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    転生の毛玉

    あらゆる幻覚

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    転生の毛玉

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    【創作】ヌビアの子
    エルベくん 2回目の誕生日設定です

    ##創作

    エルベ誕 2nd「なぁ、オリックスさんはさ、フマナ博士のことについて、何か知らないのか」

    ヌビア学研究所、第3会議室。防音に優れたこの部屋の中にいるのは、私と、エルベだけだった。
    エルベは私に誘われるままにその部屋に入ると、パイプ椅子に座ってぼんやりと壁を見つめていた。それから放ったのが、先の一言だった。
    「フマナ博士」
    私は、それだけ鸚鵡返しをする。エルベは、こっくり頷いた。
    「前に研究の予定を知らされた時は、誕生日前後も馬鹿みてぇに実験入れやがって…、って思ってたんだ。それが、21日のを最後に、急に全キャンセルになったんだよ。だから、変だなと思って。聞いてみたら、いなくなった、って…」
    エルベは、何かを考えているのだろうか。遠くを見ながら、ぼんやりと呟く。【プレ・ヌビア】である自分には、【優しさ】のように相手の希望を尽く聞き取る力は無い。故に、彼が求めている返答をすぐに出すことはできない。
    だから、代わりの言葉を選んだ。
    「実験、したかったのか」
    「まさか。実験がなくなること自体は大歓迎だ。あんな…………あんなの、辛いばっかりだから」
    エルベの顔に影が差す。
    エルベは、私と違ってヌビアの一生分の記憶を背負って生きている。私には出来ない、『ヌビアの人格を呼び出す』という行為ができる。だからこそ、彼に対して、頻繁に人格を呼び出す実験が執り行われる。それが、エルベにとって酷く苦痛を伴うものであるにも関わらず、だ。
    (その第一人者が、フマナ博士だったか)
    私は耳をそばだてた。エルベの思考に向かって神経を尖らせれば、彼の願いが読み取れる。今この瞬間、彼が求めていることが手に取るように分かる。
    私は、エルベへと手を伸ばした。セットした前髪を崩すかもしれないという憂慮を無視して、頭をくしゃりと撫でてやる。エルベが、金と赤の瞳で上目気味に私を見た。
    (随分と、大人になった)
    ふと、そう思った。
    無理もない。エルベはつい昨日、17歳になったのだ。
    私と初めて会った頃の────つまりまだ4歳の、幼気で【記憶】に翻弄されるばかりの彼とは違う。
    内面ばかりは【記憶】のせいで早熟だったが、外面もいよいよ大人の男に向かおうとしている。背丈も伸びたし、顔付きも随分精悍になった。
    だが、目の前のエルベは、今この瞬間に限っては俺に幼い頃そうされたような扱いを望んでいるらしい。しばらく頭を撫でていても、拒まれることは無かった。それどころか、甘えるように掌を受け入れていた。
    (………そうさせたのは、私か)
    表情は動かさずに、自嘲する。
    エルベと肉親の間に透明な壁を作り上げ、本来肉親に甘えるべきところを自分に甘えるよう仕向けた。全ては、ヌビアの復活のため、【ヌビアの子】招集のため。
    そのことに、負い目などは感じていない。そうすることが、私の役目であり、生きる意味だからだ。
    ただ、今はエルベが望むままに、その金髪を撫でていてやりたかった。

    「フマナ博士、さ。俺は嫌いだけど、皆は結構好きだったみたいなんだ。だから急にいなくなって、がっかりしてる奴らも多いんだ」
    しばらく俺の掌を受け入れていたエルベだったが、たっぷり一分の後、やっと俺の腕を除けた。それから、呟いたのだった。
    「……………」
    彼の言う『みんな』はニアイコール【ヌビアの子】のことだ。
    私は黙ってエルベの言葉を待つ。エルベも、私が黙りこくることに慣れているから、勝手に口を開く。
    「確かに、なんだか、【ヌビアの子】に優しいなとは思っていたんだ。学校でのこと気遣ってくれたり、一人暮らしで辛くないか、って言ってくれたり………。研究はめちゃくちゃだったけどさ」
    エルベは、肩を竦めて苦笑いを示す。
    私は、やはり口を開かずにいた。余計なことを言ってしまいそうだったからだ。
    (………仕向けたのは、さしずめマルティネスか、オーリンか………)
    頭の中に、自分と同じ幹部団の名前を浮かべる。いくらフマナ博士が有力な研究者だったとしても抗えない先として、筆頭に挙がる連中だ。尚且つ、彼らはヌビア復活に対して過激派とも言える思想を持っている。強引な手段を取る可能性は、高い。
    「フマナ博士、どこに行ったのかな………なんて、オリックスさんが知ってるはずないか。ははっ」
    エルベはカラカラと笑う。
    彼は私を、単なる研究所のヒラ事務員だと思っている────そしてその思考に囚われるよう仕向けられている────。私が幹部団で、ましてやフマナ失踪の原因づくりの容疑者よりも上位だなどとは、決して思わない。
    「……………」
    私は静かに目を伏せた。
    それをただ是と受け取ったエルベは、直ぐに次の話に移っていく。
    「それより、オリックスさん。誕生日プレゼント、今年は何をくれるんだ?」
    「………それは、包みを開けてのお楽しみだ」
    言いながら、つい頬が緩んだ。自分の声色が穏やかになるのを、自覚した。

    今年のプレゼントは、エルベの欲しがっていたネックレスだった。
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