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    松島 月彦

    なんかやべぇ奴

    ☆quiet follow
    POIPOI 11

    松島 月彦

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    過去を求めてみた話

    ##容貌失認のゼと車椅子のアポ
    ##現パロ
    ##アポゼノ

    丁度サンドラが昼休みに入るタイミングを見計らい、病院の食堂で彼女を待った。彼女がここで昼食を取るとは限らないし、たとえ彼女がやってきたとしても人の顔が認識できないボクの方から彼女を見つけるのは難しい。分かってはいたが、いてもたってもいられなかった。
    「あら? ゼノンちゃん?」
     辺りを見渡すボクに、誰かが声を掛ける。
    「……サンドラ……?」
     薄翠の長い髪に白衣と、落ち着いた声音。それからボクへの呼びかけ方。今回に関していえば多分正解だと思うが、やはり出会い頭に人の名を呼ぶときはいつも不安になる。
    「ええ、どうしたの? 今日は通院日じゃないわよね?」
     間違えなくて良かった──密かにホッとしつつ、ボクは単刀直入に用件を切り出した。
    「……アポストロスについて教えてほしいんだ。彼がどういう経緯で中途障害を負ったのか」
    「それは……、」
     ボクにサンドラの表情は分からない。それでも何となく、彼女が困惑しているような雰囲気は伝わってきた。
    「……ダメよ、『医者』が『患者』に他の患者の情報を無断で教えることはできないわ。だけど──」
     辺りを憚るようにして、サンドラが少し声を低くする。
    「──法に触れない範囲なら、あなたが自力で調べるのを止めることもできないわね」
    「えっと、それって、」
    「……五月十四日」
    「え?」
    「三年前の五月十四日。……調べたら何か分かるかもしれないわね。ひとまず、『医者』としてのわたしから教えてあげられるのはそれだけ」
     サンドラはそう言い残し、白衣の裾を翻して何処かへ立ち去った。


     ◇ ◇ ◇

    「……あった……」
     大学病院に附属する図書館で過去の新聞の中から、三年前の五月十四日のものを選んで目を通す。すると探すまでもなく、一面に飛行機の墜落事故に関する記事が掲載されていた。
     墜落したのは練習機で、搭乗していた訓練生が意識不明の重体──。
     胸が、どうしようもなくザワザワする。
     負傷した訓練生の氏名や顔写真は載っていないが、薄暗い骨董屋の奥で嬉しそうにカルタマリナを広げるアポストロスの姿が思い出されて、呼吸が上手くできなくなる。
     ──その後、訓練生はどうなった?
     翌日のもの、翌々日のものと新聞を読み進めていけど、墜落に関する記事はどんどん小さくなっていくばかりで、肝心なことは何も教えてくれない。一週間後の記事でようやく「訓練生が意識を取り戻した」ことが報じられるも、その三日後にはついに全ての新聞社が続報を載せなくなった。
    「やっぱりここにいたのね」
     聞き馴染みのある声がボクに向かって発せられる。
    「ゼノンちゃん、わたしよ、サンドラよ。驚かせてしまったかしら」
    「……声だけだと、舞芸の後輩に少し似ているんだ。こんなところにいやしないとは思うけど」
    「乗って帰る? 今日はベスパなの」
    「……ああ」
     ボクはサンドラに従って歩いた。頭の中では、まだあの新聞記事のことを考えていた。
    「はい、どうぞ」
     まるでイタリアのロマンス映画にでも出てきそうな可愛らしいペールグリーンのベスパは、サンドラの愛車だ。彼女はボクにヘルメット差し出すと、後ろへ乗るように促した。
    「……アポストロスちゃんのことだけど……」
     エンジンが掛かる。タイヤが走り出す。街の喧騒が遮断されて、ベスパが風を切る音とサンドラの声しか聞こえない。
    「あの子が夜毎にどんな夢を見ているのか、知っている?」
    「……いいや。でも、魘されているのを見たことはあるよ」
    「……あの子は記憶障害になってから、新しいことがあまり覚えられないけれど……代わりに、障害を負う直前のことは、いつまで経っても、まるで昨日のことのように鮮明に覚えているのよ……」
     サンドラが、悲しそうな声音でポツリと言った。
    「あの子が眠りの度に夢見るのは、あの日のキラキラ輝く空の中で墜ちていく自分の姿なの」
     ボクの脳裏に、理不尽なほどはっきりと浮かぶ。嘘みたいに綺麗な5月の煌めく陽光の中、燃え尽き墜ちていく飛行機と若い飛行士──。
     ──アポストロス、キミはそれだけを繰り返し、幾晩でも夢に見ているの?
    「……『医者』が勝手に『患者』へ、他の患者の話をしたらいけないんじゃなかったのかい」
    「……勤務時間は終わったの。『共通の友人』としてお話するくらいならいいでしょう」
     それっきり、ボクもサンドラも何を言うことなく黙って風の中を進んだ。サンドラの方が何を考えているのかは分からない。ただ、ボクの方はいつぞやのエリサの言葉を思い出していた。
     ──『未来って、信じられる?』
     アポストロスに出会ってから、未来なんて分からなくて途方に暮れるくらいで丁度いいと思えるようになってきていたのに。
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    松島 月彦

    MOURNING【合作】バウムクーヘン【フリードとヒルダ】
    古林さんとロジウムさんに「合作しませんか?」とお声を掛けていだいて書いた小説の再掲です。後日この小説をお二方がそれぞれ漫画化してくださったのですよ……良いでしょう……ふふん。
    ◇ ◇ ◇

     滅多なことでは沈まない代わりに、一度沈んだが最後、浮上するのは難しい。
     だいたい自力では立て直せないことがほとんどで、今も昔も、私自身この性格があまり好きではない。
    「どこもおかしくないか? ピョン★」
    「フフフッ、バッチリきまってるよ」
     アイロンのきいたスーツを着込んだフリードさんは、今日は誰かの結婚式に呼ばれている。互いに騎士をつとめていれば共通の友人や仕事仲間も多いけれど、それでもそれぞれしか知らない友人もいて、今日はフリードさんだけがお呼ばれしたのだ。
    「飲みすぎないでね」
    「分ってるピョン★」
    「新婦さんの友達ばっかり見てたら駄目だよ?」
    「うーん、善処はするピョン★」
     ピカピカに磨かれたフォーマルシューズを履いたフリードさんが出ていくのを、宿舎の玄関で見送った。
     扉の向こうに見えた空はカラリと晴れていて、きっと素敵な結婚式になるだろうな、と思った。領地の端っこまで出張していっているエルドゥールさんたちも、そろそろ馬車が目的地まで着いただろう。
     今日は宿舎に非番の私一人っきりだ。
    「休日返上なんだけどね」
     騎士とはいえ実戦ばかりが仕事ではない。デス 1962