I don't need anything but you 依頼が無事に終わり、依頼人を自宅に送り届けて自宅に戻ると、リビングと、客間の壁に、風穴が開いていた。
香と車の中からアパートを見上げ、ふたりでぽかんと口を開けた。
「なに、これ」
「なん……だろうなぁ……」
翔子くんがセスナを突っ込ませた時によく似ているが、違うと言えば、何も刺さっていないことだ。ただ、くり抜かれたような風穴が開いていて、トリックアートなら良かったのにな、と香に言ったら、バカ言ってんじゃないと怒られた。
香が、枕を抱えて隣に座っている。深夜0時、風呂上がりの生乾きの髪をタオルで拭きながら、今夜のことを考える。かれこれもう五分くらいこうして黙って座っているが、寝る場所がここしかないのは明白だ。
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