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    銀鳩堂

    ここには草稿をポイポイあげて、溜まったら整えてpixivやカクヨムに移植しています。
    ツイステ二次創作小説の長編案が降りてきたので現在は主にそれを書いてます。
    pixiv⇨https://www.pixiv.net/users/68325823

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    銀鳩堂

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    ヤンクロ第二部10話
    後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第10話です。秘薬を調合した数日後、とうとう隣国の王が王妃の元を訪れます。ディアヴァルは気が気ではなく…。(本文=約4040文字/豆知識(ゴブレットについて)=約590文字)

    #ツイステファンアート
    twistedFanArt
    #ディア・クロウリー
    dearCrowley.
    #クロウリー学園長
    crowleyPrincipal.

    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部十話「王妃、隣国の王をもてなす」 ディアヴァルと王妃グリムヒルデが地下室で秘薬を調合した日から数日後。
     麗々れいれいしい行列を仕立てた一行が入城した。隣国の王とそのお供、そして護衛の兵士たちだった。
     派手な衣装をまとい飾り立てたのぼりを持った先触れの男がまず現れ、新たな王の到来を告げる。それを聞いた住民たちはみなそそくさと家の中に引きこもり、新たな王ってどういうことだ? と口々に言い合うのだった。我らが王は討たれて崩御した。それではあの男がこの国を我が物にしたというのか? いやいや、今から王を名乗るのはいくらなんでも早すぎるだろう…。人々の不安や憶測をよそに、隣国の王ご一行様は堂々と行進して、王妃の待つ城へと向かうのだった。
     ディアヴァルは木の上から一行を見下ろしながら、呆れていた。王だって? この軽薄そうな男が、この国の? グリムヒルデのような聡明な女性と釣り合うとは到底思えない。王妃と結婚もしないうちからこの国の王を名乗るなんて僭称せんしょうにも程がある。なんて失礼な奴なんだろう。
     やがて一行は王城の門に着いた。先触れの男がラッパを吹き鳴らし、王の到来を告げる。
     すると、驚いたことに王妃自らが出迎えの貴族たちの先頭に立っているではないか。王妃は先日見たものと同じ、紫と黒のよそおいをしている。陽光の元、りんと立つ彼女はあのとき以上に美しく見えた。
    「お出迎えご苦労! 貴女はこれから我妻となるのだ。夫への礼儀を心得ているのは良いことだぞ」
     隣国の王は、そう言い放った。
     それを聞いたディアヴァルは全身の血が沸騰したかのように身体が熱くなるのを感じた。怒りのあまり、すぐ横の若葉や枝を引きむしって投げちらす。
     出迎えの人々は一様に眉をしかめたが、ただ一人王妃だけは違っていた。
     彼女はにこやかな笑みを浮かべると、よくおいでくださいました、と丁寧にお辞儀をしたのだ。
     ディアヴァルは、そいつにお辞儀なんてしなくていい! と思ったけれど、彼女が先日言っていたことを思い出してぐっと我慢した。あの秘密を教えてもらっていなければ、この失礼な男の頭にフンを引っ掛けるために飛び立っていたことだろう。
     うるわしのグリムヒルデに出迎えられた隣国の王は、相好そうごうを崩して喜んだ。両手を広げて王妃を抱きしめようとするが、王妃はするりと身をかわし、お気持ちは嬉しいのですが、まだ喪も明けておりませぬゆえ……。と残念そうに目を伏せて見せた。
     隣国の王は、そこで初めて周りの者の冷ややかな視線に気づいたのか、少しばかり気まずそうに身を引いて、咳払いをすると喪服姿も美しいとかなんとか取り繕ったことを言うのだった。
     王妃はその腕をとって、宴の用意がございますからこちらへとうながし、一行はしずしずと城の中へと消えていった。
     ディアヴァルは中の様子が気になって仕方なかった。王妃の立場を案じて城に潜り込むことは謹んでいたが、今日ばかりは我慢できない。
     彼は自戒を破り、こっそりと城の中へ潜り込むことにしたのだった。

