-傀天蝕穢-不具ナル戎 忌ニ墜チル常世ノ一.蛭子童神、足不立シテ
常世ノニ.太陽ニ棄テラレシ童神
常世ノ.大物主ノ祟リ、天叢雲剣ニ封ジ三輪山ニ祀ル
1.無謀なる天神地祇召喚
2.荒神降誕
3.蛭子と与幸吉
4.呪壊のデウス・エクス・マキナ
*注意
・死滅回遊後、本編終了後IF
・憑依要素あり(成り代わりに近いけど違う)
・オリキャラめっちゃ喋る
・オリ技もめっちゃ出る
・割とアウトな発言が多い
・神話を元にして作ったので障がい者について差別的な言葉が出てくるが差別する意図はない
常世ノ一.蛭子童神、足不立シテ
蛭子三年まで足たたざる故
二神これをにくんで
船にのせはなち給ふといへども
いやしき土民のたぐひまでも、
かたわなる子は一入あはれむならひなるに
幼児に何の罪あって
にくんで放ちすてたまはんや。
(
イザナギ・イザナミの長男として産まれてきた蛭子は、2神の過ちにより手足が蛭のように萎え欠けている不具の子として誕生した。
三年経てども、たつこともできない蛭子を両親は憎み、この蛭子をイザナミとイザナギはわが子に含めないといい、天磐櫲樟船に乗せて流し遺棄してしまった。
この産まれてきた幼き神になんの罪があるだろうか。
障害をもって醜い姿で産まれたことが、生まれ落ちたことが罪であり、呪いであるのなら。
ただ哀れでしかなく____
)
1.無謀なる天神地祇召喚
「きっと後悔することになるわ」
ラルゥはそう苦々しく声を掛けた。
夏油に執着した末路がこれだと思いたくなかったからだ。
「ではラルゥは、我々の計画には賛同しないと?」
「これは…きっと傑ちゃんが望んでいることとはずれているのよ」
「日本を術式で包み、神を復活させる!
そうして、術師以外の全ては消え去る…
我々の何処が間違っているとも?」
ラルゥは液物に浸かった少年の遺体を見ると、首を振る。
傑を王にしたかった。
その目的で動いていたのが、手段と方法が入れ替わってしまっている。
それは、確かに夏油が真に望んだことだったのかもしれないが__
「成功するわけがない。
神を操るなんてそんなこと、私たちは傑ちゃんじゃないの。」
「黙れ!何のための器だと思っている!!
…計画は成功する。確実に神はこの遺器に宿る!!」
あなた達が万が一死んだら、きっと傑ちゃんは__
止めようとして、ラルゥは固まった。
彼らの目がとうに狂気に染まっていたからだ。
きっと止まらないだろう…死ぬ以外には。
「蛭子命神は与幸吉の器に宿り、日本の全てを術師の楽園に変えるだろう!!!」
「…そう。…悪いけど私はどこにもつかないわ」
夏油の家族から出た者が率いるこの術師軍団はやがて、死滅回遊で行き場を失った術師、元非術師、呪詛師、信者を取り込み、死滅回遊終了後最も大規模な呪詛師集団まで発展してしまった。
狂気に取りつかれたような笑みで少年の遺体に縋る家族を、ラルゥは踵を返して後にした。
__________________
三輪はきょろきょろと辺りを見渡す。
東京校に入ることは数えても片手で収まるほどしかない。
「しゃけ」
「狗巻君!」
教室には既に釘崎、狗巻、パンダが集まっており、三輪と歌姫は最後の一人だったようだ。
「このメンツで集まるのなんて珍しいな。」
「任務が任務だしね。」
伊地知がもう概要は見て貰っていますが、と前置きした上で話し始める。
「今回皆さんに担当してもらう任務は、とある宗教系呪詛師集団の捕縛と計画の停止です。」
伊地知はポインターを使ってスライドショーを指す。
「この呪詛師集団は過去も細々と存在こそしていましたが、死滅回遊及び両面宿儺、羂索の討伐後から台頭してきた集団になります。
常に隠れて行動しており、呪詛師としての大きな事件も数か月前の『ダム侵入事件』と『西宮神社盗難事件』程度しかありません。」
「つまりあまり強くないってことですか?」
「ツナマヨ?」
「そうですね。最高でも準一級術師が1、2名、二級術師が5名程度とされています。
その中でも準一級術師相当だと思われている元夏油一派の呪詛師は戦闘向けの術式ではないことが割れている…みなさんなら容易に制圧できる集団だと考えられますが…」
「じゃあすぐに制圧しに行きませんか?」
釘崎が急いたように進める。
「いえ、どうやら術師の中で『隠す』ことに特化した人物がいるようで、大体の候補は割れているものの正確な所在が掴めません。
ですが計画の一部を入手しています。
来たる神無月の神迎祭の日__10月10日のことですね。
