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    pukapuka117

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    pukapuka117

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    夏五。離反if。
    軽い気持ちで書き始めたのに全然書き終わらない。
    途中だけど投げておく。

    #夏五
    GeGo

    ハッピーメリーバッドエンド(途中)デウス・エクス・マキナ
    1-0

    少女は痛みの中で漸く目を開くことができた。しかし視界は砂塵に覆われて、この世界が如何様に変貌したのかを認識することは難しい。体を起こそうと身をよじる。だが、瓦礫に阻まれ脱出することはできなかった。汗と思って額を拭えば、血が流れていた。少女は痛みを思い出して歯を食いしばる。何が起こったのか思い出そうとしても、痛みが邪魔をした。

    少女は幼かった。未だどこに出かけるとも母親に手を引かれていた。恐らく今日もそうだった。砂嵐の中で記憶の欠片を繋いでいく。暖かな手触りに今日が日曜日だったことを思い出した。家を出る前に、もう11月だからと心配性な母親が巻いてくれたマフラーは、瓦礫から飛び出した鉄骨に引っかかって少女の首を緩やかに絞め続けている。

    遠くに見える滑り台はいつも子供たちが取り合う人気者だった。日曜日ともなればこの地域の親子連れでこの公園は大盛況。遠くからでも笑い声が響いていた。少女の最近のお気に入りは専ら砂遊びで、今日も公園へ来るなり一直線で砂場へ走った。ピンクの手袋を投げ捨てて、冷たい土の中へ手を差し込んだ。幼稚園で磨いた泥団子の腕を母親に披露したかったのだ。
    手袋を拾い上げた母親が少女の背中に影を落とした瞬間。突如として地面は大きく揺れ、ジャングルジムにしがみ付いた子供がぽとりと落ちた。抱きしめられた母親の腕の隙間から少女が見たのは、大きなどんな物語よりも恐ろしい化け物の姿だった。


    少女のか細い腕では体重を支えきれなくなってきた。どこから吹き飛ばされてきたのかもわからないコンクリートの残骸に少女の体は挟まれていた。公園に元々あった樹木の類は見当たらない。この残骸は公園から30mも離れた団地のものだった。ひとつの町が丸々瓦礫と化したことを少女は知らない。
    なんとか隙間から這い出ようとしていたが、少女は限界のようだ。少女の体はその他の子供たちと同じく無力に項垂れていく。どんなに足搔こうとも冷たいコンクリートは少しも動かない。絶望を見せつけるその存在に少女の心は疲弊していった。
    「ママ。」
    最後の言葉かもしれない。少女は無意識に母を呼んでいた。

    不意に風が止む。渦巻のように砂塵を巻き上げていた風が、何かの到来を迎えるように押し黙った。これ以上何が来るというのだろう。想像以上の最悪はもう目の前に広がっている。

    少女は残る力で顔を上げる。さっきまでの砂に覆われていた視界に青空が映る。晴れがましいという言葉がぴったりな空だった。少女はただ眩しいと思い、薄れる意識も手伝って目を細める。
    いよいよもってこれが本当の最期かもしれない。少女の耳にオルゴールの音が響く。8月の誕生日に母が少女に買い与えたものだった。曲名はまだ知らない。そんなものはどうでもよかった。女手一つで自分を育てた母が、少ない稼ぎを捻出して買ってくれたかけがえのない宝物だった。
    母はどこにいるのだろう。少女の手が空を握る。このまま固まってしまえば良かった。


    空から降りてきたものは、あの化け物ではなかった。四肢を持たず、この世の醜悪の極みを煮凝りのしたような存在ではなく。手があり足があり、髪を靡かせ服を着たまるで人間のような見た目をしていた。
    黒のハイネックに、黒のロングコート。スキニージーンズからブーツに至るまで黒を纏った男は、ただひとつ白い髪だけを太陽に透かしていた。