     入り込んでみた城の広間では盛大な宴がもよおされていた。
     テーブルの上には豪華な料理が並んでいる。子豚の丸焼き、とろりと煮込まれた根菜と肉のシチュー、鶏の炙り焼きに春野菜のサラダ、上質なワイン……。出来たのて料理はまだ湯気を立てていて、美味そうな匂いがはりの上のディアヴァルのところにまで届く。見ているだけでよだれがでそうなご馳走の山だった。
     上座には隣国の王が座り、上機嫌で酒を飲み、ご馳走を食べている。
     その傍らにグリムヒルデが居るのを見て、ディアヴァルは再び頭に血が上るのを感じた。そんな彼の存在を誰も気づいてはいない。梁の影から見下ろすディアヴァルの前で、人々はたらふく食べ、存分に飲んで王妃の歓待かんたいを楽しんでいた。
     宴もたけなわになった頃、王妃はにこやかに微笑みながら給仕を呼びつけ、何か指図さしずした。
     給仕が銀の盆に乗せてうやうやしく持ってきたのは、美しい緑の瓶に入った酒と二客のゴブレットだった。ゴブレットは翠玉すいぎょくをくり抜いた物で、見事な細工を施されていた。ボウル部分は極限まで薄く削られ、半透明で中が透けて見え、それがまた美しい。
     給仕が盆をテーブルに置くと、彼女は自ら酒を注ぎ分け、隣国の王に「さあ、お好きな方をどうぞ」と指し示した。彼がゴブレットを取ると、王妃は残った方を手に取り、宴につらなる者たちにも乾杯を促した。
    「さあ、共に酌み交わしましょう。両国が手を携え永久とこしえに栄えることを願って!」
    「我らが未来に!!」
     そして一同は盃を飲み干した。
    「これは美味い……! 実に美味い! 貴女の国の酒造所には良い職人が居るようですな」
    「お褒め頂けて嬉しうございます。これは今日の日のために特別にブレンドさせましたのよ。お口にあって良ろしうございましたわ」
     二人はその後も歓談していたが、しばらくすると隣国の王が目をしばたたきあくびを始めた。
    「まあ、お疲れのようですね。遠路はるばるとご足労いただきましたものね。もうお休みになりますか?」
    「うむ……。そうだな。そうさせてもらおう」
    「誰かある!」と王妃が手をたたき、召使いに寝室の手配を命じた。
     ややあって、支度ができたと知らされると、王妃は隣国の王に自ら手を貸して立ち上がらせ、部屋の外へと導く。
     それを見た王の護衛が慌てて二人の後を追って行った。
     二人の消えた広間には、「もう床入りか」などと口さがなく噂をする者、それをたしなめる者などの声がさざなみの様に広がっていくのだった。「床入」という言葉が耳に入ったディアヴァルは気が気ではなかった。ここを離れて、王妃の部屋を覗いてみようか……。いや、覗いてどうするというのだ。もしそこで……。ああ! 彼女があの男の物になるところなんて見たくない! そんなことになっていたら俺はどうしたらいいのだろう?
     ところが、ディアヴァルの懊悩おうのうをよそに、ほんの数分後にドアが開き、王妃その人が戻ってきた。
     ざわついていた広間は瞬時に静まり返り、好奇の目が王妃に注がれた。
     しかし王妃は人々の好奇の目に応えることはなく、堂々と自分の席に戻ると座を見回して「王様はお休みになられました。みなさんはまだまだ楽しんで下さいね」と告げた。
     人々は好奇心を押さえながら宴を楽しみ、座がお開きになったときには腹ははち切れそう、酒もたっぷり飲んで目を開けているのも辛いありさまになり、寝室へと案内されて深い眠りについたのだった。