我々は天神地祇を御子体に宿し、復活させ、呪術師だけの楽園を作る、と。」
「いや無理だろ」
「すじこ」
「荒唐無稽な計画にも程があるわ」
「ハハハ…」
三輪はこの呆れた雰囲気の意味が分からず、首をかしげる。
パンダはそれに気が付き、ああ、と捕捉した。
「神様を呼び出すのは基本的に無理があるんだってよ。
例えばあの両面宿儺でさえ、元は人間だ。
土地神や付喪神、架空の瑞獣の類ならまだしも、創造神話の神は生物としての『格』が違いすぎる。」
「えっ、じゃあ神様はあの両面宿儺より強いってことに…」
「いや、それがそうとも言えないらしいんだな。これが。
創造神話の神は生まれつき『神』だからこその格の上位だからなぁ…
例えば貴族の子供は貴族だろ?でも貴族とか王様が武士や軍人より強いかって言われたらそれは違うのはわかるか?
偉くても強くはない。
そもそも日本神話の神は戦いの逸話が多くは無いからな。」
「ああ、なるほど。」
「存在自体が上位なことは確かだわ。
それに呼び出す神が万が一天照大御神や天之御中主神だったりしたら天災になるでしょうから、それなら両面宿儺にも勝てるかもしれない。
けどね、そんな太陽そのものや大地を創造した大神が呼び出せると思う?
呼び出す術があるなら、とっくに世界は崩壊してるはずよ。」
三輪は想像してゾッとした。
だが同時に世界は別に崩壊してはいない。
「無理がある行為なの。
器がもたないし、降神霊も上手くいかない。
万が一これらの条件が揃っていても神はこちらの思惑には乗ってこないはず。
天元様の結界が先の死滅回遊で弱まっているので、今が狙い時というのは分かるけれど、それにしたって無謀だわ。
…呼び出そうとする代償はあるかもしれないわね。
術者が死んでしまうかも。」
神を呼び出すというのはそれほどに危険性がある。
「『隠す』術がいかに優秀と言っても、神を呼び出そうとするほどの儀式を行なうなら、隠しきれないほどの呪力反応が見れるはず。
そこを狙って、なるべく呪詛師を殺さないように儀式を止めるのが私たちの任務よ。」
本当は五条や伏黒のような領域展開を使える術師が欲しかったが、死滅回遊から宿儺のゴタゴタがあって、国内は荒れており、呪霊の討伐で忙しい。
呪詛師集団自体はそう強くないものだ。
神を呼び出すことはほぼ失敗していると分かっている以上、最も気を付けるべきは死者を減らすことと、呪詛師の捕縛だ。
「…雑魚任務ってことね。」
「まー頑張ろうぜ。結構報酬もいいし。」
「大丈夫だとは思いますが、もしかしたら神じゃなくて呪霊を呼び出そうとしているかもしれません。
そうなれば呪霊の復活は不可能じゃありませんから、倒せそうにない特級が現れたときはすぐにご連絡の上お逃げ下さいね。」
「しゃけ、明太子!!」
「了解しました!!」
三輪は勢いよく了承した。
報酬が高いのは確かだったし、死滅回遊から等級に合わない任務が多かったため、今回の任務はそれらよりまだましだ。
人が死ぬのは嫌だなぁ、と思いながら、気合を入れなおした。
2.荒神降誕
ー10月10日当日ー
信者の一人、祭司は呪物を取り出した。
__鎌倉時代に蛭子を封印したとされる、特級呪物。
「アマノ、トリノ。こちらへ。」
「はい我が命、蛭子命様に捧げます。」
「はい我が命、蛭子尊様に捧げます。」
降霊術を術式にもつ、イタコの兄弟が一礼すると遺体の左右につく。
壊れた呪骸を置く。ミニメカ丸と呼ばれたそれに、複製した魂が宿っていた。
長年の研究により魂を3つ使うことで、不完全な術式では短い時間ではあるが疑似的に魂を復活させることができることが検証済みだ。
必要なのは天与呪縛の魂。そして肉体。
肉体は何故か五体満足になってしまっているが、呪骸に複製されている魂は五体満足になる前のもの__つまり天与呪縛状態のものだろう。
器に使うには十分だ。
「これより蛭子様の復活の儀を行なう!」
まず、遺体に1人の術を使い与幸吉の魂を降霊させる。
それだけでは遺体に魂が定着しない。2人の魂を捧げることで3つの魂を観測させ、遺体に魂を定着させ、すかさず呪物を投下。
その後、遅れてもう一人の術式を発動させ、呪物に加えてさらに蛭子命の降霊を行なうことによって降神の完成度を上げる。
完璧な計画___
「宿せ、復せよ、『与幸吉』!!」
遺体がビクリと震え、目を開く。
「…?……!?」
放心しているその口に呪物を無理やり突っ込んで嚥下させた。
「止まるな!魂の定着できる時間は短い!
