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    まみや

    @mamiyahinemosu

    好きなように書いた短めの話を載せてます。
    現在は主にDQ6(ハッ主)、たまにLAL。

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    まみや

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    DQ6、ハッ主…にまだなりきれてない。初めての旅、ちょっと経ったころ、飯屋に入る。

    #ハッ主
    masterOfTheHack
    ##6(ハッ主)

    友達「おっ、パエリアがあるぜ、この店」
     海の近くにある街の飯屋のメニューを見て、ハッサンが嬉しそうな顔をする。
    「ぱえり、あ…?」
    「やったぜ、アクアパッツァもある! よし、頼もう」
     そう言うが早いか、ハッサンは店員さんを呼びつけて、パエリアと、アクアパッツァと、あと、貝の壺焼きとやらを頼んでしまった。
    「あ……あくあ、ぱっつぉ…?」
    「ツォじゃねえ、ツァだ。魚とか貝とかが色々入ってる、煮込み料理だよ。この街もそうだけど、オレの故郷のサンマリーノは海の近くだから、小さい頃からよく食べてたんだ。美味いぜ」
    「へえ…」
     なんか呪文みたいな名前だな、と呟くと、ハッサンは、そうかもな、と笑った。
    「そういやお前、貝の食べ方、わかるのか? 前、骨つき鷄が出てきた時、戸惑ってたろ」
     貝はな、貝がら持って齧り付いて食うんだぜ、レック王子様、と、ハッサンがどこか人の悪い笑みを浮かべてこちらの顔を見てきたので、ちょっとむっとしてしまう。
     ハッサンと出会ってからこれまでの旅の道中、見たことのない色んなものが気になって、ハッサンにあれこれと質問することが多かった。ハッサンは、出会った最初のころは少し戸惑い気味にというか遠慮がちに、でも普通に教えてくれたのだが、だんだん、レック王子様はそんなことも知らねえのか、仕方ねえな、と、なぜか揶揄うように笑いながら教えてくれるようになってきた。
     気の置けない友達、という存在を、ボクは書物でしか見たことがないけれど、もし実在するならこんな感じなのかもしれない。仲良く、冗談を言い合ったり、笑い合ったり、それはとても素敵なことだし、ハッサンとそういうふうになれたら、嬉しいなと思う気持ちは確かにある。
     ただ、王子様、と揶揄われるようにハッサンに呼ばれるたび、もやもやとしてしまう。他のことで揶揄われても別に気にならないのに、王子様、と言われた時だけ、心のどこかが、ちり、とざわついて。

    「……貝は知ってる、でも貝がらがついたままで料理になってるのは見たことない」
    「ふうん、さすが、王子様は違うねえ」

     レック王子様ならきっと立派な王に。
     レック王子様、どうか王子様からも王様に。
     王子のあなたならわかってくれますね?
     シェーラとこの国のこと、くれぐれもたのんだぞ。

