質屋さんパロの鯉月腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)。夏を前にして日没の時間はだんだんと遅くなり、夕飯時も陽の名残りらしき温もりが居間に残るようになってきた。質屋ではもうじき閑散期に差し掛かると聞いたのがこの間、春に質入れした布団の利子を払ったときのことだ。秋にまた取りに来る、と鯉登は冬の服や布団をまとめて店に預け、倉庫代わりにすることにしてみたのだった。
「では、お前も少しは暇が作れるのか」
「ええ、まあ、多少は」
歯切れの悪い返事は、商売をする人間として堂々と「暇です」などとは言いにくいからだろう。月島は台帳の隅に視線をずらした。
「ならば私とほおずき市へ行ってみないか」
その商人の弱みにつけこむかのようにずいと前へ身を乗り出し、鯉登は曖昧な「暇」に自身の予定を上書きしようと試みる。
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