ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部⑯話「女王と鏡」 暗い部屋の中、鏡だけがぼんやりと光を放っていた。
その光は、鏡の前に立つ女王を妖しく照らし出していた。女王の美貌には一抹の陰りがあった。美しさそのものが衰えたのではない。深い哀しみと疲れが、忍び寄る宵闇のように陰を落としていたのだ。スノーホワイト姫の美がうららかに晴れた青空なら、女王の美は凄絶なまでに燃え上がる夕焼けのようだった。
女王は鏡に向かって問いかけた。
「鏡よ鏡、今日、姫はどうしていたのか?」
すると鏡面に光の波紋がゆらめき、その中心からある光景が浮かび上がってきた。
──井戸に向かって歌いかける姫。
──現れた貴公子。
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