     ディアヴァルは、王妃がその場を去るのを見届けると、先回りして彼女の部屋へと飛んでいった。窓はいつものように開けてあり、彼は難なく部屋に入ることが出来た。部屋にあの男がいたらどうしよう、と思ったが、そこには誰もいなかった。
     ほっと安堵しながら、彼のために用意されたあの台へと戻って待つことしばし。
     部屋の外に耳慣れたあの女性ひとの足音が聞こえ、ドアが開いた。
     疲れた顔をしている。彼女を見た瞬間そう思った。
     王妃は部屋に入るとあの漆黒のマントを脱いで侍女に任せ、すぐに手を振って下がらせた。そして、書物机の前に座ると肘を付き、顔を押さえて何か考え込んでいるようだった。
     その後ろ姿から悲しみがにじみ出ているような気がして、ディアヴァルはなんとかして慰めたいと思った。翼を広げて舞い上がると、部屋を横切って机の上に乗り、だまって彼女の手に寄り添った。
     と、王妃はその手を伸ばして彼の背中を撫で始めた。ディアヴァルは彼女に撫でられるといつもうっとりとしてしまう。とてもとても気持ち良いのだ。彼女の身の上が気になりつつも、その感覚に身をゆだねずにはいられないのだ。
     どれくらいそうしていたろうか。
    「ありがとう。クロウリーや。お前は本当に優しいのね」
     ぽつんと王妃がつぶやいた。ディアヴァルは胸の底から暖かな感情が湧き出すのを感じた。嬉しさと誇らしさが胸を満たしていく、その感じ。
     その時、王妃の目にうっすらと涙が浮かび、ふくれれ上がってこぼれそうになった。ディアヴァルは、思わずくちばしを差し出して涙をすくい取っていた。くちばしの中いっぱいに塩辛い味が広がる。
     すると、再び涙が。ディアヴァルは一生懸命涙をすくい取っては飲み干していった。王妃は深くため息をつくと、自ら涙をぬぐい顔を上げた。
    「こうして私自身のことを心配してくれるのは、今ではお前だけよ。姫も案じてはくれるけれど、あの子はまだ幼すぎて、ね。国を統べる者が人前で泣くわけにはゆかないの。だから、これはお前と二人だけの秘密よ」
     そう言って、王妃はディアヴァルの顎に指を添えるとすっとうわ向かせた。
     黄水晶シトリンの瞳と、漆黒の瞳が見つめ合う。
    「あの男はもはや我が手の内。眠っている間に術は完成するわ。そうなればもう、あの男は私の言いなりよ。我が君ののこされたこの国を渡したりなどしない。けれど、この国を狙う輩はまだまだ出てくることでしょう。だから、ね。これからも力を貸しておくれ、愛しい子マイ・ディア
     ディアヴァルは、なんとか自分の気持ちを伝えたかった。もどかしさに身悶えする想いのままに、彼は王妃の手に頭をり付けていた。
     王妃の細くしなやかな指が、するりと頭を受け止めて滑らかな羽毛をそっと撫でてくれる。心地よい感触に身を任せながら、彼はいまこの瞬間に死んでもいいと思っていた。彼女のためなら命も惜しくない。心の底から、そう思うのだった。

     翌朝。
     隣国の王とご一行様は爽やかに目覚め、昨日の歓待に厚く礼を述べた。もちろん、王妃は王が出立する前に、お互いの国の友好と国境の不可侵を約束する同盟の証書にサインさせることを忘れなかった。
     隣国の王は、未練がましくあれこれと王妃の機嫌を取り、何かあれば呼んでくれ、すぐ駆けつけるからと約束して帰っていったのだった。