    オルゴールに収録された楽曲は讃美歌だった。少女の母親はクリスチャンだった。
    少女の脳に讃美歌が響き渡る。その眠りを妨げるように、大きく、激しく。それは一種のトランス状態に少女を導き、一生に一度の神秘体験を与えた。
    現実が記憶の中の再誕を描く宗教画にリンクした。少女は毎週日曜日に母に連れられ、教会を訪れていた。今日も公園に来る前に祈りを捧げ、牧師から甘いクッキーをもらった。少女はまだ聖書を読むことはできない。母が熱心に信仰する宗教の構造も理解できない。ただ、少女の神を形作るものは、音楽と絵だった。それが神の先触れだった。

    男の指先が、少女の握られたままの右手に触れる。祝福に違いなかった。
    黒い裾から伸びた白い手の先を目でなぞる。意識が覚醒していくのがわかった。少女はその幼い知識以上に多くのことを理解できた、あの男の指先からは芽吹くような生命力と、思い上がるほどの万能感が流れ込んできた。

    「あなた、かみさま?」

    少女の無垢な質問をぶつけられた男は、バツが悪そうに微笑んだ。
    男は少女の手を握ると、まるでリボンを解くかのように少女の体を瓦礫の隙間から抜き出した。少女は両の足で地面に立つ。体の中から痛みは全て消えていた。

    「僕は神さまなんかじゃないよ。」

    少女にとっては自分を死の淵から救ったこの男の存在は『神』と例えるにふさわしいものだったが、それを否定した。男は頑なに言葉を並べていた。
    男は少女の肩を両手で掴むと、その円らな目を見定めるように見つめた。
    同時に少女は驚いた。男の顔には青空がある。あの恨めしいほどに美しく広がっている青だ。少女がそれを目だとわかったのは瞬きをしたからだった。それには目があり鼻がある。少女はこれが神の顔なのかと驚いた。母親が口々に救いを求めていた存在は、これだったのだ。神は私たちを救ってくれる。今、少女を救ったのはこの青い目を持った男だった。

    男は何かを確信したのか、また微笑んで見せた。少女もつられるように笑みを浮かべようとしたが、表情筋はまだ凍り付いたままで動こうとしなかった。
    男は少女の前にしゃがみ込むと、頬に残っている砂利を拭い、ほつれたマフラーを巻きなおした。それから真っ白い指を指して、少女に問いかける。

    「あれは、君のお母さん?」

    少女は指先を辿る。そこにあったのは腕だった。体は瓦礫の下敷きとなり、右腕だけが飛び出している。腕だけでは判別できない。しかし、その伸びた手には、小さな十字架が握りしめられていた。少女の母親が常に身に着けていたネックレスだ。少女の胸にも同じものがあった。
    少女は神の問いに頷く。男はそれを喜んだ。

    「僕がお母さんを殺したの。」

    男は少女の手を引き、母親の亡骸の目の前に連れてくると、目を逸らすことのないように頭に手を乗せた。男の言葉は掌から少女の脳に直接流れ込んでくる。しかし、幼いキャパシティではそれを理解することはできないはずだった。少女の脳には男から与えられた万能感が未だに残っている。少女は何でも知っている。ゆえになんでも理解できた。少女の心は目の前の母親の死を受け入れることはできていなかった。あれが母だとすら信じたくなかった。しかし、脳はその事実を咀嚼する。

    「ねぇ、僕を憎んでくれる?」

    男は少女の耳元で祈るように言う。

    「絶対に、僕を忘れないで。」

    男は少女の肩に添えられた手を、その小枝ほどの細さに縋るように滑らせる。長い足を折って、少女と同じ目線に体を縮めて、じっと少女を見つめた。
    少女は母から視線を男へ向ける。長くて白い睫毛が濡れていることに気づいた。

    (かわいそうに。)

