ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第4話「復讐の始まり」 ディアヴァルは、先程みた光景に釈然としない思いを抱いたまま、漆黒の翼を駆ってマレフィセントの元へと急ぎ戻った。
ディアヴァルの話を聞いたマレフィセントは、これは好機かもしれない、と言った。人間どもは王女の誕生を祝って宴を催すだろう。そのときに、復讐のチャンスが訪れる、と。
「あの男は、どうして怒っていたのですか?子どもが無事に産まれたら、普通は喜びそうなものですが」
ディアヴァルの疑問に、マレフィセントは吐き捨てるように答えた。
「跡継ぎになる男児が欲しかったのだろうよ。あの男らしいわ」
「でも、男の子じゃなくても子どもは子どもですよ。跡継ぎってなんなんですか? 人間の考えることはよくわからないな……」
なお釈然としない様子のディアヴァルに、マレフィセントは噛んで含めるように答えた。
「人間の男は、自分の財産や地位を男の子どもにだけ継がせる。女の子は、王になれない。結婚して婿をとらねばならないし、そうなると自分の子では無い者が王になることになる。それがさぞかし嫌なのだろうよ」
「人間って、おかしな生態をしているのですね。カラスの常識とは随分違う」
「そうね。お前達カラスの方が、よほど愛情深く正直でまっとうに生きているわ。強欲な人間どもとは大違い」
「人間の習性はなんとなくわかりました。カラスの俺には理解は難しいけど、そういうものだってことにしときます。それで、子どもが産まれたことがどうして復讐のチャンスになるんです?」
怪訝な顔のディアヴァルに、マレフィセントが返した返事は恐ろしいものだった。
「あの男の大切な物は何もかも奪う。そういうことよ」
「……望んでいなかった子どもでも、大切な者なんですか?」
「大切な、物、よ。あの男には娘なんて政略結婚の駒に過ぎないでしょう。それでも失えば惜しい駒には違いない」
「本人に直接復讐すれば良いのに」
「あいつを殺してしまったら、私の翼の隠し場所がわからなくなってしまうわ。じわじわ苦しめて、翼を返させるのよ」
「そうですか……。でも産まれた子には罪はないのでは?」
「そうね……。でも、どうせ駒としてしか扱われない子よ。待ってるのは幸せじゃない。束縛だけだわ。だったら私の駒になってもらいましょう」
「そうですか……」
内心で、そんな方法で翼を取り返せるのかなぁ……、と思いつつ、彼は返事を濁して口をつぐんだのだった。