Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    松島 月彦

    なんかやべぇ奴

    ☆quiet follow
    POIPOI 11

    松島 月彦

    ☆quiet follow

    幸福な日の話

    ##容貌失認のゼと車椅子のアポ
    ##現パロ
    ##アポゼノ

    「……今日は天気が良い」
     アポストロスが窓際に車椅子を寄せながら呟いた。やはり表情は分からないが、穏やかな声音をしている。
     ボクに認識できないだけでサンドラには彼の表情が見えているのだと思うと、ほんの少しだけ羨ましい──そんなことをぼんやり考えていると、サンドラが振り返った。
    「本当に良いお天気ね。せっかくだから外でお茶にしましょうよ」
     ボクがアポストロスの車椅子を押し、サンドラは日傘を差しながらカフェテリアに向かって歩いた。五月の陽光が細かな粒子となって街中に降り注ぎ、ときおり吹くそよ風がコブシやミズキの花を優しく揺らした。世界は祝福に満ちていた。
    「……世界がこんなに明るいなんて知らなかった」
    「あらゼノンちゃん、詩人ね」
    「からかわないでくれるかい?」
    「褒め言葉よ」
     サンドラの唇が弧を描き、どうやら彼女が微笑んだらしいということが分かる。
    「然り」
    「アポストロスまで……」
     彼の声は何処か楽しげだった。

     また一つ、ノートに幸福な書き込みが増える。
     あの日病室で感じた絶望は、いつの間にか溶けてなくなっていた。ボクは決して世界に見捨てられた存在などではなかったのだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited

    松島 月彦

    MOURNING【合作】バウムクーヘン【フリードとヒルダ】
    古林さんとロジウムさんに「合作しませんか?」とお声を掛けていだいて書いた小説の再掲です。後日この小説をお二方がそれぞれ漫画化してくださったのですよ……良いでしょう……ふふん。
    ◇ ◇ ◇

     滅多なことでは沈まない代わりに、一度沈んだが最後、浮上するのは難しい。
     だいたい自力では立て直せないことがほとんどで、今も昔も、私自身この性格があまり好きではない。
    「どこもおかしくないか? ピョン★」
    「フフフッ、バッチリきまってるよ」
     アイロンのきいたスーツを着込んだフリードさんは、今日は誰かの結婚式に呼ばれている。互いに騎士をつとめていれば共通の友人や仕事仲間も多いけれど、それでもそれぞれしか知らない友人もいて、今日はフリードさんだけがお呼ばれしたのだ。
    「飲みすぎないでね」
    「分ってるピョン★」
    「新婦さんの友達ばっかり見てたら駄目だよ?」
    「うーん、善処はするピョン★」
     ピカピカに磨かれたフォーマルシューズを履いたフリードさんが出ていくのを、宿舎の玄関で見送った。
     扉の向こうに見えた空はカラリと晴れていて、きっと素敵な結婚式になるだろうな、と思った。領地の端っこまで出張していっているエルドゥールさんたちも、そろそろ馬車が目的地まで着いただろう。
     今日は宿舎に非番の私一人っきりだ。
    「休日返上なんだけどね」
     騎士とはいえ実戦ばかりが仕事ではない。デス 1962