これでも付き合ってない二振【幸福の証】
最近、大典太が政府から支給された端末を拙いながらも使いこなしてるらしい。
それを知ったのは、万屋街で入ったカフェの名物パフェ(季節のフルーツ盛り沢山)を、政府支給の通信端末についた無駄に高画質なカメラで撮影しようと撮る角度を思案していた私を眺めながら、
「そうそう、大典太もそうやって食べる前に撮るんだよなー」
と言った包丁藤四郎のこの一言。
包丁は先に美味しそうに、プリンアラモードを食べている。
「へ?大典太が?」
その時は、全く予想外の刀剣男士の名を聞いてポカンとしてしまった。
「そうだぞー、
あ!早く食べないと美味しさが逃げちゃうんだぞー!早く!早く!」
「あー、はいはい、いただきまーす!」
包丁に急かされ、さっさと数回撮影したら自分のパフェを食べ始めた。
甘いものはやっぱり私にとっての正義だ。
「ねえ、大典太って食べた物端末で撮影してるの?」
遠征が終了した事を報告にきた本刀に聞いてみた。
大典太は今日の遠征部隊の部隊長だ。
報告にきた、その顔を見た瞬間、包丁から聞いた事を唐突に思い出した。
どうにも何時も見る姿と、包丁から聞いた内容とがイメージが重ならなくて違和感があってどこかに引っ掛かっていていたみたいだ。
本刀は、迷うことなく隠すことなく、こっくり、と一つ深く頷いた。
「そうなんだ!
私と同じで美味しい物は記録しておきたい方?」
更に聞くと開いては少し考えるように首を少し傾けた。
この本丸に顕現した大典太光世は、あまり話すことが得意じゃない。
戦闘時は普通なのに、普段は声は出せるけどガタガタな音量とトーンになってしまい、うまく聞こえない。
その原因は霊力や神気の不具合とかでもなんでもなく、ただの極端なあがり症なだけだ。
だから、普段はよっぽどな場合以外は率先して口を開くことがなかった。
こくり、
そうこうしていると、大典太がまた一つ頷く。
「どんなの食べたの?見せてもらってもいーい?」
こっくり、
頷き、自分が持っていた端末を渡してくる。
ついつい、と画像フォルダを弄ると確かに食べ物やその店の看板等…食べ物に関する画がずらずらと出てくる。
ん?
つい、
一つの画を選択してみる。
そこに写っているのは食事の風景。
その前にある画から追っていくと、どこかの店に入って食事をしている、のは分かる。
ただ、その被写体は。
ついつい、と画を送っていく。
店の看板、メニュー表、注文した料理、そして共にいる相手の画。
何店舗分も同じような流れが続いている。
そして共にいる相手も、
同じ刀剣男士が続いている。
その刀剣男士は、
刀剣の横綱、大包平。
美味しそうにかつ丼を頬張る大包平。
見た目も楽しませてくれるカラフルな五食団子を物珍しそうに眺めている大包平。
綺麗な所作でナイフとフォークを使いこなしてステーキを切り分けている大包平。
料理以外は、本当に大包平しかいない。
んん?
「ぁ…る…ジ?」
ガタガタな声量で声を掛けられ、慌てて端末を大典太に返す。
「ありがとねー!ステーキ美味しそうだったー!お店今度教えてね」
こくり、
また頷く。
「あ、えーと…いつも大包平と食べに行ってるの、かな?」
こくり、
また、迷いなく頷かれた。
「そ、そっかー、仲良いんだねー」
笑顔でそう言うが、暫く反応が返ってこなかった。
「おおでんた?」
声を掛けると、少し俯きがちの口許に薄く笑みが浮かんでいた。
うわ?!その笑みは…、
「主。失礼する、…ああ、お前もいたか」
タイミング良く執務室へと入ってきたのは話題に上がっていた張本刀の刀剣男士。
「大包平、どうしたの?」
「ああ、外出許可を貰いにきた」
ぴらり、
と許可申請書を差し出される。
戦装束、いわゆる正装の姿の大包平から書類を受けとる。
確かに、外出許可申請書だ。
行き先は、とある国の万屋街。
申請者欄には大包平と、あと一振の名が書いてある。
大典太光世。
「あ、うん、いいよー行っておいでー…」
「では、行ってくる。行くぞ、大典太」
こくり、
頷き、こちらへと一礼してそのまま執務室から立ち去る。
「ねぇ…」
同じく執務室にいる本日の近侍へと声を掛けた。
「なんだい?主」
近侍は書類とにらめっこしたままで応えてくれる。
「あの二振ってさー」
「主、…あれでいてあの二振は付き合ってはないよ」
はあ?!
「大典太あんな顔してて、あんな笑顔なのに??」
「不思議だよねぇ~、
主。それよりもこの提出書類間違えてるから」
さらり、と話題を切られて渋々と書類の山に向かうことにする。
今日も、いいお出かけ日和だ。