    【豆知識】
    今日の豆知識は、ゴブレットについて。
    ファンタジー作品にもよく登場するゴブレットですが、ワイングラスと何がどうちがうのか漠然としか知らなかったので検索してみました。
    参考にしたのはこちらの記事です。
    https://macaro-ni.jp/52759
    こちらに寄ると、ワイングラスはワインに特化した物で、酒に体温が伝わらないように細い脚がついており、容量も少なめの物が多いそうです。ゴブレットは、ビールやソフトドリンクを飲むためにも使うやや大きめの盃で脚が付いているもの(最近は脚のないものもあるそうです)。
    ワイングラスがガラス製品が多いのに比べて、ゴブレットは陶製などいろいろな素材の物が多いとのこと。
    ゴブレットの各部名称は、その物ズバリでは見つからなかったので、ワイングラスを参考にしました。
    https://www.brocantemomo.com/contents/notes/969
    液体を注ぎ入れる部分は「ボウル」というのですね。
    そして数え方。
    https://www.sanabo.com/kazoekata/ct_wa/wa/wineglass/
    「一個」「一脚」は知っていましたが、念の為検索してみたら驚きました。
    お客様をもてなすために用意したグラスは「客」で数えるのだそうです。
    そういうわけで、今回の作中での数え方も「客」になっています。
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    ❤😍💗
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    銀鳩堂

    PROGRESSヤンクロ第二部23話。
    後のクロウリー学園長=大鴉のディアヴァルの物語、美しき女王編の23話。七人の小人たちが小屋へ戻ってくる!女王の扮する老婆は危機を告げるディアヴァルに促されてその場を逃げ出したが…。(本文約2600文字/今回、豆知識はお休みです)
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部㉓話「老婆と七人の小人たち」 ディアヴァルにかされて、老婆にふんした女王は森の中へと走り込んでいった。
     ディアヴァルが空に舞い上がって偵察してみると、木立の隙間からちらちらと、小人ドワーフたちが転んだり滑ったりしながらも家を目指して走っているのが見えた。あいつらあんなに足が短いくせに、なんであんなに早いんだ? それなのに、老婆の姿の女王は早く走ることが出来ない。早くも息をはずませて、苦しそうに走っている。ディアヴァルは女王の直ぐ側まで舞い降りると、枝から枝へと飛び移りながら女王の後を付いて行った。
     女王は森の踏み分け道を走って戻っていく。その後ろから、大声で叫ぶ怒った小人ドワーフたちの声がかすかに聞こえ始めた。このままでは追いつかれてしまう! どうすれば良いのだろうか? ディアヴァルは女王のそばを離れ、小人ドワーフたちの方へと戻っていった。
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    銀鳩堂

    PROGRESSヤンクロ第2部第4話
    後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第4話です。
    今回は王妃グリムヒルデと白雪姫の仲睦まじいティータイムにディアヴァルがお邪魔します。こんなにも仲睦まじい二人がなぜあんなことになってしまうのか、それは今後のお楽しみ…。(本文1940文字)

    ※今回の豆知識はWIRED誌から、鳥の「名付け」について。そう、鳥たちも「名前」を持っているのです……!
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部四話「小さなお茶会」 華やかな結婚式から数日後。王城の庭園で虫を漁っていたディアヴァルは、新王妃グリムヒルデと小さな女の子がやってくるのに気がついた。女の子は、結婚式でドレスの裳裾もすそを持っていたあの子だ。参列者からは姫と言われていた。年の頃は6歳かそこらだろうか。どうも人間の子どもの年齢はわかりにくい。
     グリムヒルデは、幼い姫の手を引いて庭園の東屋あずまやをめざしているようだ。片手にはバスケットを下げている。
    「東屋についたらおやつを頂きましょうね」と、グリムヒルデは小さな姫に声をかけた。
    「はい、おかあしゃま!」と元気よく姫が答える。
     ディアヴァルには、その声や口調は、見た感じの年齢より少しばかり幼く感じられた。だがその幼さは姫をより愛らしく見せているとも思った。
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    銀鳩堂