アマノ!トリノ!」
「天磐櫲樟船の名において、魂を対価に神の荒魂を降し願い給う!!
不具なる童神、我らの祈りと呪いを持って、天地を割きこの国を覆い給え!!」
「鳥磐櫲樟船の名において、魂を対価に神の荒魂を降し願い給う!!
醜陋なる怪神、我らの祈りと呪いを持って、天地を割きこの国を覆い給え!!」
「…あ、あ、いや、、ぁ、、あ、あ、ッッ!!!!!!!」
溢れんばかりの呪力が中心に包み込む。
暴風のように吹き荒れ、施設のあちこちに傷を付けた。
与幸吉は何かに憑りつかれたようにのたうち回りながら、悲鳴を上げる。
「「「降されよ、『蛭子神』!!!」」」
「………ッッッーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
至る所から血を吹き出し流し、手足は痙攣しヒルのように萎えている。
自我は神の力により塗りつぶされていく。
呪力は暴走し、氾濫を起こし、頬の痣から体のあちこちは鱗のような痣に様変わりした。
術師が何人も囲み、抑えようと試みる。
イタコの兄弟は魂を吸い取られたように血を吐くと倒れこんで絶命した。
「これで…世界はッ…ガハッ」
「我々のものッ……ガハッ」
与幸吉が煙に包まれる。
呪力が安定し____やったのだ。
ああ、ついに、ついに!!!我々の野望がかなえられる時が来たのだ!!!!
勝利を確信した。
神は我々に微笑んだのだと_____
__________________
三輪は待機していたところから立ち上がる。
目視出来るほどの強大な呪力が渦まいているのを察知したのだ。
『三輪!わかるか!』
「はい!これが例の…!」
『恐らく呪力反応の位置は、今三輪がいるところと一番近い!
俺たちもすぐに向かうから先に現場に向かえ!
危険そうなら引き返していいからな!!』
「了解です!!」
三輪は呪力の溢れる方向に向かって走った。
場所はすぐに割れる、廃墟の一見使われていない井戸が地下と繋がっていた。
(なんて強くて、禍々しい呪力___!!!)
三輪は目を細めると、塗装されたじめじめとした地下通路を駆け抜けた。
__________________
「そなたらが、私を呼び出したのか。」
神は一見すると遺体とそう変わらない姿をしていた。
ひらりとした呪力で編まれた優美な服を着、足と手はそれぞれ袖と丈の長い裾で隠れている。
二本の足で立っていながら、どこか覚束なく見えるのは障害神故か。
瞳には神紋、髪は長く伸びている。
表情は幼く無垢だ。
___紛れもない。蛭子命を降神することに成功した!!
「神よ…!呪い落ち産まれた原初の神よ…!!
