記憶退行ロイド君で小話勉強を教えて欲しい。
突然そう言われて驚いたが、ロイドの性格を考えればそう不思議な事でもないかと納得し、そして皆が出払っている間ロイドを独り占め出来る事が嬉しくて、二つ返事で引き受けたのは3日ほど前の事だった。
ロイドの記憶は一向に戻る気配がなく、一人で留守番をさせるのはと日曜学校はしばらくお休みだ。
今日は書き取りをしようとロイドにペンとノートを渡して見ていれば、以前は上手とは言い難いものの、読みやすい几帳面な文字を書いていたのに、少し読み取りにくい、ミミズがのたくったような文字を書いていて、少し笑ってしまう。
ふと時計を見ればそろそろ皆が帰ってくる時間になっていたので、夕食の支度をするから、とロイドに声をかければ、僕も手伝う、という言葉が帰ってくる。
昨日まではただ分かった、とだけ返されていたから驚いてロイドの顔を見れば、少しはにかんだような笑みを浮かべて、キーアちゃんひとりだと大変でしょ?と宣うものだから、幼くてもロイドはロイドだなと思いながら、一緒にやろっか、と答え、エプロンを付け(後ろの紐が上手に結べていなかったので結んであげた)、手を洗って、包丁を使って切るのは自分がやるから、とロイドには野菜を洗ったり盛り付けをしてもらう。
記憶がないとはいえ、体は覚えているのだろう。案外手際よく作業を進めるロイドを見上げて、こんな時間が、もう少しだけ続けば良いと、そう思った。