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    はまおぎ

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    はまおぎ

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    ご→う

    マーキング 五条が医務室に顔を出すと、庵が回転椅子に座っていた。五条の登場に気づけば顔をしかめてみせる。二人が声を上げるより先にタイミングよくそこに現れた家入が、庵の出張にんむの相方を務めていた術師の治療が先ほど一段落となったことを庵に告げた。命に別状はないとも言い添えて、少し作業が残っているという家入はまた忙しなく去っていった。
     庵の祓除対象である呪霊には相方が致命傷をたたき込んだが、それがゆえに呪霊は逃げを打ったらしい。そこで庵は追い討ちをかけるよりも相打ち状態だった相方の延命処置を優先したのだという。
    「これから態勢立て直して、策を練って、もう一回行くわ。次で仕留める」
     朗報を受けてそう言った庵の黒髪は、全てが背中に肩に流れている。当然、後ろ頭でひらりと主張する白いリボンも見当たらない。
    「歌姫、リボンはどうしたの」
     五条の問いに庵は普段リボンのあるあたりに手をやって、一度するりと手ぐしで髪を撫でおろした。一房の髪が細い指にいざなわれて胸元へと流れ着くのを、目で追う。
    「戦闘中にほどけちゃって。まだ現場に落ちてるんじゃないかしら。髪はちょっと邪魔だけどリボンの替えはないから、そのままにしてるのよ」
     庵の言葉に、ふうん、とも、ううん、ともつかない音が五条の口先からこぼれた。五条自身も、どちらの音を発したかったのかは分からない。彼女の後ろ髪にリボンがない。その代わりに彼女がまとってしまっているものが五条の視界にしか映らないものであること。庵の横顔を眺めてそれらの意味を考えることの方が、よほど重要だった。
    「うん、だめだな。よくない」
    「何が」
    「リボン、呪霊に持ってかれたんだと思う」
     ぽす、と庵の小さな頭に手を乗せた。そのまま後ろへと頭の丸みをたどる五条の手を、いつものようにリボンがさえぎることはない。
    「半端に戦って、おいしそうな獲物認定されたんでしょ。代わりにマーキングばりに呪力がまとわりついてるよ、髪に」
     うわあ、と小さく不快感をあらわにする庵の声を聞きながら、繰り返しその髪を撫でつける。黒髪の流れを楽しみつつも触れたそばから呪霊の残穢をぬぐっていく程度、五条にかかれば造作もない。
     庵はらしくもなく静かに髪を五条に差し出している。まるで借りてきた猫だ。五条の手指が何をしているのか、察しているのだろう。
    「さっきシャワーしたんだけど」
    「呪いが界面活性剤ごときで落ちてたら、僕らの商売上がったりだろ」
     仕上げとばかりに後ろ髪をひとまとめにして背中へ流す。こしのある髪はさらさらと五条の手のひらからこぼれて、白衣をまとってまっすぐに伸びる背中を覆っていった。
     さて、と言いながら庵の肩に手を置いて、その体が五条と正対するようにくるりと回す。こういうとき回転椅子は便利だ。
    「首元のそれは何かな」
    「ガーゼ。反転術式で今や怪我知らずの特級サマは忘れちゃったかしら」
    「そういう話してんじゃないって、分かんない?」伸ばした手を、庵の首元に貼りついたガーゼに添える。「頭いいんだろうね、その呪霊。ここを封じれば歌姫が雑魚ってことに気づいたんだ」
     五条の手のひらは、指を広げれば庵の喉元など容易に覆うことができる。あごの下のラインを親指で一度なぞる。そのまま喉に沿って手を広げ、ぐ、と力を込めた。手のひらが皮膚の下、脈を感じとる。庵がごくりと唾を飲み下す、その動きも。
    「商売道具に手出しされて黙ったままでいるほど、私、おとなしくないわ」
     庵が己の首を絞める男を睨み上げた。彼女の喉は五条の手の中でビリビリ震えて、硬くまっすぐな声を紡いでいく。
    「だから受けて立ってやるために、あの呪霊のところには私がもう一度行くのよ。喧嘩売られたのを忘れてやるつもりもないから、硝子の反転術式ちりょうも蹴ったんじゃない」
     分かったら放しなさい、と言う庵は、しかし五条の手をたたき落とすどころか払う素振りも見せなかった。なにかと五条につっかかってくる女であるが、今この瞬間、喧嘩の相手を間違えるほど愚かではない。
     指の先をガーゼと肌の間に滑り込ませてガーゼを剝ぎとってやれば、一文字を描く赤が五条の目に飛び込んでくる。ガーゼを丸めて握りこんだ。そのまま喉を撫であげるように庵の首元に人差し指を滑らせ、赤い一文字をなぞる。己の呪力を膏薬代わりに塗り込めたところでこの怪我が治るなんてことはないが、無粋なマーキングへの反駁にはなるだろう。

    (2112090022)
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