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    はまおぎ

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    はまおぎ

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    ご×う。
    「大義名分」「贈り物」の続き。うっかりさんはどっちだ。

    うっかり 部屋に入るどころか共用廊下にいてすら、ここは庵の住む部屋よりも快適な空間なのではないかと思えた。庵が突っ立っている目の前にあるのは、堅固という言葉を具現化したような玄関だ。その反面、ドアの表面材に再現された木目が、迎え入れる客をもてなす温かみを演出する。
     庵はひたすらに突っ立っている。庵の一歩後ろに、家主も立っている。
    「早く開けて」
     ほら、と急かす五条の言葉に、庵は己の手の中にある鍵を握り直した。玄関の解錠だけしてすぐさま踵を返しマンションを後にして宿にありつくというのは、この男に背後を取られた状況では叶わぬ選択肢なのだろう。解錠したが最後、庵の行く先はドアの向こう——五条の部屋の中。道は一直線だ。
     この忌々しい直線の始点は、出勤前の着信だった。始業前の早朝に任務を一件こなしたという五条が、その出発時に「ついうっかり」鍵を持って出なかったのだと電話口で宣ったのだ。
    「これじゃ帰れないなーって思ってたけど、歌姫が鍵持ってるじゃん? 今日、午後から東京こっち来る予定じゃん?」
     庵は五条の自宅の鍵を持っている。というか、押し付けられて、そのまま返せないでいる。渡されたときの箱に入れたまま、通帳やら判子やらを入れている引き出しにしまい込んであった。
    「歌姫が鍵持って僕の部屋に来てくれたら、万事解決」
    「あんまりいいことじゃないけど、エントランスさえなんとかできれば部屋には入れるんじゃないの? 鍵持って出なかったなら、部屋の玄関にはロックかけてないわけでしょう」引き出しに視線をやりながら、庵の持つ鍵以外の解決策を模索する。
    「うちのセキュリティーなめないでほしいなー。部屋だってオートロックだよ」
     庵は絶句した。そんな部屋に住んで、なんで鍵を持ち出し忘れるなんてヘマをやらかしやがったのだ、この男は。セキュリティーなめてるのはアンタじゃないのか。
    「それでも私がアンタの部屋まで行く必要はないでしょう。高専で鍵だけやりとりすれば十分じゃない。五条は鍵が手に入って部屋に帰れる。私は鍵を返せる。ほら、ウィンウィン」
    「歌姫が鍵返してきてる時点で、差し引きしたら僕としてはルーズかな。そしたら歌姫の一人勝ちじゃん」
     フェアじゃないよと回線の向こう側で文句を垂れてから「そろそろ歌姫も出勤する時間だろ。とにかく鍵は頼むね」と念押しして、庵の反応も待たずに五条は通話を切った。五条の言う通り、時間は押していた。仕方がないので、とりあえず五条宅の鍵をスーツケースに放り込んで、家を出た。
     午後になって東京校を訪れても、五条は見当たらない。家入か伊地知あたりに鍵を預けて宿に向かおうと荷物を引いて歩いているときに、五条から校門で待っているとのメッセージが届いた。校門に着いた庵を迎えたのは、自宅を閉め出された男とタクシーだった。あとはドア・トゥ・ドアである。
     そもそも言われた通りに鍵を持って来てしまった時点で、庵の負けなのかもしれない。それでもドアの前で、もうひと足掻きしてしまう。
    「……もう一度探してみたら? 鍵」
    「朝から何度も探したヨー。それでもなかったんだヨー」
     ポケットまでひっくり返したんだから、と五条はボトムスの腰回りをぽんぽんたたいた。仕草も声音もオーバーで、芝居がかっている。
    「往生際が悪いね。ここまで来ておいて歌姫は、閉め出された僕を放ってサヨウナラするっての? 外道が過ぎるよ、そりゃ」
     庵が外道かどうかはさておき、往生際が悪いのは確かだ。エントランスは数分前に庵の手で解錠して、五条と並んで通過した。このドアだって同じことだろうと五条は言う。
    「開けてくれるお礼に、冷蔵庫にビールいろいろ買ってきてあるからさ」
    「元から連れ込む気満々なんじゃないのよ!」
     何が「ついうっかり」だよ、と真後ろに立つ男の胸元を、鍵を握った拳で殴りつけた。届かないと分かっていても、殴らなければならないときはある。
     無限が受け止めた庵の拳を、五条は両の手で包んだ。
    「連れ込むんじゃないよ。歌姫がその手で鍵を開けて、僕の部屋に入るんだ」
     鍵ひとつで、何やら重大な決断を迫られている気がする。寒くもないのに、鳥肌が立った。

    (2111090541)
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