これでも付き合ってない二振【半分この相手】
演練所に着いていく審神者の楽しみと言えば、自分の刀達の成長をこの目で直接見れること等々、多々あれど。
演練所の出店スペースを覗く事を楽しみにしている審神者が実は多数を占めていたりする。
出店スペースには屋台や、キッチンカーなどが決められた場所に整然と並んでいた。
軽食から丼ものまでずらりと多国籍な食べ物が並ぶ様はいつ見ても圧巻だ。
時間と集合場所を決め、一旦刀剣男士達と解散する。
俺は本日の近侍と共に、出店スペースで、断トツに長蛇の列が形成されている屋台へと足早に向かう。
「主、本当に、ほんとーに!間に合うんだろうね?」
何度も念押ししてくる近侍に大丈夫、大丈夫(多分な)と応えながら列に並んだ。
結果、かなりギリギリではあるが、やっとお目当てを買えて待ち合わせ場所に急ぐ。
近侍は、ほらやっぱりこうなった!なんてぶつぶついいながら隣を走る。
待ち合わせ場所にいるのは、珍しく三池兄弟だけだった。
「あれ?皆はまだ?」
「まだだなー!兄弟は俺に付き合ってただけだからな!」
明るく笑うのはソハヤの方。
大典太の方に至ってはこちらを見ることもない。
そろそろ年単位の付き合いなんだから、もうちょっとこちらに心を開いてほしいもんだが、一切開かれる素振りはない。
少し、いやかなり寂しい…!
「ソハヤ達は何買ったんだ?」
「俺はチーズボール。兄弟は牛串焼きだなー、まあ、兄弟もう食っちまったけどなー」
からからと笑いながら大典太の方を見る。
大典太はむす、とした顔でああ、そうだな、なんてつぶやいている。
これが大典太の通常運行だからもう気にしない!
例え胸がキリキリと切なさで軋んでも!
「主はなに買ったんだよ?」
「【さなのはな】のおはぎ!
今日丁度出店日だったの思い出してさ!
買えてラッキー!」
【さなのはな】はこの国にある和菓子屋だ。
そこのおはぎは、和菓子好きには有名な一品だ。
万屋街にある店舗は予約を一切受けず、開店前から行列が出来ることも当たり前で、出陣や軍議などを本丸で朝から晩まで執務をこなす審神者達が口にするのは困難な品だった。
この国の役人達が、審神者のためになんとか…!と店に頼み込み、そんなに言うならば月一日なら…となんとか応じてくれての出店だ。
「まだ皆来てないから、内緒でやるよ。ほんとに美味いんだからな!」
簡易的に竹の皮で包まれていたものを開くと、小さいが綺麗に黒くつやつやと輝くおはぎがある。
素手だなんて…とぶつぶつ言っていた近侍が一口食べると、表情が一変する。
「本当に美味しいね…これは」
流石、【さなのはな】。
一口で不機嫌だった刀剣男士の口許に優しい笑みを綻ばせる程の美味さ。
「え!俺も俺もー!兄弟ももらえよ」
一つ摘まみながらソハヤが大典太に声を掛ける。
「…いや、俺はいい」
ハッキリ明確に断られる。
もう、俺は大典太のそんな態度に傷付いたりしないんだから!
「えー?ホントに美味いのにいいのか?」
「主…あんたがどうこうではないが…他人が触ったものはちょっとな…」
苦い顔をしてそう吐き出した大典太。
「安心しろよ兄弟、俺も食べたけど、異質な霊力も呪いの気配もなかったぜー?」
さらっと言ったソハヤの台詞。
一体この兄弟の過去に何があった??
「ん?主とお前達だけか?」
こつん、と靴を鳴らして現れたのは大包平。
「あ、丁度良かった。大包平も食べる?【さなのはな】のおはぎ」
「さなのはな!!…ゴホン…いただこう」
かなり甘党(和菓子専門)なうちの大包平も名前は知っているらしく、うきうきとした顔で一つ摘まみ口に含む。
「…うん…やはり餡が美味いな…」
しみじみと呟いている。
口元にはあの綻ぶ笑みを浮かべながら。
「おい」
そんな大包平に声を掛けるのは、先程までこちらに興味を一切示さなかった大典太。
「なんだ?」
大包平は不思議そうな顔をして問い返している。
「俺にもくれ」
あ、と口を開けて至近距離でねだる大男。
いや、大包平もほぼ同じ位だから可笑しくないのか?あれ?
そもそも二振の距離近くないか?
パーソナルスペース狭いね?二振とも。
「お前は、そもそも甘いものそんなに好きではないはずだが?」
大包平はやれやれとため息をつきながら、もう一口も自分の口に入れてしまう。
「…あんた、ケチだな」
少し拗ねた様な顔をした大典太に向けて仕方ないと言う表情を向ける。
「俺が買ってきたサンドイッチを半分やるからそう拗ねるな」
ごそごそと、紙袋から出したのはなかなかボリュームのあるサンドイッチ。
肉や野菜やゆで卵やらがこれでもかと詰め込まれたそれを器用にもりっ!と半分に割る。
あれ?大典太他人が触ったものダメなんじゃないの?
思わずソハヤを見ると、にやり、と笑い返された。
「ほら」
「ああ…ありがとう」
受け取った大典太の顔は…表情は。
うん、さっき言ってた事は全く説得力なくなっちゃったかなー!
そう思いながら、
他の刀剣男士達は何処までいったんだろうなー?
なんて事を近侍に問いかけていた。