初音 赤とは燃える炎の明るさ。それを思い出さずにいられないほど鮮烈な赤髪が、さらさらと[[rb:書卓 > つくえ]]に落ちていく。その気配に女官がちろりと視線を向けると、頬杖をつき項垂れた主が苦々しい表情を浮かべていた。読めない文字、知らない言葉があっただろうか。物を知らぬ女王と侮る者もいるけれど、国のために根を詰める主君を見れば敬愛の念は芽生えるものだ。
女官がお茶と茶菓子を用意すると、女王は苦笑しながらありがとうと囁く。蓬莱での癖が抜けないので、バレないように声を潜める新しい癖が出来てしまった。
ホォー、キョ?
磨かれた指先が菓子を摘んだとき、[[rb:庭院 > にわ]]からなんとも間抜けな声がした。暦の上で[[rb:黄鶯睍睆 > うぐいすなく]]を迎えて数日、ようやく聞こえた初音に陽子は失笑する。
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