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    橋わたり

    @hasiwatari0000

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    橋わたり

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    グラハムお誕生日おめでとうございます!!
    モブ子供視点のグラ刹(ほんのり)SSです。

    #グラ刹
    grampus

    グラ刹SS その日出掛けた親の代わりに店番をしていた一二歳のウゴは、自分が応対した風変わりな客の事が気になっていた。
     と言うのも、その日に部屋を取った客はその一人しか居らず、思春期特有の好奇心もあってウゴはその旅人へ不躾な(とは言っても彼自身にその自覚は無い)視線を隠そうともせずに熱心に注いでいた。
     異邦人の顔立ちと黒髪に褐色肌、赤土の様な瞳の色と、首に撒かれた特徴的な赤いストール。
     そして何より、片田舎の入り口に位置している街のこの宿に、人が一人入ってしまいそうなバックを抱えてやって来たのがウゴの目と興味を引いていた。
     旅人は亜細亜人の様な寡黙さがあったが、決して子供を邪険にするような気質ではなかったのでウゴの無遠慮な質問にも凡そ答えてくれたし、雑談にも付き合ってくれた、相槌が非常に短いと言う条件はあったが。
     気安い訳でも無いが、刺々しい訳でも無く、静かで淡然。
     丁度今、窓辺でじっと動かずに道路を見詰めている、まるで猫の様な雰囲気の青年だった。
     ウゴは猫と仲良くなるのは得意だったので、滞在三日目の朝には、七時きっかりに直接声を掛けに行くスタイルのモーニングコールサービスを勝手に始めても拒否されない程度の要領は掴んでいた。
     両親には余計な事を、と一度怒られたが、それを被った張本人が気にしていないと取り成してくれたお陰で放免となった。
     以降、朝一番に青年を起してチップを貰い商店へ菓子を買いに行く…と言うウゴ少年の日課の、その雲行きが怪しくなったのは七日目の朝だった。
     扉を前に、ノックをするかどうかを彼是数分、躊躇していた。
     問題は前日の夜に起きていた。普段なら(と言ってもたった六日間の統計だが)疾っくに部屋へ戻っている筈の時間になっても、旅人の姿が見当たらなかった。旅人は十日分の代金を前払いしていたので、このまま消えてしまったとしても商売的には何の問題も無いのだが、あの旅人が声も掛けずに居なくなるような不義理をする人間では無い、と勝手に思っていた彼はすぐ外へ出て、あの目立つ赤いストールを探し回った。
     目当ての赤色を見付けたのは通っている商店の裏手だった。
     光度の足りない街灯に照らされた夜闇の中、目立つ赤色の横にはこれまた目立つ金糸があった。
     旅人よりも年も上背もある金髪の男が、行く手を阻む様に彼の前へ立ちはだかっている。そして何事か遣り取りをしている様だった。
    ——本当に見付けるか、お前は——
    ——賭けは、私の勝ちでいいかな——
     断片的な声に耳を欹てている内に男が少し強引な仕草で旅人の肩を掴んだのが目に入った。ウゴは声を上げようとして、結局止めた。
     男の着ていたコートとその下の軍服を見て取ったからだ。
     人を呼んだとして、相手が連邦の軍人だと解った上で助けに入る大人がこの街にどれ程いるだろうか。何より旅人は、遠目に解る程度には顔を顰めていたが、それだけで抵抗する素振りを見せていなかった。物静かな青年の腕っ節が立つことは、五日目に酔っ払いの腕を捻り上げた経緯から解っていたので、彼が敢えて抵抗せずそれを許している真意を、ウゴは子供なりに考え込んでいた。
     考え込んでいる間に、男は旅人の腕を引いて足早に此方へ向かって歩き出していた。   
