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    転生の毛玉

    あらゆる幻覚

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    【ヌビアの子】創作シリーズ!複数キャラの誕生日かぶり セーヌ編 カステルさんといっしょ

    ##創作

    セーヌ誕アタシは高校の校舎を出ると、勢いづけて走る。
    目指すはヌビア学研究所附属図書館、その解剖生理学分野スペース事務室。
    そこに、今日会いたいと思っている人────アタシと同じヌビア解剖生理学分野で実験対象になることの多い【ヌビアの子/スタミナ】─────セーヌがいるはずだ。

    図書館そのものまでは、しっかり走ればものの1分程度で辿り着く。息なんか切れるはずもない。むしろ、この玄関から件の事務室まで移動するほうが大変だった。
    つくづくこの図書館は縦にも横にも広い。(アタシにはそれら全てを把握しきれないほど多くの)ヌビアの名を冠する様々な学問にまつわる蔵書が収められているのだから、当然、図書館も巨大になるというものだ。ヌビア解剖生理学なんかは比較的マイナーな学問なのだが、それでもその蔵書だけで、広大な図書館の半フロア分が埋まってしまう。ヌビア学、ひいてはヌビアそのものの偉大さを思い知らされる。

    アタシは階段を上りながら、通る階の案内を横目で見た。
    (多分、ここはリヨンがいる分野)
    (多分、ここは双子やハトラがいる分野)
    (多分、ここは……)
    【ヌビアの子】でいうと誰、と考えるのが、一番わかりやすい。そう思いながら、また階段を上がっていく。ヌビア解剖生理学は、かなり上の階にある。とはいえ、エレベータを使うよりは、自分の足のほうが早い。
    (………ここは、ヌビア復活学だ)
    ふと、その看板を見かけて足が止まった。
    【ヌビアの子】の誰もが関わっていて、【ヌビアの子】の誰もが知らない領域。
    (………もうすぐ1年になるのに、結局、復活学からはほとんどアプローチがなかったな)
    その文字列を見つめたまま、思う。

    元はといえば、アタシを含めた【ヌビアの子】は『この現代に嘗ての大英雄を復活させることで、より優れた世界を目指す』『その大英雄の復活のためには、呪いを受けた子たちが必要らしい』という名目で集められた。だというのに、この1年間といえば、それぞれの受け継いだ能力についての情報を提供するばかりだった。ヌビアを復活させるために云々してほしい、という話は、ついぞ聞かなかった。
    (どうなってんのかな)
    アタシは正直なところ、ヌビアの復活に対して、然程興味がなかった。リヨンなんかは『ヌビア様を絶対に復活させますわ!』と宣言しているし、反対にハトラなんかは『ヌビアが復活したら、ボクたちの力は無くなっちゃうんだよねェ』と難色を示している。そういった関心が、アタシにはない。この【スピード】で著しい得をしたことも、反対に著しい不利益を被ったこともないから、だろう。
    (………セーヌは、どうなんだろ)
    これから会いに行こうとする、その人の顔が浮かんだ。
    ヌビアによる分散の呪いは────アタシなんかは、前述の理由からまるきり重く捉えていないが────あるヌビアの子にとっては、まさに『呪い』だった。だから、その復活を願うか否かは、かなりデリケートな話題に分類される。それこそリヨンやハトラのように賛成・反対を明言している方が、かえって珍しい。ゆえにアタシは、どんなに仲が良くても、セーヌの復活に対する在り方を知らない。
    (………知りたいような気もするし、知らなくていい気もするし……)
    思いながら、アタシは足を進めた。とっ、とっ、と足音も軽く、階段を駆け上がる。

    *****

    「セーヌ、誕生日おめでとう」
    アタシが事務室に入ってそう声を掛けると、セーヌは「きゃ!」と叫んで手に持っていた書類を落としてしまった。どうやら、書類事務を頼まれていたらしい。
    「驚かせちゃったね。ごめんごめん」
    アタシはセーヌが一歩動くより早く、すべての書類を拾い集め、渡す。セーヌは少しだけ口元を緩めて、「ありがとう」と答えた。それから、はにかんで続ける。
    「カステル、わ、私の誕生日覚えててくれた…んですね」
    「もちろん」
    アタシは頷いた。
    というか、ヌビアの子の結構な割合がセーヌの誕生日を覚えているのではないだろうか。3月15日、ラサと同じ日。
    ヌビアの子恒例、双子主催誕生日会を二人共が遠慮したために(あのカリスマ双子が折れた稀有な例だ)誕生日会こそ開かれなかった。しかし、実験の合間、各々がプレゼントを相談している場面には何度か出くわした。
    ────そのたびに、『セーヌのところに行くのは、カステルの後にする』と言われてきたのは、まぁ、別の話。
    「わた、私………たん、誕生日をお祝いして、も、貰えるなんて、は、初めてで…。う、う、嬉しい…」
    セーヌは絞り出すみたいに、ぎゅうっと気持ちを込めた小さな声でアタシにそう言った。口を挟みたくなるのをグッとこらえて、最期まで耳を傾ける。
    「わ、私には、す、す、過ぎた贅沢のように、お、思えて…。か、カステル、本当に、ありがとう……」
    セーヌは長身を折った。長い髪がゆっくり揺れる。

    アタシは、セーヌの深い事情を知らない。知っているのは、育った家がイコール生まれた家ではない、ということだけだ。『言いたいことがあればいつでも言え』と言ってあるから、その日が来たら、セーヌの口から聞けばいい。

    アタシは本題に入る。
    「セーヌ、プレゼントなんだけどさ」
    「えっ、えっ、ぷ、ぷぷ、プレゼント…!」
    「うん」
    アタシはちょっと思いついて、いたずらっぽく笑ってやった。
    「アタシをあげちゃうよ。なーんて」
    「え!!!!!!!!」
    「ひっ」
    セーヌがこれまで聞いたことのない大声を上げたので、アタシは思わずびっくりと跳ねてしまった。その様を見て、更にここが事務室と言えど図書館だったことを思い出して、セーヌは「ごご、ご、ごめんなさい、ごめんなさい…!」と平謝りに平謝る。アタシは少し早まった心拍を落ち着けると、「平気平気」と涙声になるセーヌを宥めた。
    「セーヌ、遊園地とか経験ないって言ってたよね」
    「は、は、はい…」
    「だから、ペアチケット買ったんだ。アタシとの二人きりで良いか、だけが問題点だけどね」
    「も、も、問題なんてあるはずない…!わ、わたし、う、嬉しい!あ、あり、ありがとう、カステル…!」
    アタシがひらりと見せたチケットを、セーヌはアタシの手ごとワシっと掴む。ちらっ、と見えた紺色っぽい右目が、喜びでゆらゆら揺れているのが見えた。
    「そう言ってくれると、嬉しいよ」
    アタシは、握られた手を小さく上下しながら答えた。セーヌの顔は、ますます喜色に染まる。

    (良かった)
    本当は、これでいいのかと悩んでいたのだ。ペアチケットなんて、カップルでもあるまいし。
    とはいえ、セーヌは喜んでくれた。今日は、百点満点だ。
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