この世から猿を無くし、我々を救済したまえ!!!」
手を握りしめてすがりつくように祈る。
信者はみな、首を垂れている。
「顔をあげよ。啓蒙なる人類よ。」
「は…!」
まだかろうじて少年の域を出ない痩せぎすの御身が、ぱっと目に入る。
兄弟の絶命した血で濡れていた。
無垢な瞳が悠然と微笑まれる。
「神の意向の前に、糧となれ。」
「はい!……は」
バシュ、と無感動に貫く音が響く。
祭司の胸は呪力を込めた竿に貫かれていた。
「……カハッ…な、なぜ…」
「神を呪いで呼び出し、あまつさえ操ろうとした不敬。
死をもって詫びるがよい。」
あっけなく臓物を抉りだし、無惨に放り棄てると、怯えたように下がる信者を無感動に眺める。
__無垢なる狂気。
信者はようやく気が付く。
呼び出してはいけないモノを、我々は降神だしてしまったのだと。
「ヒッ…」
「祭司様ぁ‥‥!!!!」
「こ、この!異相のくせにッ…!!!」
「化物風情が!!成敗してやる!!」
「ふむ…」
蛭子は少し考えるようにして、片手を上げた。
「恵比寿として呼ばれたのであったなら、聞こえぬ振りをして笑い流していたところだが…」
蛭子の背後から傀儡でできた鯨が大口を開けた。
がぽっという音と共に信者が飲み込まれる。
悲鳴は一瞬で消えた。
「あいにくこれを言われて笑い流せるほど私は年老いてはおらぬのだ。
許されよ、幼き神なので癇癪もする。
これも全て貴殿らが望んだこと、そもそも___」
ごり、ごりっ、と肉が抉れ、鯨傀儡の口から大量の血が漏れる。
血だまりの中を、蛭子は素足で傀儡を支えに歩くと手を広げた。
「私は人間も、神も、世界も、皆嫌いだ。
裏切り、遺棄し、利益しか求めず、罪を押し付ける畜生共。
自らの恐れの為に勝手に祭り上げながら、それでも図々しく神託を求める愚か者。
日の光を浴びることも許さず、地位を奪った不条理よ。
私を愛さないことが、私が醜く、不具で、穢れているからだというのなら___」
死臭の中、蛭子は狂った笑みを向けた。
太陽を仰ぎ見る。
「今、全てを壊し、ここに新たなる世界を創造しよう。
私を操り無下に扱った術師共を撲殺し、
私を望むだけ望み縛り付け祀り上げた人間共を抹殺し、
私を遺棄し殺し見捨てなかったことにした双神を貫き、
私を嫌った太陽を撃ち落とし、
私を愛さなかった世界を壊しつくそう!!」
それがいい、それがいい___
ケタケタと笑いながら怨嗟に取り憑かれたように見開く。
「……なにを、言っているんですか…」
血だまりがパシャッ、と音をたてる。
三輪は絶句する。
少女が独り、よろけながら神に相対した。
「…?生き残りがいたか?」
首を傾げる。
「これは、まさか全部貴方がやったの…?」
「そうだが。」
「なんで、こんな…こと…を…」
「なぜって…
神を降そうとした当然の報いを受けたまでだ。」
目を見開き、血だまりを見、蛭子を睨みつけた。
「だからってこんなことっ…!!」
「道理?人道?倫理?
そなたらニンゲンが定めた理など神には関係がない。
そして私は『情』を信じてはいない。
ああ、いい。畜生が神を想ひを理解できぬのは当然のことだ。」
蛭子は素早く釣竿を動かすとさて、と三輪を見据えた。
三輪は刀を構える。
「さっさと殺してしまうか。」
「…っ」
剣を振るが強い呪力に掃われ叶わない。
傀儡が飛び出し三輪を抑え込むと、頭上から竿が振り上げられる。
___死ぬ。
「……?」
衝撃が来ず、三輪は目を見開いた。
蛭子の動きがぴたりと止まり、苦痛に顔が歪む。
「…三輪、逃げ…ロ…!!!!」
「……!!!」
カタカタと震える手を後目に三輪は逃げ出した。
(何…なんで…!!?私はあの『声』を知ってる…!!)
「…と、器の子が意識を取り戻したな。
まぁあらかじめ分かっていれば、気にするほどでもないが…」
再び主導権は蛭子に移る。
「器子はどうやら貴様…ああ、この呼び方は良くない。
貴君に特別な感情があるようだ。
おもしろいことだな、特別に傍に使えることを赦してもよいが…ッ!??」
突如蛭子の方に、強大な呪力の塊が爆ぜる。
「…とんでもないことになったね。」
「五条…さん…」
「大丈夫、霞?」
最強の術師、五条悟が三輪を守るように現れた。
「天元ッ!!!!!」
「僕は天元じゃないよ、って流石に効いてないか。」
赫を傀儡で覆って跳ね除け、蛭子は激怒に顔を歪めながら五条を睨んだ。
(神の召喚に成功するなんて、運がいいのか悪いのか…代償はかなりのものだったみたいだけど。
ここは地下で地上は市街地な以上、大技は使えない。とするなら__)
「術式順転『蒼』」
「天元ッ!天元ッ!!げに憎き天元めッ!!!!!
