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    はまおぎ

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    はまおぎ

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    スニーク 駅前の地下街を歩いていた庵の目に、この京都には本来いるはずのない白が映り込んだ。五条だ。
     地下街はこれから庵が使うつもりの地下鉄駅だけでなく、新幹線駅にも接続している。きっと五条は出張の帰りに、新幹線が出発するまでの時間をここでつぶしているのだ。両手にぶら下がる銘菓の紙袋から察するに、土産物店めぐりは済ませている。
     五条が店を冷やかしながら進む方向は、庵が進みたい方向と重なっていた。あれに追いつくことも気づかれることもなく改札口まで歩く、というミッションが発生してしまった。肩にかけるバッグの重みが増したが、何も知らず突っ込んで行ってしまうよりは数倍マシだわと、己をなだめる。
     ただでさえ人混みから頭ひとつ抜けている長身が人目を引く男だ。さらに視覚を完全に遮断しているような目元の布が、道ゆく人々からどう控えめに見ても怪しまれていた。両手に土産袋で観光客然とした程度の非日常要素では、あの身なりはかばいきれないらしい。
     そんな周囲からの奇異の目など気にも留めない男の道行は、もはや優雅ですらあった。長い脚はゆるりと一歩一歩を踏みしめる。店に入るまではせずとも少し足を止めて、一瞬だけ店先の商品に注目する。これの繰り返し。おかげで庵は何度か追いつきかけた。何を思い出したのか五条が不意に後方の店へ目をやったときなど、咄嗟に最寄りの店に駆け込む羽目になった。ショップの店員にいらっしゃいませと声をかけられ、愛想笑いを返したときの情けなさと言ったら。
     それでもどんな道にもゴールはあって、庵もついに目的の改札口へ辿り着くことができた。前方でフラフラしていた白は、もう見当たらない。新幹線駅へ抜けていったのだろう。
     改札の前で立ち止まり、ミッションコンプリートね、とパスケースを取り出すためにバッグに手をかける。
    「詰めが甘いって言われない? 歌姫」五条が庵の真後ろに立っていた。
    「開口一番失礼なのよ」
     反射で文句を投げたものの、今この瞬間、庵は五条の言葉を否定できない。そうだ、詰めが甘かった。立ち止まらず、流れるように改札へ突き進むべきだったのだ。
    「僕に追いつかないように、見つからないようにって、ゆーっくり、歩いてたでしょ」五条が前方へ回り込み、庵の視界に入る。
    「……ずっと気づいてたってわけ」思わず奥歯を噛み締めてしまった。
    「歌姫の気配に気づかない僕じゃないよ。面白そうだったから、歩くペース落としたんだ。困った?」力む顎をからかうように、歯が砕けちゃうよなどと五条が宣う。
     庵は五条を睨みながら、馬鹿正直に直接改札を目指した数分前の自分を恨んだ。どこかの店に入って買い物するとか、地上に上がって回り道するとか、工夫の余地はいくらでもあったはずだ。思い至ったところで今更なのだが。
    「僕を避けて歩いたとしても、回り込んで目の前に現れてやるけど」今みたいにね、と五条がへらへら笑う。
    「アンタ、たまに粘着質よね……」
     庵の思考を読んだ上で否定するような発言に頭痛がしてきて、目をつぶってこめかみを揉んだ。しかし痛みも、五条も、消えない。なんなら目をつぶったせいで意識が集中したのか、痛みは増した気すらする。
     ガサゴソと紙の触れ合う音に目を開くと、五条が紙袋を片手にまとめている。あの個数の持ち手を一度につかめるあたり身長に比例して手も大きいんだな、などと益体もないことを考えていた庵の手を、紙袋から解放された五条の片手がつかんだ。
    「さ、仲良く並んで歩こうねえ」
     五条がくるりと方向転換したのに、当然庵も巻き込まれた。地下鉄の改札はもはや後方、前方は新幹線駅へつながる階段だ。
    「何この手!」
    「東京に連行するのも考えたけど、明日は授業あるからお互いゆっくりできないよなあって。だから代わりに、ギリギリのとこまでお見送りさせてあげる。僕って気遣い上手〜」
    「見送りなんぞするか! 私は帰るの!」手を振りほどこうと暴れても、がっちりとつかまれている、というか、捕まっている。
     階段を抜けてからも五条の足取りは緩まなかった。
    「入場券は僕が奢るからさ。あ、小銭あったかな」
    「……この手放して、お財布確認すれば?」
    「やだよ。放したら歌姫どっか行っちゃうでしょ」
     チッと庵が放った舌打ちを、喧騒の中でも五条はちゃんと聞き取ったらしい。うわ生意気〜と笑う声に、生意気なのはどっちだよと、吠えた。

    (2110240455)
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