その男は長いこと負けが込んでおり、カジノへのツケが膨れ上がっていた。返済期限はとうに過ぎている。ツケがきくのはお得意様だけと言われて調子に乗ってしまった自覚はあった。
家財道具をはじめ売れるものはなんでも売ったがツケの完済には至らなかった。こうなったらやはりギャンブルに勝って増やすしかないと腹を括って店を訪れ、いまはポーカーテーブルについている。
だがこの男、ギャンブルに対するセンスというものをどうやら持ち合わせていないらしい。
わずか数枚になってしまったチップを見つめて男がぎりぎりと奥歯を噛み締めていると、金髪の小柄なディーラーが話し掛けた。
「ちょっと一服してきたらいかがですか」
カードをあざやかにさばきながら、ディーラーは人当たりのいい笑みを浮かべた。
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