来たれ!大鯛!!小鯛!!」
鯛の傀儡の群れが囲い守るように立ちふさがる。
『蒼』は防がれた。
「呪力を無効化する術はあるみたいだけど…!!」
「…!!!ガハッ!!」
五条はその中を掻い潜り、蛭子の腹に一撃をお見舞いした。
蛭子は吹っ飛ぶ。追撃を食らわせようとしたが、これは傀儡に邪魔される。
(思っているより強くはないか。
動きは鈍くて、足を引きずってる。
傀儡は厄介だが、間合いに入れば恐らく準一級でも祓えるレベルだ。)
「世も救ふ戎神の誓いには、もさらじ物を数ならぬ身も!!!
漂流来神!!鯨死鮫着!!!!」
突如鯨型の呪骸の口から、絶命した信者の壊れた遺体が吐き出され姿を変える。
遺骨は骨組みに。肉塊は体に。
それは、鮫のような姿に形を変えた。
人の命を弄ぶこれが、本当の呪『骸』…!!!
「趣味が悪い…!!
術式順転『蒼』!!」
「 ~二十骸~ 双呪大穢砲!!!!!」
『蒼』が相殺される。
強い破壊攻撃に地下通路は崩れ、五条は三輪を庇いながら粉塵の先を見据えた。
(なんて強い呪力だ!本体は大したことはないが、傀儡はやっかいだな。
恐らく、儀式に関わった信者の魂を喰い潰すことで呪力を上げる、冥冥さんのバードストライクと同等の術!
けど、これは人の命を!!!)
「神義解放『貫通加算』
天道滅却!!天魔反戈!!!」
「とりあえず霞はここから逃げ_____‥‥!!!!」
「五条さん!!!!???」
無下限のバリアを打ち破って、蛭子の術が五条に直撃する。
先ほどの大穢砲よりも威力は劣るものの、五条がよろけた。
(貫通!!?天逆鉾と同じ効果だな!
そこまでの威力は込められないみたいだけど__
いや、違う!!僕を狙ってるわけじゃない_まずい!)
攻撃は__ブラフだ。
こちらを動揺させ、逃走するための。
「逃がすか!」
「夢祓-宝船-!」
ふたつの傀儡が合体し船のような形になって、蛭子が飛び乗った。
そのまま砲撃を頭上に食らわすと、市街地も気にせず大穴を開けそこから逃げようとする。
五条が宙を舞うと追撃を撃つ。
蛭子は魂を消費しながら船の周りを人傀儡で囲い追撃を防ぐと、天に向かって手を広げた。
「現世のニンゲン共!
我が神名は『蛭子』!『水蛭子命神』なり!!
愚かなヒトの願いと呪いと穢れを持って、ここに荒神として降誕した!!
私の願いはただ一つ!
もっとも憎むべき双神が生み出したこの『日の国』を全て破壊しつくすことである!!!
これは宣言布告である!!!!
ニンゲン、術師、そして天元!!
私は与えよう!!!
幸いなる吉日、この身にあまる厄災を持って!!!