    PROGRESSヤンクロ第二部1.5話「出会い」後編
    構想が固まらず止まっていた二部ですが強引に再起動。試運転的に出会いシーンの続き、王とグリムヒルデ(後の美しき女王)の出会いを書きました。
    アニメ版「白雪姫」には無いシーンで「みんなが知らない白雪姫」の筋立てとも違っていますが書きやすい方向に進んでみます。最後にカラス(鳥類)の豆知識(異種族恋愛事情)付き。豆知識は恒例にしたいです☺(本文1327文字)
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部1.5話「王との出会い」(第一話前半はこちら⇨https://poipiku.com/3625622/6059932.html)


     大鴉おおがらすのディアヴァルは、美しい乙女の姿に見惚みほれていた。
     なんと美しい髪の毛。瞳も、顔も、何もかも完璧な美の化身としか思えない。いくらでも眺めていることができる。
     彼のこれまでの生涯で、こんな気持ちになるのは初めてのことだった。
     心臓がドキドキして胸が苦しく身体は熱くなって、クロウタドリの様に歌いたいような、ハヤブサの様に飛翔したくなるような、得も言われぬ心地がする。
     この奇妙な心地は何なのだろう。まるで何か魔法にでも掛かったみたいだ。そう思っているその時、乙女の家の門の前に立派な馬に乗った男が供を何人も連れて通りかかった。
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    銀鳩堂

    PROGRESSヤンクロ第2部第3話
    後にクロウリーが学園長となるカラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第三話です。
    今回は王とグリムヒルデ(後の美しき女王)の結婚式のシーンです。
    本文約1450文字+カラス豆知識約740文字のおまけ付き。今回の豆知識はカラスがお互いを確認する方法「コンタクトコール」についてです(資料リンクあり)。
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部三話「結婚式」 五月のよく晴れた朝、王城は晴ればれとした雰囲気に包まれていた。
     城のすべての尖塔に美しい三角旗がはためき、城門は春の花々を編み込んだ花綱で飾り立てられて開放されている。城門からは次々と来客が流れ込み、城はかつてない賑わいに沸き立っていた。
     今日は、この国の王が新たな王妃をめとる、その結婚の式典が催されるのだ。城の庭園は民草にも開放され、たくさんのご馳走と飲み物が振る舞われる。
     麗々しい式典のクライマックスは、正午の結婚の誓いだ。国の最も高位の聖職者がやってきて王と新たな王妃の誓いに立ち会い、この結婚に祝福を与えることになっている。
     その場には、もちろんディアヴァルも訪れていた。なにせ不吉とされてしまうカラスの身、あまりおおっぴらに姿を表すことはしなかったけれど、物陰から人々を観察し、ちらりとでもグリムヒルデの姿が見えないかと期待していたのだ。
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    銀鳩堂

    PROGRESSヤンクロ第2部第8話
    後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第8話です。
    王妃と再会したディアヴァルは、ずっと側にいて欲しいと言われて幸福に酔いしれるのだった。そこへ誰かがドアを開けて入ってきた…。(本文約1630文字/豆知識は今回はお休みです。支部移植字に話数が減る予定なので今回はそれを見込んでの調整です)
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部八話「命名」 ディアヴァルが王妃グリムヒルデに背中を撫でられて恍惚こうこつとなっていたその時、部屋のドアがキィっと開く音がした。
     誰か来た?! まさか追い払われたりはしないだろうか。王妃に魔女の疑いがかかってしまったりしたらどうしよう……。
     そんな心配が頭の中を駆け巡る。
     だが、次の瞬間、部屋に飛び込んできたのはスノーホワイト姫だった。
    「おかあしゃま、あのね……」
     そう言いかけた姫の顔はたいそう寂しげで、ディアヴァルはこんな小さな女の子がこんなにも寂しげな顔をするなんて、と胸を痛めた。が、次の瞬間、姫の顔がぱっと輝いた。
    「あっ!! カラスしゃん!! カラスしゃんだ!!」
    「そうよ、カラスさんが遊びに来てくれたのよ」
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