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    MtPain

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    ワンドロ『竜』で書いたやつ。
    オベぐだ♀。スケベではない。

    ##オベぐだ子

    メロンは甘い オベロン・ヴォーティガーンは自問する。我は何者か。ブリテンの嘆きに応えた竜であり、森羅万象を呑み込む虫であり、呪いを振り撒く嵐の王であり、そして辺境の森を治めた妖精の王である。
     最後の一つは余計だった。破壊を司るだけの装置が狂ったのはそれが原因と言えよう。要らぬ感情を取り込んだせいで俺のアイデンティティは塗り替えられた。
     そもそも妖精の王がチェンジリングの被害に遭うなど笑い話にも程があるし、おかげでちっぽけな人間に付けいられる隙ができてしまった。その後の顛末は語るまでもない。件の人間──異邦の魔術師は見事妖精王を打ち倒し、竜の腹から抜け出して、黄昏の國の終焉を見届けたのでした。
     おしまい。
    「って事で俺は役目を果たしたし、ゆっくり隠居するつもりだったんだけど」
    「そこをどうにかお願いします……!」
     ベッドに寝転がり、行儀悪く菓子を貪る青年に手を合わせてを必死に説得する少女が一人。この少女こそが悪しき竜を退けた異邦の魔術師であり、我が物顔で新しい包装紙を破いた青年こそが倒された竜である。かつて激しく刃を交えた事など白日夢だったかのよう。軽快な咀嚼音が続く中、少女の嘆願は続いた。
     やがて床に両膝をついて頭を下げ始めた所で、ついに青年が根負けした。あまりに流れるような美しい土下座に見惚れたのではなく、下僕に頭を下げる主人を見かねたのが理由だった。
    「どうしても俺がやらなきゃいけないの?」
    「オベロンにしか頼めなくて」
    「はぁー」
    「食堂のメロンパフェ引換券あげるから」
    「それだけ?」
    「メロンワッフルも付ける」
    「もう一声」
    「メロンケーキでどうだ」
    「まぁいいか。今回はそれで妥協してあげる」
    「やった! ありがとう! 大好き」
     青年はベッドに飛び乗って抱きつく少女を心底信じられないという目で一瞥した。主従関係であるのだから懇願も餌も不要。ただ一言「やれ」と命令を下せば良い。そんな少女の態度が竜にとっては目新しくて、何よりむず痒い。そうあれと望まれた装置は一心不乱に入力された目的を実行するのみ。それはサーヴァントとなっても同じ事で、所詮は主の望みを代行する手足でしかない。けれど報酬をチラつかせられたら別だ。限界まで毟り取りたくなるのはきっと妖精の本能というものだろう。
    「んで、そこまでして俺に頼み込む用件をお聞かせ願えるかな」
    「リソースの回収を手伝ってほしいんだ」
    「なんだ、いつもの事じゃないか」
    「目標はQP十億。秘石は各三百個」
    「…………は?」
    「黄金の果実はニ百個支給されてる。足りない分は白銀と赤銅と青銅でどうにかするとして。あ、オリュンポス農園産の美味しいやつだから味は保証するね」
    「そうじゃなくて」
    「アルトリアとコヤンスカヤにはもう声をかけてあるし、メリュジーヌは陛下の手伝いが終わってから合流するってさ。それと星見ティーは百杯分あるから喉乾いたら遠慮なく言ってね」
    「だから桁よ」
     異聞帯を後にした直後に召喚陣から現れた彼を前にして、少女は暫し目と口を丸くした。呼び声を無視されると思っていたらしい。虫だけに。
     は、と嘲笑が漏れる。みくびらないで頂きたい。竜はとんだ愚か者だ。俺はブリテンの島の無茶振りにさえ応じた白き竜ヴォーティガーンであり、際限なく獲物を欲する奈落の虫であり、立ち塞がる敵を蹂躙するモースの王であり、そして在りもしない伴侶を探し求めた喜劇役者である。
     真に迫って求められれば応じてしまう愚劣な性であったが、それは竜よりも貪欲な妖精王オベロンによって狂わされた。具体的には力を貸すからには褒美が欲しい。例えばそう、食い損ねた獲物おんなを改めて捕える機会とか。
    「よし。オベロンも買収できたし早速管制室に行こう。早く早く!」
    「褒美は俺の部屋まで持ってきてくれよ。他の英霊に見られながらじゃ落ち着いて食べれやしない」
    「おっけー。任せて」
     スキップしながら先を行く少女の背中を見ながら舌舐めずりをする。四つ目のデザートは特に、誰にも邪魔されぬ場所で味わって食さねばなるまい。
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