この世の、現世と常世の境を破壊を!!!」
___開示__
五条はためらいを捨てて、最大呪力を発動しようとする。
もはや市街地の被害などと言っている場合ではない。
本来であれば五条に一太刀も浴びせられぬような力だが、信者の命という命を消費し及ぶようになってしまっている。
このまま野放しにすれば、さらに人を喰い荒らし力を蓄えるだろう。
そうしたら__リカや宿儺レベルの怪物が産まれてしまうかもしれない。
「___領域展開『無量空処』」
決まった。
蛭子は目を見開き、宝船は破壊され__
「『シン陰流・簡易領域=戎』」
__嗤った。
「シン陰…流…!?」
そのまま蛭子は笑みを浮かべながら空中落下し、地上に常世の門が開く。
それらは鯨のような形を取り、蛭子を飲み込んで消滅した。
「___逃げられた。」
五条は宙で呆然と立ち尽くす。
蛭子の呪力反応は六眼をもってしても完璧に途絶えており、その場には破壊しつくされた市街地と、住民の悲鳴だけが残されていた___
常世ノニ.太陽ニ棄テラレシ童神
蛭子は手足が不自由であったため、イザナギイザナミに棄てられ船で流された。
一説によるとここで蛭子は『死んだ』とされる。
蛭子は両親に殺されたのだ。
また、このような説も唱えられる。
天照大御神の別名は大日孁貴神、大日女と呼ばれる。
一方蛭子は日る子と書くこともできる。
本来、天照大御神と蛭子神は双神として産まれてきたのではないかという説だ。
しかし、蛭子は天照大御神と違い出来損ないの忌みものとして棄てられた。
__太陽はふたつも要らないからだ。
蛭子は誰からも望まれることなく、愛されることなく、存在を抹消され、ただ漂う。
光から嫌われたまま。
その身に誕生したことが罪であるという呪縛を抱えたまま。
3.蛭子と与幸吉
与幸吉は目を開く。
自分は死んだと思っていた。なのに__
(「なんで、こんな…こと…を…」)
「…三輪。……俺は。」
「おや?とうとうしっかりと目が覚めた?」
幸吉はよろよろと前を向く。
神々しいヒトとは呼べぬ異形が目の前で悠然と微笑んだ。
「私は蛭子。君の体を借りさせて貰っているよ。」
「…!!!どの口が!!!!!」
幸吉は蛭子のした所業を思い出し、睨みつけた。
蛭子の足は人魚のように萎えており、手は長い袖に覆われて見えない___恐らくは上手く動かぬのだろう。
子供のように幼い容姿をしている。
「ここは私と私だけの世界__領域。
さて、私はすこし驚いている。
私が私を止めるとは思ってなかったもので。
ああ、そんなに睨みつけないでくれ、私は私を気に入っているんだ。
『運命の出会い』と手放しに言えるぐらいには、ね。」
蛭子はそのままズルズルと蛇行すると、幸吉の体に絡みついた。
幸吉はぎょっと目をむく、さっきまであった手足が、無い。
「言っただろう。ここはなんでも思い通りになる世界なんだ。
言ってない?それは失敬。
でも君の魂は弄ろうと大本は変わらない。天与呪縛のものだからね。
私にもよくなじむってわけさ。
なんとも美しい姿ではないか。
手は欠けているか。もう片方はあるのが惜しいな。
膝から下は無く…腰から下は動かぬ。」
すささ、と触手のように蛭子の下肢が幸吉に絡みつく。
「下は未経験かな。
自慰の経験も?ああこれはいい!!最高だ!!
私の__童神の器となるのだからこれくらい無垢でなければね。
いままでこれほどのものはいなかったよ。何せ器に適合させるのはそれなりの年齢が必要でね。大体が経験か精通を迎えてしまう。
そして腰から下が完全に動かせぬ程の身体障害を持つものは、大抵は器として適合できる年齢まで生きておらぬのだ。」
顔を歪せ、伏せる。
おぞましいほどの屈辱だった。
「恥っているのか?
顔を見せておくれ、愛しき同胞よ。
ふふ、そんなに悲観するな。すぐに必要も無くなることだ。
私たちを嗤ったものは皆もうじき滅びを迎える。
そうして新たなる世界には、この不自由な身を愛するものしかいなくなるのさ。
…いや、これもおかしいな。
不自由は不自由ではなくなる。
私たちはもっとも完成された存在となるのだ。そうして
____全てに愛される。」
子供の悪戯のようだ。
幸吉はゾッとして、怯んだ。
きっとこの神は無邪気に、愛して欲しいといいながら、なんの罪も覚えず人を殺してしまえるのだと。
そうすれば自分を愛してもらえるのだと、本気で___
「なぜそれで、人を殺す必要がある!!!」
「わからないかい?君だってあの貴女に執着があった。
親愛か、母性愛かは知らぬが___でもどうだろうね。
彼女は君の本当の姿を見て愛してはくれるかい?
___無理だろう。だからこそ君は、ニンゲンと同じ姿を求めた。
それが最適な姿だと思ったからだ。」
幸吉は押し黙る。
それは、そうだ。だが…
「俺は、…愛されなくても、構わない…
彼女が幸せでいてくれればそれだけで…」
「本当かい?