    少女は『神』を憐れんだ。与えられた知識のすべてが、この男の悲劇的な末路を示唆している。
    少女は思った。この世界には神はいないのかもしれない。母が懸命に祈ろうとも、助けには来てくれなかった。そして、母を殺したというこの男も、きっと神に見捨てられたのだろう。脳がじりじりの焦げはじめる。ここが思考の限界だ。この先に触れてはいけない。

    「またね。次はクリスマスに。」

    少女は、この時に男から手渡された銀の弾丸を誰にも言わず、その日まで手放さなかった。





    デウス・エクス・マキナ
    1-1


    記録 2006年8月 東京

    宗教団体「盤星教」本部

    その信者及び関係者の非術師56名の呪殺を確認

    残穢の分析の結果

    呪術高専2年
    ■級呪術師夏油傑
    ■級呪術師五条悟

    以上、2名の犯行と断定

    直ちに両名を呪術高専より除名

    呪術規定に則り呪詛師として認定し、死刑対象とする

    但し、

    「七海、ため息ばっかり付いてたら幸せが逃げちゃうよ。」

    読み飽きた報告書から視線を上げ、今日何度目かわからないため息を吐く。律儀な灰原は、私がため息をつくたびに毎度同じ言葉を繰り返す。その手には温かい缶コーヒーが2つ握られていた。私は差し出されたそれを受け取り、プルタブに指をかけたが、爪が一度滑ったところで開ける気力を無くした。再びため息をついて脱力する私を横目に、隣に座った彼が「ははっ」と笑う。

    「もうダメだ。」
    「缶コーヒー開けられなかっただけでちょっと悲観すぎない?俺が開けてあげるから、元気出してこうよ!」
    「むしろこの状況でも、あっけらかんとしていられるあなたの方が異常なんです。」
    「そんなことないってば。」

    私の手から缶コーヒーを抜き取ると、灰原は鼻息交じりにプルタブを引く。温い音が、休憩所に響いた。
    私は両手で頭を押さえた。自動販売機の機械音がやけに耳障りに感じる。かなり堪えている。聴覚が敏感になりすぎると碌なことにならない。経験則からこういう時は一旦問題から離れて気分転換するべきだ。ストレスから逃避することは何も悪いことじゃない。寧ろそうやって上手いバランスのとり方を学んで、子供は大人になっていく。
    しかし、生憎だが、私の逃げられる場所はない。何の比喩でもなく、この国に、この地球上に、私の安全地帯などないのだ。
    とりあえず寮の外に出れば物理的に頭は冷えるだろう。しかし、今度は真冬の寒さに腹が立ってくるに違いなかった。

    「冷めちゃうよ。」

    床ばかり映っていた視界に口の空いた缶コーヒーが差し込まれる。灰原が開けたものだった。私はそれを受け取ると、まるで酒を煽るかのように一気に飲み干した。灰原はその様子を目を丸くして見つめていた。それから「もう一杯いる?」といつものふざけた調子で言うものだから、私は限界だった。

    「いいですか灰原。私たちは死にます。」
    「だから考えすぎだって七海。」
    「じゃああなたには勝算があるとでも?あの二人を相手にして?」

    私が声を荒げると、灰原は円な瞳を歪ませて、拗ねたように口を尖らせた。

    「…今はないけど考えるよ。」
    「思いつくはずもない。」

    灰原は買ったコーラのプルタブを引いた。カシュっという寒々しい音を聴いていると、今更になって頭が冷えてくる。コーラを一口だけ飲んだ灰原がため息をついて、それから急いで幸せを取り返すように吸った。
    私は握りしめたままの報告書をもう一度広げる。何度見てもそこに並ぶ文字は変わらない。起こってしまった過去は変えることはできない。ましてや、私たちなんかに出来ることは何一つなかった。

