君の名は「もうこれ以上仲間を増やせないんだ、わかってくれ」
眉をハの字の形にして、男が言う。その優しそうな目に惹かれて、倒された後、仲間にしてほしいと申し出た。一度断られたが、どうしても諦められず、あとをついていったら、男が立ち止まり、ため息をついてから言ったのが、その言葉だった。
「ねえ、こんなに言ってるんだから、仲間にしてあげましょうよ」
男の傍らで女が言う。美しい女だ。女を見ていると、なんだか不思議とあたたかい気持ちになってくる。ついていこうと思ったのは、男の目に惹かれたのもあるが、このやさしげな女の雰囲気もある。実際、自分以外にも同じような魔物がこの男と女のまわりに集まって、ふたりを守ろうと囲んでいるようだ。
「そうは言っても、数がいっぱいだし、それに、こいつはゴーレムだろう。大きくて人目につきやすい、ただでさえ向こうには目をつけられているんだから、目立たないよう行動するに越したことはないよ。とにかくグランバニアに早く到着しないといけないし」
「そう……そうね、確かにそうだけれど……」
女は哀れみを含んだ目でこちらを見たが、やがて何かに気がついた様子で、あっ、と言って、大きなふくろに手を突っ込み、がさがさと中を探った。
「ねえ、これ、こっそり持ってきたの、使ってあげましょう」
「おい、それは、貴重なものだろう、こんな所で」
「いいのよ。……私わかるの、きっとこの子は私たちの未来に幸福をもたらしてくれるわ、守り神になってくれる。それに、ゴーレムってとっても義理堅いのよ。ねえ、いいでしょう、あなた。一度だけだから、お願い」
「うーん……仕方ないな、わかったよ」
女は男の言葉を聞くと、ぱっと蕾が綻んだような笑顔を浮かべ、そして、さ、あなた、これを飲んで、と言って、銀の水差しをこちらに差し出してくる。言われた通りその水差しの中の水を飲むと、見ている景色がしゅるしゅると低くなってゆき、やがて男と女、ふたりの目の高さと同じになった。
「やったわ! では、あなたにも名前をつけないとね」
「そうだな……そうだ、トンヌラはどうだろう」
「あら、それより私、いいのを思いついたわ」
男は、どんなのだい、と言う。女は、サンチョよ、と言った。男は、ああ、それはいいな、と言って笑う。
「よし、では君はこれからサンチョだ。人間となって、これから私たちを助けてくれよ。私はパパス、こちらはこれから私の妻になるマーサだ。私たちはこれからグランバニアに帰って、結婚式を挙げる予定なんだ。君のことは旅の最中に見つけた召使いということにしておくから、これから私のことは旦那様と呼んでおくれ。マーサのことは、奥方様、と」
「ふふ、なんだか照れちゃうわ。これからよろしくね、サンチョ」
パパスとマーサは幸せそうに笑いながらこちらを見ている。ふたりのあたたかいその笑顔を見ていると、こちらも胸のうちがぽかぽかと暖かくなってくるようだった。きっとこのふたりをずっと、末永くお守りしなければ、とかたく胸に誓い、私は、「はい、旦那様、奥方様、このサンチョにお任せください」と言った。