私はね。幸吉。
私はこの世で最も私を理解してくれる存在だって思っているよ。
私たちは報われなければならない。愛されなければならないのだ。
だからこそ心外だな。キミは何故か私を止めようとしてくる。
この鎖は___」
幸吉は自分の首に鎖が掛かっていることに気が付いた。
一方は蛭子の首にかかっている。
「今気が付いたのかい?これはキミが私にかけたものだよ。
私たちは手足が無いからね。こういうところにつけなければいけないことは分かるが…いささか物騒ではないか?
これがあっては、計画を満足に進められない。」
自分は無意識にこの神を制御していたのだ。
ならば、この繋がりを意識して神を封じこんでしまえばいい。
幸吉は目の前の神に負けないように、覇気を練り直すと睨みつける。
イメージするは、調伏。
この神をねじ伏せるほどの___
「…っ、おっと。
何をした?キミ、割と我が強いね…
うん、仕方がないな。想定外ではあるが…対策は建ててあるよ。」
キミに無体は強いたくなかったんだけどね。
蛭子は幸吉と繋がる鎖を弄ぶ。
「私は10月20の夜に計画を起こそうと思っている。
___キミの命日の次の日。
キミの心が最も死に近づき、魂が最も死気に転ず日。10月19日。
その翌日だ。私が一年の中で2番目に力が強まる日でもある。」
next///
__________
常世ノ.大物主ノ祟リ、天叢雲剣ニ封ジ三輪山ニ祀ル
オオモノヌシノカミは事代主神と恵比寿と関連し、時に同一視される神である。
偉大なる精霊の王である大物主は三輪明神と呼ばれることもある。
姫は大物主の男が夜の暗い間しか姿を見せぬのを訝しみ、
「是非とも顔を見てみたい」と頼み込んだ。
男はこれを拒否したが断りきれず、「絶対に驚いてはいけない」と言い姿を現した。
朝になって姫が見ると、その男は小さな蛇であった。
これに驚いて叫んだため、大物主は自らの姿を恥じ三輪山に隠れてしまう。
姫は自らの行動を悔やみ、自害した。
その後、崇神天皇が災厄が多いので占ったところ、これは「大物主神の呪い」だとの神託があった。
この祟り神を鎮め封じるために天皇は天叢雲剣を三輪山に祀らせたのだ。
______________
蛯子概要
【蛯子】
ヒルコ(水蛭子、蛭子神、蛭子命、蛭児)。
また、エビスとも読む。
『古事記』において国産みの際、イザナキ(伊耶那岐命)とイザナミ(伊耶那美命)との間に生まれた最初の神。しかし、子作りの際に女神であるイザナミから先に男神のイザナキに声をかけた事が原因で不具の子に生まれたため、葦船に入れられオノゴロ島から流されてしまう。次に生まれたアハシマと共に、二神の子の数には入れないと記されている。蛭児が三歳になっても脚が立たなかったため、天磐櫲樟船(アメノイワクスフネ。堅固なクスノキで作った船)に乗せて流した、とする。
流された蛭子神が流れ着いたという伝説は日本各地に残っている。
『源平盛衰記』では、摂津国に流れ着いて海を領する神となって夷三郎殿として西宮に現れた(西宮大明神)、と記している。
現在、ヒルコ(蛭子神、蛭子命)を祭神とする神社は多く、和田神社(神戸市)、西宮神社(兵庫県西宮市)などで祀られているが、恵比寿を祭神とする神社には恵比寿=事代主とするところも多い。
平安期の歌人大江朝綱は、「伊井諾尊」という題で、「たらちねはいかにあはれと思ふらん三年に成りぬ足たたずして」と詠み、神話では触れていない不具の子に対する親神の感情を付加し、この憐憫の情は、王権を脅かす穢れとして流された不具の子を憐れみ、異形が神の子の印(聖痕)とするのちの伝説や伝承に引き継がれた。
海のかなたから流れ着いた子が神であり、いずれ福をもたらすという蛭子の福神伝承が異相の釣魚翁であるエビス(夷/恵比寿など)と結びつき、ヒルコとエビスの混同につながったとされる。
また、ヒルコは日る子(太陽の子)であり、尊い「日の御子」であるがゆえに流された、とする貴種流離譚に基づく解釈もあり、こちらでは日の御子を守り仕えたのがエビスであるとする。
一度死んで蘇った神。
恵比寿との同一視について
蛭子命が海からやってくる姿が海の神であるえびすの姿と一致したため、2神は同一視されるようになった。
えびすの本来の神格は人々の前にときたま現れる外来物に対する信仰であり、海の向こうからやってくる海神である。
