キーアの反抗期かと気を揉む支援課(と書いて親バカと読む)一同最近キーアの帰りが遅い。どこに行っているのか聞いても、はぐらかされてしまう。
近頃、特務支援課の親バ…、保護者組は、そんな悩みを抱えている。
それ以外は至って普通なのだが、とにかくどこに行っているのか、何をしているのか。それだけは頑として言おうとしないのだ。
こうなれば後を尾けるしかないかとも思うが、業務のある日は難しいしキーアは意外と敏い。
ツァイトに頼もうにもこの図体ではどうしたって目立つし、一体どうしたものかと一同が悩んでいると、そこへひょっこりと顔を出したのは、今やアルカンシェルの看板女優でもあるリーシャ・マオだった。
「こんにちは。今日は少し時間があるので顔を出しに来たんですが。…あの、どうかなさいましたか?」
「ああ、リーシャ。よく来たな」
「いらっしゃい。大したおもてなしは出来ないけど、ゆっくりしていって?」
「あ、いえ、お構いなく。……悩みごと、ですか?何だか眉間にしわが寄っているような…」
「すみません。その、大した事ではないのですが…」
「聞いてくれるか?リーシャちゃん!」
こうして一同の悩みを聞くことになった彼女が次に放った言葉は、ならば私が探ってみましょうか、というものだった。
「良いのか?」
「はい、他ならぬ皆さんのためですから。今日はキーアちゃんは…」
「日曜学校の日よ。多分その後、どこかに寄ると思うのだけど」
「分かりました。私にお任せくださいっ」
「頼んだ、リーシャ!」
「キーアの事、よろしくお願いします!」
「もし悪い奴らに脅されたり絡まれたりしてたら、そいつらはぶっ飛ばして良いからな?」
「お、落ち着いてください、ランディさん。皆さんも…。それでは、行って来ますね」
キーアの様子を探るためにリーシャが出ていき、そこで既に昼の休憩時間が終わっている事に気付いた一行も慌てて仕事に取りかかる。
そして夕方。業務を終えてキーアとリーシャの帰りを今か今かと待ち構えていた一同の前にリーシャが現れ、成果を報告した。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいっ」
「どうでしたか!?」
「キー坊のやつ、何か危ない事にかかわってねえだろうなっ!?」
「落ち着いてください、皆さん」
「あ、ああ。…すまない、リーシャ。それで、どうだったんだ?」
「大丈夫です。皆さんの心配しているような事はありませんでした」
「なら何故、何も言ってくれないんだ?」
「…それは、皆さん自身の目で確かめた方が良いと思います。多分そう遠くない内に分かるでしょうから」
「つまり、言う気はねえって事か」
「でもリーシャさんのお陰で危険はないと分かったのだし、待ちましょうか」
「そうですね。気にはなりますけど」
そこへただいまーっと元気な声が聞こえてくる。そして、それではこれで、とリーシャが出ていき、入れ替わるようにしてキーアが入ってきて、リーシャが来てたの?と尋ねてくる。
それに、今日はお休みだったから顔を出してくれたんだよ、と答え、夕食にしようか、と話を切り替えれば、その後はいつも通りの光景が広がるのだった。
そして数日後。
その日もたくさんの支援要請が入り、ワジも加わって二組に別れ、それぞれ要請をこなしてビルへと戻ってきたのは夕方、というより、既に夜と言った方が良いような時間だった。
「ただいま…」
「今日も忙しかったわね…」
「まだこれから、報告書を書かないといけないんじゃないのかい?」
「言うな、ワジ…」
「先に夕食にしましょう。腹が減っては何とやら、です。……あの。何か、いい匂いがしませんか?」
くたくたにくたびれた一行がティオの言葉に鼻をひくつかせれば、確かにとてもいい匂いがキッチンから漂ってきている。
と、お帰りーっ!とキーアがそちらから出てきたので、夕食の支度をしてくれたのかと尋ねると、笑顔で頷く。
「あのね、今日はパンを焼いてみたんだっ!」
「パンを?…へえ、凄いじゃないか。結構難しいんだろう?」
「えへへ。モルジュでね?教えてもらったの!…見た目は上手に出来ても、味はオスカーたちが作ったのに敵わないから、どうしてか聞きに行ったら、ならしばらく修業してみるかって言われて」
「それで帰りが遅かったのね?…言ってくれれば良かったのに」
「みんなをね、驚かせたかったんだ。ねえ、驚いた?」
「ええ。とても驚きました」
「そんでもってすげえ嬉しいぜ。ありがとな、キー坊!」
キーアに早く手を洗って席に着いて、と促され、テーブルの上には色んな種類のパンと、サラダとスープが並べられる。
そこでしばらく黙ったままだったロイドが感極まったようにキーアを抱き締め、ありがとな、と涙声で告げれば、キーアからパアッと満面の笑みが溢れ、どういたしまして、と答えるその声は本当に嬉しそうで。
その日の疲れも全て吹っ飛んだ一同は、キーアの作ったパンに舌鼓を打ちながら話に花を咲かせるのだった。
「やれやれ。親バカここに極まれり、かな」
「何か言ったか?ワジ」
「何でもないよ、ロイド。…うん、これ、本当に美味しいね。お店を開けるんじゃないかな?」
「ほんと?えへへ、嬉しいな」
「…ふふ、君は本当に良い子だね。けど、あまり皆に心配をかけないようにね?でないとロイドたちが、心配のし過ぎで倒れちゃうから」
「ほえ?…うん、分かった!」
「ワジ?…キーアに何か、変なことを吹き込んでないだろうな?」
「やだなあ、そんな事するわけないじゃないか。……ねえ、ロイド」
「何だ?」
「この幸せが、続くと良いね」
「…ああ、そうだな」