ハロウィンとか相談所(8)そして、時を同じくして別の場所でもハロウィンに向けての動きがあった。
「本当にそんな事でこの事態が解決するのかね」
「おやおや。首相は、バタフライ効果という言葉をご存知無い?いや、これは『ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?』なんて例え話のレベルじゃない。過去に起こったビッグデータをもとに、起きやすい時間、場所、解決法をAIに計算させた結果です。現に、この方法を利用して犯罪率を下げた地域もあります」
男……時の首相は、以前「爪」という名の超能力者による犯罪集団に拉致されたという過去がある。更に言うなら、今話しかけてきている盲目の男……島崎こそが実行犯である。
「正直、これが『あの時の少年』と言われたら、私もすぐに納得していたと思う。しかし……この男には霊力すら無いんだろ?」
「何の医学の知識も無い主婦が適当に植物を煮て
作ったエキスが歯周病菌、虫歯菌に対して殺菌効果があったという例もあります」
「やはり、にわかには信じがたい」
島崎は大袈裟に溜息をつく。
「まぁ、いいじゃないですか。事が成就しようがしまいが国政にはたいした影響は無いんですから」
「しかし、地獄への門は確実に開きつつあるんだろ!?」
「そんな話、一体誰が信じるって言うんですか。この世界には科学では照明出来ない不思議な出来事が確かに存在しています。でも、それを確認出来ない人々にとっては『無い』と同じ事なんです。私は、報告にきた。ただそれだけです。何かあなたにして欲しい事がある訳じゃない」
見開いた男の瞳は常しえの闇のように暗い。そのセリフに含まれる静かな怒りに、首相の背に悪寒が走る。
「ま、我々が何かをしなくても、案外自然とくっついちゃうかもしれませんけどね」
そういって笑うと、島崎は退出のセリフも述べずに、現れた時と同様いつの間にか首相官邸からその姿を消していた。
「ふぅ」
重い息を吐きが出される。その顔には「どっと疲れた」と書かれている。
「それにしても……」
首相は手渡された資料を持ち上げ、部屋の隅に設置されてたシュレッダーに向かう。こんなものを誰かに見られたら一大事だ。極秘も極秘。SSS級の機密事項だ。室内に、裁断機の回るゴウンゴウンという音が響く。
「ハロウィンまでに霊幻新隆に恋人を作らないと世界が破滅するねぇ……」