やがて新幹線の改札に着く。
    「今日はありがとうございました」
     二子がぺこりと頭を下げて、改札に向かった。
    「二子!」
     その背中に声を投げる。二子が振り返った。
    「俺と、付き合ってくれ!」
    「え」
     駅を行く周りの人々がどよめく。
    「えっ、こんなところでですか!?」
     今日一番の赤い顔で二子が叫ぶ。人の流れのわきに移動し、少しためらった後で口を開いた。
    「はい……僕で良ければ……」
    「やったー!」
     思わず抱きつく。腕の中に熱い体を感じた。
    「独りぼっちは、寂しいもんな!」
    「もう、そのセリフ、覚えたんですか」
    「おう」
    「『魔法少女まどか☆マギカ』です。dアニメストアなどでも観られますから、良ければ観てくださいね」
    「ああ、わかった」
     二子の口元に笑みが浮かんだ。
     その顔を何よりも愛しいと思った。

     二人は笑顔で手を振って別れた。
     dアニメストアに加入した潔世一が『魔法少女まどか☆マギカ』を観て、3話でショックを受けるのは、少し先の話である。
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