    一学年上の先輩であるところの二人が高専を離反したと聞いた時、私たちはその事態が何を意味するのか理解できずにいた。一年生の夏。入学して半年をやっと過ぎた頃だった。二人とも16歳になったばかりで、大人すら右往左往する状況の中で正しい対応なんてできるはずもなかった。二人並んでみたテレビの中で、良く見知った顔が指名手配犯として報道されている。呪術界よりも一般社会にいた時間の方が長い私たちは、むしろその報道によって事の重大さを知ることができた。

    呪術規定第9条。
    呪術師による非術師への攻撃及びその殺害を計画・実行した者は呪詛師として認定され、死刑をもってこれを処断する。

    授業以外に開くことのない本を開いて、何度もこの条文を読んだ。指でなぞって、声に出して、そうして文字の一つが冷や汗で滲んだ時、私たちは色の失せた顔で見合った。

    夏油傑と五条悟は呪詛師となり、死刑対象された。
    高専を離脱した。呪術師ではなくなった。つまり、私たちの敵となった。
    敵となってしまったからには、あの二人と対峙する時がくるということ。頭によぎる。勝てるはずがない、と。まだ何も知らない私たちでさえも、彼らがいかに強大な力を持っているのかを知っている。私たちより上の人間なら殊更にわかっていることだろう。
    思わずカレンダーを見た。この先を捲ることはできないかもしれない。明るい未来は想像できなかった。

    あれから丸3年が経ち、世界は何とか継続していた。
    二人の死刑は執行されていない。

    12月。名ばかりの冬休みが明日から始まろうとしていた。
    任務とは別に、私と灰原は職員室に呼び出された。開口一番、担任が言った言葉は「おめでとう」だった。私たちは二人揃って準一級術師に昇格した。お互いにやつく唇を抑えながら、話を聞いていたが、何一つ頭には残っていない。多分、心構えだとか油断するなだとか2級に上がった時も聞かされた話だっただろう。素直に嬉しかった。卒業までにと二人で目指した目標が達成できたのだから。
    「早速だが、任務だ。」
    任務という言葉に思考を引き戻され、背筋を正す。手渡された資料の一枚目、その一行目を見た灰原は「は?」と無意識に声を出した。

    今日、私と灰原は死刑執行人に任命された。
    対象は言わずもがな、あの二人である。
    こんなにも最高と最悪が重なった日を誰も経験したことが無いだろう。
    職員室を出るまで、お互いの顔を見ることは恐ろしくてできなかった。

    原則、下される任務にはそれぞれ等級が定められ、それに見合った等級の術師が対応する。2級呪霊が相手なら、こちらは2級呪術師を派遣する。それは呪詛師の討伐に対しても同じだった。
    この任務の対象となっている二人の等級は繰り上げで特級。この時点で私たちに割が合っていないのだ。夜蛾先生がいればうまく計らってくれたかもしれない。だが、もう先生は教鞭を取ることはない。何の後ろ盾もない私たちは、上から機械的に下りてきた任務を何の抵抗もできないままに受け取るしかなかった。これは彼らに対する死刑執行ではなく、むしろ私たちを殺すためにある任務なんじゃないかと思うのも無理はないだろう。

    (上は私たち『後輩』になら、あの二人が手加減するとでも思っているのか。)

    六眼と無下限術式をもつ五条悟は、自他共に認める『最強』だ。
    在学中はあの人の不躾で軽薄な物言いが嫌で認めたくはなかったが、その才能は否が応でも認めざるを得ない。さらに補助監督が掴んだ情報によると、反転術式による治癒能力を会得した可能性もあるという。
    もし本当なら、最悪だ。ただでさえ攻撃が当たらないというのに、当てられたとしても一撃で致命傷となる傷を負わせなければならなくなった。そんなの現実的に無理な話だ。指一本で世界を終わらせられる人物にこちらが出来ることといえば、「どうかあの人の気まぐれで世界が滅びませんように」と祈ることだけだ。正直、五条さんは論外だ。あの人相手に戦うという過程は存在しない。自然災害と同じものと思った方が気が楽だ。

