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    はまおぎ

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    はまおぎ

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    ご+う

    お引き取りください「次はいつ東京来んの」
     授業時間を終えた京都校の廊下で、五条が唐突に庵の目の前に立ち塞がり、唐突に尋ねた。「こないだは、あんまりゆっくりしてかなかったでしょ」と男が言うのは、庵が推し球団の主催試合を見に行った日のことだろう。
    「今度ファングッズ配る日があるんだろ。その日?」
    「あのね。私の目的地は、東京じゃなくて所沢」
     車を持っていない庵が京都から所沢へ向かうにあたっては、東京を避けて通るのは難しい。新幹線で東京駅なり品川駅に出て、さらに路線を乗り換えていくのが現実的な選択だ。このとき東京は経由地であって、目的地ではない。
    「プライベート以外で東京行くときは仕事だから、アンタに、かかずらってる、暇なんか、ないの」
     庵の上京スケジュールに、五条を絡めるつもりは毛頭ない。そう刻みつけるつもりで、一言ひとことを区切り、きっぱりと言い含める。
    「硝子に会うためなら、東京来るじゃん」野球も仕事も関係なくたって来るんじゃん、と五条がごねた。
     五条は家入ではない。家入ではないので、庵は五条に会うために東京に行ったりはしない。庵が刻みつけたかった気持ちは、無下限か何かで五条に認識されることを防がれてしまったらしい。全く届いていない。
    「東京じゃなくて、硝子のいるところに行ってるの。硝子が東京にいるから東京に行くってだけ」
     言いながら、少し苦しいなとは思った。しかし事実だ。家入がいるのが例えば北海道だったとしたら、庵は北海道に向かい、北海道でカニを片手に家入と飲む。沖縄にいるなら沖縄で、ラフテーを肴に泡盛を飲もう。
    「何より、私がどこに行こうとアンタに伝える義理はないんだわ。それはプライベートだろうが仕事だろうが、関係ない」
     先ほどは言外に込めて刻みつけそこねてしまったので、今度こそ明言してやる。
    「分かったなら、ね」
     話はこれで終わりだ、と庵は五条の脇をすり抜ける——すり抜けようとした。
     すり抜けられなかった。五条の憎らしいほど長いおみ足が、ずだん、と庵の目の前で床を踏み締めたので。
    「おい床が抜けたらどうしてくれるの」
    「分かんなかったら帰んなくていいのかな」
    「訂正、『さっさと去ね』。なんなら今すぐ新幹線取ってやるから、その便で帰れ」庵はスマートフォンを取り出す。
    「マジ? そんじゃD・E連番で二人分頼むね」
    「二席取るのはいいけど、アンタ一人で帰るのよ」

    (2110280612)
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