なるかみの 朝から降る長雨に耳を傾けながら、俺は膝上に置かれた頭をゆっくりと撫でる。雨で整髪剤は落ちてしまってもしっとりとした黒い髪が指の間を滑っていく。普段は威厳を示すように撫でつけられ長い前髪が額を覆っている。こうして見ると実年齢よりも若く見え、閣下がまだ少尉と呼ばれていた頃を思い出す。
未だ面影が残しているだなんて……。
出会ってから数十年経ってもなお若葉のような少年と青年の間にいた頃の『鯉登少尉』に思いを寄せている自分に気付き、懐かしさに胸奥が焼ける。
「なんだ月島……随分機嫌が良いではないか」
嬉々として見上げた目から目線を逸らしたのは少々罪悪感が疼いたからだ。
今の貴方の面影にどきりとしたなんて口が裂けても言えない。
1945