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    ナツメ

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    ナツメ

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    遙か2
    勝真現代エンド後の勝真×花梨

    いつか いつか京を出て、どこかに行けたらいい。あの頃はぼんやりと、そんなことを考えていた。単調で代り映えのない毎日に、いいようのない閉塞感から「末法の世だ」と世を儚んだり、他人に八つ当たりしてしまったり、なんてことは日常茶飯事だった。
    それは京を出てからもそうで、「いつかは」なんて嘯いて、なにも変えようとしなかったのは他ならない自分だと気付いた。となりで、笑っている花梨に出会って。

    その日は行楽日和だった。まだ日射しには夏の名残を感じはしたが、秋めいた風が、出会った頃よりすこし伸びた花梨の髪をなびかせていた。いつまでも紅葉が降る京で、揺れていた彼女の前髪を思い出す。
    「……あそこか?」
    「はい、あそこです!」
    旧病棟は取り壊されたので厳密には違うんですけど、とまだ新しく見える建物を指差しながら、花梨は言う。
    花梨の生まれた場所が見たい、と言ったのは勝真だった。花梨は驚いた顔をしたあと、
    「いいですけど、私の生まれたところと育ったところが違うんです。観光名所とかでもないし、あんまり案内とかは出来ないんですが、大丈夫ですか?」
    「ああ。そっちのほうが、いい」
    京で生まれ育ち、京以外の土地を踏まないまま、勝真は時空を越えた。随分と突飛な話だ、と今さら思う。だが、だからこそ、花梨の生まれた場所を見てみたかった。病院に入るわけにも行かないので、現在ふたりがいるのは、病院が見える場所にある公園だが──、彼女も存外、楽しんでいるようだ。
    「あとで、おばあちゃんの家にも行きましょうね」
    孫にカレシを紹介されるって張り切ってたから、と言う花梨もはしゃいでいる。勝真が贈った紅を差した唇は、いつもより大人びているのに。なんだか照れくさくなり、勝真は花梨の頭を撫でた。
    「ど、どうしたんですか突然」
    「ん? こっちのほうが、いいか?」
    そう言って、勝真は花梨の肩を抱く。わあ、と小さく悲鳴を上げた花梨の耳許に、勝真は顔を寄せた。
    「俺もはしゃいでるんだ、柄じゃないけどな」
    いま、いつか、と思っていた京の外にいる。ここには京と同じように空があり、全く違う建物があり、似ていたり、似てすらいないことも多々あるが、勝真の目の前には、変わらず花梨がいる。
    いつか、なんて言う自分が変わることができたのは彼女のおかげだが、変わることができてよかったと、勝真は思った。
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