    私たちが『戦う』という選択肢を選ぶのは夏油さんを相手にするときだけ。しかし、一番厄介なのが夏油さんの方だ。彼の使用する呪霊躁術は降伏させた呪霊を自分の手札として使用できる。かの有名ゲームによろしく手札となる強い呪霊を手に入れれば入れるほど、デッキは強化されていく。
    近年、日本における呪霊の発生件数は減少している。特級など私の在学中に発生したことが無いし、1級呪霊にも未だ相対したことが無い。これは悪い傾向だ。呪霊の発生はこちらが操作できるものでもないが、それでも災害や季節に応じて発生数は増減する。それが継続して減っているという現状は現象としてあり得ない。これは夏油さんが発生した呪霊を手当たり次第に、手札に加えているということではないだろうか。そう考えた方が自然だろう。
    今ではもう、何級の呪霊を何体手に入れているかもわからない。高専時代に申請された頭数はその何十倍にも膨れ上がっているはずだ。それに攻撃自体が呪霊の特性によるということは、手段に予想がつかない。こういう点では夏油さんの方が五条さんよりも面倒だ。

    それにもう一つ厄介な点。それは非術師に対する攻撃を夏油さんが主導で行っているということだ。何の変哲もない呪霊による被害だと片付けていた事件が、調べてみれば彼が操る呪霊の仕業だったことも少なくない。逆に五条さんは最初の一件以来、調べられる限りで非術師を攻撃していない。私にあの二人が離反した理由はわからない。しかし、呪詛師を続けている理由があるとすれば、それは夏油さんにあると思う。彼は何か明確な目的のために非術師を殺しているのだ。

    今まで高専はあの二人の死刑執行に消極的だった。どこにいるかもわかっているし、相手の手の内も粗方理解しているにもかかわらず、だ。その理由は二人に対応できる等級の術師がいないことと、失敗すれば確実に世界は崩壊するということが関係している。
    我々は彼らが『二人』で離反した意味をよく考えなければならなかった。
    あの二人はお互いがお互いのトリガーなのだ。
    失敗というのは、『一人』だけを殺してしまうこと。そうなれば残ったもう一人が世界を滅ぼす。今の均衡が崩され、あっという間にゲームオーバー。だから取れる死刑執行の手段は『二人』まとめて、だ。そしてそんなことできるはずもないから、彼らには今まで手を出さなかった。
    高専は世界滅亡を引き延ばしにするために、二人については放置という手段を取っていた。今日まで世界が滅んでいないことにはこうした理由もある。

    「いっそ私たちもここから逃げようか。」

    口をついて出た言葉に灰原も私自身も驚いた。聞かなかったことにしてくれと、弁明する前に灰原が言う。

    「七海は逃げないでしょ。」

    真っ直ぐな瞳の眩しさに思わず目を細める。さっきの言葉は悲観的な思考から思わず出た言葉だ。実行するつもりはなかった。
    それでも彼が、「いいよ」と言ったなら私は今すぐにでも逃げるだろう。彼の手を引いて、どこまでも、呪いのない世界まで。

    「俺もいるからさ。きっとなんとかなるって!」
    「じゃあ、地獄まで付き合ってもらいますよ。」
    「七海とならどこでも大丈夫だよ。」

    だから君が戦うというのなら、私も覚悟を決めよう。どうせ死ぬのなら、道ずれが欲しい。君に一人で死なれた方が夢見が悪い。それこそ一生、私は彼の死を引きずって生きることになる。だったら二人まとめて吹き飛ばされた方がいい。

    私はため息とは違う長い息を吐いて、気持ちを切り替えるためにも頬を叩いた。灰原はその様子を見て何が嬉しくなったのか勢いよく立ち上がった。それから「腹ごしらえしよう。」という提案に乗って、私も立ち上がる。空の缶コーヒーをゴミ箱へ放り込む。私の耳に、古い床板が二人分の靴に軋む音だけが響いていた。

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