    「……ハッサン」
    「ん? どうした、レック」
    「…………ボク、王子様って、そういう風に言われるの、あんまり、好きじゃない」

     生まれた時から王子だった。
     王子だから、皆に色んなことを期待される。気がついたらずっとそうだった。
     いい子ねってよく褒められた。褒められないと不安だった。ちゃんといい子にして、周りの大人の言うことをよく聞くのが一番いい。イヤだなんて、間違っても言っちゃいけない。そうすれば、何もかもうまくいく。ずっとそう思ってた。
     でも現実はどうだ。いい子にしてたって、何も、…何も、ひとつも良いことなんてなかった。悪いことばっかり起きて、どうしようもなくなって。
     もしも。
     母上に、父上に、セーラとふたりきりじゃ寂しい、イヤだ、ボクのことをちゃんと見てほしい、ムドーのことなんか放っておけばいい、討伐なんかやめてよ、と、正直に言っていれば。
     何かが、変わっただろうか。
     今となってはもうわからない。
     覆水は盆には返らない。
     いよいよどうにもならなくなって、ボクはトム兵士長の反対を押し切って、旅に出ることにした。反対されても、ムドーを倒すしか、もう道は残されていないと思ったから。
     大人の言うことを聞かなかったのはあれが初めてだった。
     そして出会ったのがハッサンだった。
     ハッサンは、ボクのことを王子様ではなく、レックと呼んでくる。ボクが王子様だからって別に何も期待してこない。そんな人はハッサンが初めてで、嬉しくて。
     だから、…ハッサンに王子様だって、言われて揶揄われるのは、嫌だった。そして、このまま、いい子のふりをして、自分の気持ちを押し殺したまま、わかってもらえないのも嫌だと思った。
     ……もっと悪いことが起こるんじゃないかって、思ってしまって。
    「ボクは王子様になんて、なりたくなかった。父上も母上も国もめちゃくちゃで、良いことなんか何もない、……その上に揶揄われまでするのは、イヤだ」
     そこまで言って息を吐いた。
     覚悟していたはずなのに、だんだん、不安がじわじわと腹の奥から這い上がってくる。
     こんなことを言ったら、ハッサンに嫌われるんじゃないだろうか。せっかく、気の置けない友達みたいになれたのに、愛想を尽かされるんじゃないだろうか。
     こんな経験ないから、どうするのが一番いいのか、わからない。
     やっぱり、大人しく、黙っていた方が。
    「……ごめんな、レック。悪かった」
     でも、ハッサンは、ボクの言葉を聞いて、いつになく神妙な顔で頭を下げてきた。
     思いのほか真面目に謝ってくる様子のハッサンに、かえってこちらの方が恐縮してしまう。
    「え、あ、いや、……ごめん、そんなに謝ってもらうほどのことじゃ」
    「いや、オレが悪かったよ、ごめん。そうだよな、お前だって好きで王子になったんじゃねえのに、…それで揶揄われるのはイヤだよな」
     もう言わねえよ、許してくれ、と真剣な顔で言ってくるハッサンの言葉に、思わず胸を撫で下ろす。
     ああ、よかった、嫌われなくて。
     …悪いことが、起こらなくて。
    「いいんだ、もう気にしないで。 …実際、王子なのは事実だしさ」
    「いや、……あの、自分でもどうかと思うんだけどよ、揶揄った時に、お前が口を尖らせてくるのがちょっとかわいいなと思って、軽い気持ちで、つい、何回も揶揄っちまって……いや、本当にごめん、もうしねえよ」
     ハッサンのその言葉に思わず目を丸くする。
     えっ、そんな理由で?
     ハッサンは情けない、バツが悪そうな、そして少し恥ずかしそうな赤い顔でぽりぽりと後ろ頭を掻いていた。
    「なんかさ、知らないことをオレに熱心に聞いてくるのも、弟ができたみたいで、嬉しくて、かわいいなと思って…その、ちょっと、やりすぎたっていうか…。でも、さっき見て思ったけど、ほっとした、笑った顔の方がいいな、お前。……もう二度としねえ、ごめん、この通り」
     そう言って手を合わせて謝るポーズをとるハッサンを見て、ホッとすると同時に、じわじわと恥ずかしい気持ちになってくる。
     かわいいと言われるのも弟みたいと言われるのも初めてで、どう思えばいいのか、……なんだか胸の奥の方がむずむずして、どうも落ち着かない。
    「………う、……うん………いいよ」
    「他にも嫌なことあったら、すぐ言ってくれよ。オレ、バカだから、知らないうちに何かやっちまってるかもしれないし」
    「………わかった」
     言っていいのか。イヤだって。
     それでも、ハッサンはボクのこと、嫌いになったりしないのか。
     嬉しくておもわず頬が緩む。胸の奥がなんだか暖かい。
     そのままお互いに黙り込んでしまったせいで、妙に気恥ずかしい沈黙が生まれる。それを破ったのは、いかにも海の男風な、豪快な雰囲気の店主だった。
    「はい、兄さん方、お待ち! パエリアとアクアパッツァ、それに貝の壺焼きね!」
     沢山食べてってくれよ、と笑って、店主は足早に厨房に戻っていった。目の前に並べられた皿を見て、ハッサンが、おっ、美味そう、と嬉しそうな声を上げる。
     パエリアかアクアパッツァかわからないけど、とにかく、目の前の料理に乗っている二枚貝の貝がらを指で掴み、貝の身を歯で齧りとる。
     すると、口の中いっぱいに潮の香りが広がって。
    「……おいしい」
    「お、とうとうオレの指導なしでも貝が食えるようになったか、レック!」
     兄貴としては嬉しいぜ、とハッサンが満面の笑みでこちらの肩をばんばんと叩いてくる。
    「……別に、ハッサンみたいな兄ちゃんなんかいらないし」
     死に別れたりしたら、絶対嫌だし。
     セーラだって、突然こんな図体のでかい迫力のある兄ちゃんが増えたら天国でびっくりするだろうし。結構泣き虫だったから、見ただけで泣き出すかもしれない。
    「ええ……つれねえな、お前……」
     ハッサンはがっくり肩を落とし、しょんぼりとした様子で貝に手を伸ばす。
    「ハッサンは今のままでいいよ。…もし何かになるなら友達がいいな。ね、なってくれる?」
     ボクがそう言うと、ハッサンは驚いたようにボクの顔を見、そして、あたぼうよ、と言って、満面の笑みを浮かべたのだった。
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