福を与える神だ。
下記の漁業神、寄り神(漂着神)の他に純然たる水の神としての信仰も存在する。
この伝承の最古の例で、総本宮は【西宮神社】
恵比寿と事代主神・オオモノヌシノカミの同一視について
事代主神は託宣の神といわれ、記紀神話においても直接に水との関連はない。しかし、記紀神話の国譲りの項で、大国主神の使者が事代主に天津神からの国譲りの要請を受諾するかを尋ねるために訪れたとき、事代主が釣りをしていたとされることとえびすが海の神であることが結びつき、江戸時代になってから両者を同一視する説が出てきた
なお、えびす信仰が生まれる以前から事代主神を祀っていた神社で、後にえびすを祀ったものも多数ある。
事代主神は大国主神の子とされる。現在でも宮中の御巫八神の一柱になっているが、この神とは別神であるとする説もある。葛城には事代主神を祀る鴨都波神社(奈良県御所市)があり、賀茂氏(地祇、三輪氏同族)が祖神を奉斎したものと見られる。
また事代主神については、その系譜や世代関係(神武天皇の父母世代)からも実態は大物主神(オオモノヌシノカミ)と同一神であると考えられる。
大物主は『古事記』では【三輪家】の祖神とされ三輪家系統の神社でしか祀られない。三輪家、三輪山、大神(オオミワ)神社は関係が深く、大物主の祟りを鎮めるために大神神社に天叢雲剣を依り代として祀った。
三輪山は大物主の墓であり、天叢雲剣は敗者の剣である。
傀儡師と恵比寿信仰
西宮神社は戎信仰の総本宮である。
神人として人形繰りの芸能集団「傀儡師」が西宮神社の境内の北隣に居住しており、全国を巡回し、えびす神の人形繰りを行って神徳を説いたことにより、えびす信仰が全国に広まった。
境内に祀られる百太夫神は傀儡師の神である。中世に商業機構が発展すると、海・漁業の神としてだけでなく、商売の神としても信仰されるようになった
傀儡師の軍団は操り人形の人形劇を行い、女性は劇に合わせた詩を唄い、男性は奇術や剣舞や相撲や滑稽芸を行っていた。呪術の要素も持ち女性は禊や祓いとして、客と閨をともにしたともいわれる。傀儡女は歌と売春を主業とし、遊女の一種だった。
また、傀儡師の軍団は障がい者を含めたはぐれ物の集団だったと言われている。
エビスと不具性
上記でもあるように、恵比寿は水蛯子と同一視されているからか、足が不自由に描かれることが多い。
恵比寿神は現代こそふくよかで親しみやすく笑顔で描かれることがほとんどだが、本質的には捨てられた子であり穢れており大変醜く体が不自由な荒ぶる神である。傀儡師たちは荒ぶる神を封じ込める役割をもって、恵比寿信仰を広めた。
堕ちた太陽神
ヒルコは日神・月神の兄弟である。
日本神話における神は大抵男女一対の神「双神」だ。しかし日神天照大御神は女神で、もう片方の相方の男神が存在しない。
天照大御神はオオヒルメノムチ。ヒルメと呼ばれたため、ヒルコ・ヒルメは双神だったのではないかとする説がある。
しかし太陽は一つしかないため、ヒルメとヒルコは両立できす、太陽神として召し上げられたヒルメと反対に、ヒルコは人の姿を上手く持てない産まれそこないとして棄てられた。
そのためヒルコは兄弟の中で、月にも太陽にもなれなかった神の出来損ないとされる。
えびす講
えびす講の講は祀りであり、正月20日にある「十日えびす」と、出雲大社の神無月の裏でお留守番として残った恵比寿のための10月20日にあるえびす講がある。
関西のえびす講は蛯子を10月20日に祀るとされ、行事として定着している。
・井沢幡竜『広益俗説弁』巻三神砥
・オオクニヌシ 出雲に封じられた神、戸矢学、河出書房新社
・岩手大学教育学部研究年報第五一巻第一号(一九九一年一〇月)
童子神の変容-水蛭子から夷三郎殿へ-
中村一基
Wikipedia ヒルコ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%AB%E3%82%B3
Wikipedia 西宮神社
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E5%AE%AE%E7%A5%9E%E7%A4%BE
倭国神話の謎 天津神・国津神の来歴 相見 英咲 71-90