     何故か咄嗟に隠れてそれを遣り過ごしていると、二人は当然の様にウゴの家へと、つまり宿へ入って行くのが見えた。ウゴが追い付いた頃には二人共部屋へ引っ込んでいて、結局それきりどうなったのか、そしてどうなるのかウゴには見当もつかなければどうする事も出来なかった。
     しかし彼の不安を他所に、その日の夜、銃声が響いたりだとか何かが壊れる様な音がしたりする事は決して無かった。悲鳴も怒声も無く、静かに、いつもと全く同じように夜は過ぎ去っていったのだ。
     そして現在、ウゴは考え倦ねている訳である。ノックすべきか、回れ右すべきか。
     しかしその何方かを彼が選ぶ事は無かった。
    「やあ、おはようkid」
     突然、扉が向こう側から開いたからだ。扉から出て来た金髪と白い肌と白いワイシャツの眩しさに思わず目が瞬いた。昨夜見た時よりも随分とラフな格好だ。ボタンも上から三つ目まで留めておらず、何ならだらしがない。
    「お、おはようsir」
     何で解ったの?と視線で問うと男は笑って頷いた。間近に正面から見て初めて、その端正な顔半分を覆っている傷痕に気付いたのだが、一々それに何かしらを思う事は無かった。軍人であれば、と言うのもあったし、此処いらの人間も大概は傷痕をそのままにしている事の方が多いから珍しくもなんとも無かったからだ。再生医療などと言う天上人の嗜みに手が出る者なぞこの近所にはそうそう居ない。
    「なに、職業柄気配と音にはちと敏感でね。それより昨夜はすまない、断りもせずに勝手に部屋へ居座ってしまって。私は彼の——友人なんだが」
    「そうなんだ。お兄ちゃんは寝てるの?」
     ウゴは軍人の説明に頷きながら、首を伸ばして彼の体の脇から中を覗き込んだ。目の前の男が悪人でないことも、揉め事や厄介事があった訳でもないのは理解したが、彼の声も聞こえず姿も見えないのは少し気掛かりだった。
     そうして覗き込んだ隙間から、ベッドの上、背を向けて眠っているらしい黒髪と褐色の裸の肩が垣間見えた。
     ウゴの脳が、今見たのがしどけない青年の裸体であると処理をする前に、白いワイシャツが視界を遮ってしまった。
    「……失敬。邪心がないとは解っていても無闇に他人に見せたいものではないな」
    何より彼も見られたくないだろうから、とか、軍人がぶつぶつと、ウゴにはよく解らない言い訳のような独り言を零している。しかし子供の怪訝な視線に気付いて、直ぐにその視線と話の焦点を合わせた様子だった。
    「彼とは賭けをしていて、勝ったのが私だったんだよ」
    「賭け?」
    「隠れ鬼、否、鬼ごっこの方が適切かな?兎に角、決められた時間までに彼を捕まえれば私の勝ちで、逃げ切れば彼の勝ちだった」
     思わず、子供みたい、と口から出てしまった。が、相手は気を悪くした様子も無く御尤もだ、と頷いた。上機嫌な様子で。
    「それで、昨日の夜に彼を見つける事が出来た。運が良かっただけかも知れないが勝ちは勝ちだ。——賭禄も、無事に頂くことが出来た」
     よくよく見て見れば、彼のワイシャツの隙間から覗いている、白い鎖骨の少し上辺りには小さな赤い鬱血痕が一つだけぽつんと浮かんでいた。
     ウゴはポルノ雑誌を二、三度しか見た事しかなかったので(タブレットにはきっちりフィルタリングやロックが掛けられている為そういう動画は見た事がない、今のところ)それの意味するところと事実とが直結する事はなかったのだが、それが疚しいものであると言う雰囲気だけは感じ取っていて、彼の心拍数を一時的に、一気に跳ね上げた。
     純真な子供の心臓を忙しなくさせた事など少しも気付いていない軍人は独りで勝手に気を取り直し、少し多めのチップを差し出しながらこう言って来たのだが。
    「ところで、風呂を借りたいのだが良いだろうか。ああ、大丈夫だ、彼も一緒に入るからそんなに時間は取らせないよ」
     そんなに時間は、の辺りで飛んできた枕が軍人の後頭部にクリーンヒットするのを、ウゴはぽかんと口を開けたまま見詰めていた。






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