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    はまおぎ

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    はまおぎ

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    ご×う

    茶葉 湯気のたつ湯のみを口元に寄せた五条が、一瞬動きをとめた。くんと香りをかいでから、ひと口。考えるような時間を一拍置いて、もうひと口。ふう、と息をつきながら湯のみをテーブルに戻して、持ち込んでいた豆大福に手を伸ばした。
     向かいで眺めていた庵が「どう?」と声をかけたとき、五条は口を大きく開けて豆大福の半分ほどを一気に口にしたところだった。ビー玉のような瞳で庵を見返しながら、奥歯までいっぱいに使ってもぐもぐと嚙み締める。甘味をのみこんで喉仏が上下するのを見届けて、庵は再び問いかけた。
    「お茶、どう?」
    「濁らず透き通る色味がきれい。色の印象の割に香りが強めだけど、主張してるっていうより味を支えてるって感じ」
    「要するに?」
    「おいしいよ」五条が湯のみを手に取る。「これ、こないだ出してくれたのと違うね」
    「近所のお茶屋さんが最近、仕入れ始めたほうじ茶なの。おすすめされて買ってみたら、大当たりだった」五条の評を聞いた庵は肩の力を抜く。「それに、和菓子でも洋菓子でも、甘いものによく合うんですって」
    「甘いものめったに食べないくせに、そのセールストークで買ったの?」ちょろいね、とひとこと言い添えてから、五条がまたひと口ほうじ茶を飲んだ。
     庵は甘いものをめったに食べない。五条の言う通りだ。ただし、庵に限定しなければ、この部屋で甘いものをそれなりの頻度で消費する人間はいる。まさに今、彼女の目の前で、手の中に半分残っていた豆大福を頬張っている男だ。
    「これは、アンタが来たとき専用」
     手元の湯のみを見つめながら庵がそう告げたのと、五条が豆大福をごくりとのみ下したのは同時だった。部屋がやけに静かになった。湯のみを両手で包む庵は、食べも飲みもせずにテーブルの対岸からじっと見つめてくる五条の視線を感じている。温かい湯のみに添えた手のひらに、汗がにじむ。
     冷蔵庫のファンが立てたブーンという音に、庵の肩が跳ねた。慌てて取り繕うように湯のみを持ち上げ、ほうじ茶を口にする。香ばしい湯気に、自然と深呼吸した。
     五条がふたつ目の豆大福に手を伸ばすのが目に入る。
    「お茶おいしいから、せっせと通ったげるね」
    「気に入ったなら持って帰ってもいいわよ」
    「それは魅力的だけどさ。うち、急須は置いてないし」
     うちにはまだ歌姫もいないしね、と五条が続けたのを聞いて、まだってなんだよ、と庵は思う。聞き返すのは相手の思う壷であるような気がしたので、口には出さなかった。
    「だからやっぱ、こっち来る。次は洋菓子買ってくるよ、甘さ控えめのやつ」歌姫もそれなら食べるでしょ、と五条の顔がニヤつく。
    「アンタの基準じゃなくて、一般的な基準で控えめならね」
     きっと庵は五条基準の「甘さ控えめ」に文句を言いながら、このお茶を飲むことになるのだろう。ほとんど確信に等しい予想を描いて、湯のみの中の琥珀色に苦笑した。

    (2111030541)
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