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    はまおぎ

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    はまおぎ

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    すぐりこ
    2期設定画にテンション上がって生存if書き始めてしまったのはいいものの、ばっちり迷走。0公開1周年にかこつけて、導入部を供養します。

    ずるいこ 理子ちゃん、と呼ぶ声に返事をするより先に、ぴょんと足が動いた。天内が駆け寄った戸を開ければ、思い描いた通りの人――夏油が、日が落ちて暗くなった廊下に立っている。
     ただし、夏油の顔は天内が想像していた涼やかな微笑みにはほど遠い表情だった。時折ぱちりと揺れる蛍光灯の明かりを背負って、少し眉をしかめて切れ長の目を見開いているこれは怒り、……いや、呆れ顔か。
    「夏油さん?」
     恐る恐る呼びかける。夏油は呆れを隠さないため息をついた。
    「理子ちゃん、君、相変わらず確認しないですぐ戸を開けるね。寮の中とはいっても、もう少し用心した方がいい」
    「他の人の声だったら、開ける前にちゃんと確かめてるよ」
     天元の結界に守られているとはいえ、呪術高専の敷地には日々さまざまな人間が出入りする。頼りの結界が万人に対して有効な守りではないことも、天内は二年前に身をもって知った。
     この春に中学を卒業した天内は、呪術高専への進学と入寮を機に、十年以上を一緒に過ごした黒井と生活基盤を分かつことになった。学生寮であっても自分の身やパーソナルスペースを守ることをゆめ怠ってはならないと、引っ越しの作業をしながら黒井に強く強く言い含められたことをよく覚えている。
    『わきまえない人間というのは残念なことに、どこにいてもおかしくないのですよ。そんなやつらのために、こちらばかりがピリピリと神経をすり減らすというのも業腹です。でも、いつまでも黒井がお世話するというわけにもいきません。理子様は、これから大人になるのですから』
     大人になるということをあまり具体的に考えてこなかった――考えたところで断ち切られて無駄になるはずだった――天内にとって、黒井の諫言は自立の指針だ。自分で自分のことを守れるようになること。自分に責任を持つ第一歩として。
    「だけど、声聞けば夏油さんだーって分かるから……」
    「声を模倣する呪霊や呪術だってあり得るだろう? 普段から警戒する癖をつけておくべきだよ」
    「それは……そうです、ごめんなさい。気をつけます」
     天内が素直に謝れば夏油は、うん、と頭をなでてくれた。ふわりと頭を包む手の重さに、少し鼻先が熱くなる。
     二年前の事件と騒動を経た天内には、夏油と、彼の同級生である五条に守られた経験が深く刻み込まれている。特に天内に自由意志を取り戻すきっかけをくれた夏油のことは、反射的に頼りにして、甘えている自覚があった。その彼の声や気配を疑えと言われるのは正直、戸惑いが勝る。
     それでも、建設的で冷静な指摘をした夏油は、天内の身を案じてくれているのだ。その気遣いに応えるためなら、甘えたくてすぐ走り出してしまう感情だってどうにかコントロールできると思えた。
     しばらくして頭から離れていった手のひらを目で追って、夏油が背負っている荷物が目に入った。改めて見れば、彼が部屋着ではなく制服を着ていることにも気づく。天内は授業を終えて随分前に着替えたというのに。なかなか休まらない姿に四年生の忙しさを実感する。
    「夏油さん、その荷物は?」
    「急に出張任務が入ってね、このまま出るんだ。それで、明日一般教養のノート貸してあげるって約束だったのに会えなくなってしまったから」
    「わ、持ってきてくれたんだ! ありがとう」
    「私が理子ちゃんに会いたかっただけだよ」
     だから気にしないでいいと、こちらの申し訳なさを拭ってみせるような言葉まで添えてきた。
     私に会いたかったって、会いたかったって。
     差し出されたノートを受け取りながら、都合のいい言葉に舞い上がりそうになる心を必死にたたき落とす。どうせ年上の余裕というやつに違いない。夏油にしてみればこの程度、子どもの機嫌をとるためのリップサービスでしかないのだ。一年ほど前に双子の女の子を保護して親代わりになっている夏油には、子どもの相手なんて朝飯前だろう。
     おだてられていると分かっているのに踊らされる、この心が悔しい。
    「急に膨れたね? かわいいよ、ハムスターみたい。理子ハムちゃん、ここに何ため込んでるの」
     笑いながら頬をつんつんと指でつつかれる。頭をなでるのも含め、どうも夏油は天内に触れることに遠慮がないように思う。そんなところも子ども扱いされていると感じて、またへこむ。
     夏油がつつく頬を膨らます、天内のこの感情の正体。もしも本当に伝えたら、彼は驚き、そして困るのだろう。
     街で身を擦り寄せてきた女性を、さらりとあしらう夏油の姿は何度も見たことがある。彼女たちに対するように「お誘いいただいて光栄だけど私はあなたに興味ないよサヨウナラ」と切り捨てて終わり、とはしないはずだ。その程度にはかわいがられていると思いたい天内の、希望的観測ではあるが。
     けれどきっと、今のままの関係ではいてくれない。名前を呼ばれなくなるかもしれない。こうして気軽に会いに来てくれることも、あやすようなふれあいも、きっとなくなってしまう。
     彼との間に生まれるだろう隙間を想像すれば、それだけでひやりと心に風が通った。
    「……やだ」
     思わず顔をそらすと、夏油の指が頬を離れた。ごめんね、という彼の声が聞こえる。
    「さて、そろそろ行くよ。ノートは好きなタイミングで返してくれたらいいから」
     その言葉で、夏油が任務に赴くところだったことを思い出す。
     カリキュラムにおける座学の割合が極端に減り、実習という体の任務がメインになるのが呪術高専四年生の生活だ。同じ学校に在籍していても、学ぶべきことの多い一年生の天内が夏油に会える機会はそう多くはない。
     その夏油が忙しい合間を縫って天内に会いに来たとまで言ってくれたのに、最後に見せた顔が膨れっ面だなんて。
    「夏油さんっ」
     勢い込んで顔を上げた。まっすぐに夏油の目を見て、笑う。
    「ノートありがとう。任務が無事に終わりますように。……いってらっしゃい!」
    「理子ちゃんも授業頑張って。いってきます」
     微笑んだ夏油は、去り際に手を伸ばして天内の頭をそっとなでていった。変わらずためらいの見られないスキンシップにざらりとした焦りを覚えないといえば、うそになる。それでいて大きな手が離れていってしまえば体温が名残惜しくて、どんどん離れていった背中を目でじっと追っていた。
     夏油に妹のようにかわいがってもらえるのは、うれしい。本音を言えば、妹ではなくて女の子でありたいけれど。
     下手に身を寄せてあの手に振り払われてしまうのは嫌だ、なんて。
    「ずるいなあ」
     たまたま収まった今の立場に、天内は甘え続けている。

    (22.12.24 02:33)
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